魔法祭3日目
「メアリー、あれからどうだ?」
「うーん、ベルアルに強制的に引き取られてからは、割といい生活してるよ」
「そうなのか」
「うん、三食寝床付き、たまに研究の手伝いもするけど、基本的には不自由なく生活してる」
「良かった良かった」
話し込んでいるうちに再び会場へと戻ってきた。
「じゃあ、私帰るね」
「もう帰るのか?」
「ええ、貴方がいるならここは大丈夫」
「分かった、また今度な」
「じゃあね」
軽く地面を蹴ると、彼女は空を飛んで遠くへと向かった。
「どうすっかな」
新しいエインヘリアルの開発なりを始めようかなと思ったけど、ベルアルが既に着手しているので、ここは思い切った行動に出る事にした。
「えーと、<魔導保管庫>に....あったあった」
先ほどのデコードした外神教の魔法陣の要素を1つずつ確認する。異神や外神召喚の特殊な魔法陣なら、もしかしなくても非常に強力な転移門として使えるのではないかとクロウは思っている。
「ふむふむ、なるほど......」
強力な外神を召喚できる魔法陣は、どうやら神聖魔法に似通った人々の<想像力>の力を利用しているようで、イメージを具現化するように、人々の想像に最も近しい神を引き込んでいるらしい。
「なんじゃそりゃ」
完全に魔法だよりのマッチングアプリとも言えないようなぐちゃぐちゃのような魔術要素にクロウは後頭部を搔く事しかできなかった。
「でもコンセプトは良いな、これをもとに新しく作ってみよう」
神聖魔法は一切使えないクロウだが、神聖魔法の理論は理解しているクロウである。そんなこんなで再び新しい魔法<魔想>を手に入れる頃には、5日後の魔法祭の決勝戦が始まろうとしていた。
「お待たせしましたぁああ!熱烈な魔法祭の予選を勝ち抜いた皆様方!ついに待ちに待った決勝戦です!」
ベルアル特設の<ワームホール>と言う超長距離移動装置で特設ステージにたどり着く。遠くの星と言うからにはいったいどのような人外魔境かと思っていたが、意外にも特設ステージは長閑な平原だった。ただ異常なのは、どこまで行ってもただただ平原のみが広がっている、平原しかない星でもあった。
「決勝戦はこちらでリアルタイム中継をしておりますので、皆さまご安心ください!」
他の惑星にいる決勝戦出場者達にも、聞こえるように本会場にいる放送部の実況者が大きな声で言う。
「それでは、決勝戦第一回戦、<名誉教授ちゃちゃ丸>vs<光炎のアルベロ>、試合開始!」
「魔術多重展開、<レディアント・インフェルノビーム>!」
アルベロと呼ばれた軽装を着た魔法使いは、後方に飛行すると同時に自身の周囲に無数の黄金色の魔法陣を展開する。瞬間、そんな魔法陣の中心からまばゆい光と肌を焼くような熱量を伴った光線が一瞬でちゃちゃ丸へと襲い掛かる。
「魔術動力炉起動、<ナハトの大口>」
リアクター型の魔術炉が起動すると同時に、カパッと動力炉がまるで生き物のように自身の中心から四方へと口を開いた。
「くっ」
初手で決めるつもりだったのか、アルベロの攻撃は不自然にちゃちゃ丸の魔術炉に全て文字通り食べられた。
「容赦しなくて良さそうだね」
アルベロの魔法を吸収したちゃちゃ丸の魔力炉は咀嚼するように吸収を終えると、ちゃちゃ丸の指示と共に激しく反応を開始した。
「キャパシティリミット解除、圧縮融合プロセス開始」
ちゃちゃ丸を中心に激しい魔圧が生じる。その圧力にアルベロは地面に押しつぶされ、動きが出来なくなっていた。上空で観戦しているクロウ達はなんともないが、相手をしているアルベロは意識は保っているものの、かなり無力感を感じているようだ。
「圧縮魔導砲、発射」
そのまま発射装置も使わず、ちゃちゃ丸は腕を振るっただけで魔術炉から圧縮された白い光線を地に伏せているアルベロに発射した。
「ま、参りました」
アルベロが降伏を宣言し、気絶すると同時にクロウがアルベロの前にテレポートする。特に何もせずに直撃してみるクロウだったが、素のステータスが高すぎるせいか、服が少し焼ける程度でなんともなかった。
「クロウ!ありがとう!全く聞こえなかった」
「おう、気にすんな」
放送部の熱烈な言葉と共に決勝戦一戦目の勝敗が言い渡され、すぐに二戦目に移る事になった。
「二戦目!皆さん注目の名誉教授クロウ先生と<蠱惑のメリナ>!勝負開始!」
「<ハイ・チャーム>」
際どい服を着たメリナと呼ばれる女性は予選から勝ち上がってきた魅了魔法の使い手であり、素の美貌も相まって男女共に魅了する絶世の美女と呼ばれている。だが、
「<ファイアボール>」
メルティのような強力なサキュバスのチャームをことあるごとに喰らっているクロウからしたら、普通の女性と大差なかった。




