魔法祭1日目
「<魔術動力炉起動><魔術砲編纂開始><出力向上:30%><発射速度増加:20%>」
クロウの魔導炉をモデルに、ちゃちゃ丸は<魔術動力炉>と言う魔法を起動した。背後に出現した動力炉のモデルはクロウのような聖杯型ではなく、リアクターのような円形をかたどっていた。
「<魔術砲>斉射開始」
ちゃちゃ丸の背後に彼女の魔術砲が完全なその姿を現す。30cmほどの飛行ユニットが8機、その形を三角形に空中分裂し、中心部に魔力を凝縮、発射する。
「<次元移動>」
クロウは魔力を左手に集め、魔術砲が着弾する前に何もない空間を引き裂いて足を踏み入れる。傍見るとクロウの身体が半透明になっている。だがあらゆる攻撃は当たらず、ちゃちゃ丸は必死にクロウに攻撃を当てようと頭を悩ませる。
「ちょっと!何よそれ!」
「どうどう、すぐ戻る」
アマネ達からメッセージが届いていたので、クロウは一旦無敵状態に入って返信をしていた。どうやら魔法祭にかこつけて、再び危険組織達が動き出したようだ。
「よし、じゃあ戻ろう」
クロウは再び空間を引き裂いて元の次元に戻る。ちゃちゃ丸も彼女の攻撃が再びクロウの魔法防壁等に命中している事に気づき、より一層苛烈な攻撃を繰り出す。
「<オクタゴンの魔導防壁>」
クロウの周囲に密集した八角形の魔導防壁が出現する。密集し、幾重にも重なり合ったその防壁は、ちゃちゃ丸の魔術砲が命中した瞬間、まるで溶け込むようにその砲撃を吸収した。
「<魔術砲再編纂><出力向上:200%><発射速度増加:200%>!」
無数に吸収される自分の攻撃を見たちゃちゃ丸は、居ても立っても居られないようにさらに攻撃の威力を上げる。先ほどより数倍の威力と発射速度になった魔術砲は、その余波だけでステージに多大な影響を及ぼしているが、相も変わらずクロウはその防壁の中でニコニコとちゃちゃ丸の方を見ているだけだった。
「悪魔の両腕・<ドレインタッチ>」
クロウは赤紫色の魔法陣を発動する。すると、ちゃちゃ丸の四方から同じような魔法陣が出現し、その中央から紫色の歪な腕が伸びて、ちゃちゃ丸の両腕両足をがっしりと掴んだ。
「んんっ!」
「おいっ!なんだその声は!」
ドレインタッチは単純に触れた者の魔力を吸い取る魔法のはず。悪魔の両腕を召喚してその魔法を使用するのは並みの魔法だとちゃちゃ丸のクラスⅥの防壁に防がれるからだ。
「な...なによこれ....」
それなのになぜかどんどんとだらしなく力が抜けていくちゃちゃ丸。おかしい、十二分に何かがおかしい。
「審判!裁判官!ちゃちゃ丸名誉教授は戦闘不能です!誰か!担架!」
「だ、だめぇ....」
「誰かー!!!大至急ッ!!」
そんなこんなもあって、魔法祭の1日目は無事に開催した。
***
「きひひ....見てくださいよ....こんなに生贄が一杯....全部捧げたら...きひひひ」
「そうだな、今は王国中の人間が集まっている。もし全員昇華させられたら、たまらないだろうなぁ」
「兄さん、ヤる?」
「そうだな、ヤるか」
それぞれ右半分の身体と左半分の身体の爛れと腐敗を包帯で乱雑に隠した邪教徒兄弟は、空に合図である信号弾を放つ。その瞬間、聖セシリア学園を中心に、空に巨大な赤色魔法陣が展開された。
「母なる我らが母神よ!御身の為の生贄をお受け取りください!」
***
「ん?なんか見たことあるなあれ」
マニアマジア達と合流するはずだが、空にいつしか見た事のある儀式系魔法陣が浮かんでいる。
「あれは....外神教?」
昔の妖王騒動の際に、血と肉の祭壇で同じ魔法陣を見たことがある。
「その声、アマネか!」
「クロウ!」
純白と黄金で作られた鎧を身に着けたアマネは、クロウに駆け寄ってくるが、それだけでクロウは少しずつHPが減っている事に気が付いた。
「あばばばばばばば」
「あっ、そうだった」
アマネはメニューを開いて、装備を変更する。
「ふぅ、それで、避難は出来そうか?」
「それが、空に浮かぶ儀式魔法陣のせいか、出入り口が封じ込められている。出られない...」
「やばいな」
「ああ、だから私たちは直接魔法陣を操作している奴らを叩きに行く。クロウは魔法陣の穴を見つけて破壊してくれ」
「分かった」
以前の際、神聖魔法を持たないクロウはあいつらに四苦八苦していた。今はアマネがいるので、多分大丈夫だろう。
「<スキャン>」
クロウは空に浮かぶ魔法陣の穴、つまり脆弱性と言うべき場所を見つける。目を凝らして隅々まで探すが、唯一見つけたのは元の魔法陣に追加された、儀式加速の魔法陣だけだった。
「魔力弾」
クロウは右手で拳銃のポーズを取り、その魔法陣の穴目がけて撃ち出す。魔力弾が命中した瞬間、空に浮かぶ外側の魔法陣は粉々になった。




