聖女殲滅です
一週間後の金曜日夜、確か今日から新大陸の侵略軍がポータルを開けて攻め込んでくるはず。
ペトロデルのどこで空くかわからないが、既に全ての都市に防衛軍を配置しているので、どこにポータルが空いても問題ない。敵の規模や強さがまだわからないので、全員、新開発した小型魔導装甲兵器を装備している。それから、待てども待てどもポータルは開かず、各都市の状況を魔導通信機で確認しても、どこもいつも通り平和であり、反面、魔導飛行偵察機で上空から他の王国の状況を確認すると、各国はかなりの悪戦を強いられていた。西部王国は魔法砲撃を繰り返しているが、向こうにも魔法障壁があるようで、効果は半減し、西部王国兵が悪戦を強いられている。南部王国も同様で、新しく水と木の術を使って応戦するも、全ての敵軍に効くわけではなく、じりじりと押されていた。東部王国は白兵戦では優位に立っているものの、敵兵の強力な魔法砲撃に対する有効的な魔法防壁が維持できず、敵兵との押し問答が続いていた。
一方、北国ペトロデルと言うと、全くポータルが開く気配もなく、ベルアル達はいつも通りの日常を送っていた。クロウはと言うと、いつぞやの教師姿になって、西部王国の迎撃軍に応募していた。
「書類お預かりいたしまーす」
西部王国の係員に記入済みの書類を渡し、無事に魔法砲撃部隊に編入された。
まずは砲撃部隊の威力を測るということで、いつぞやの国立学園の的で砲撃部隊の魔力測定をしていた。他の人は平均して200近くあり、やはり魔法王国としての実力は確かなものだった。クロウも魔力198くらいの魔法で無事に合格し、一週間後の迎撃戦に参加することになった。再び金曜日、他の魔法兵と共に西部王国の王都から二つ都市を挟んだ場所にクロウ達は今回のポータルがあるという情報を知らされ、今か今かと待機していた。そうしていると赤紫色に空間が曲がり、ぞろぞろと敵兵が出てきた。クロウはこっそり魔法で敵兵を見てみる。白銀の鎧を身に着け、大きな金色の旗印に聖十字架が刻まれた宗教観たっぷりの軍隊が現れた。それを見た瞬間、クロウは体内の力が暴れだしたのを感じた。魔王や魔帝、その他冥府に住まう神聖嫌いの冥王たちが暴れだそうとしていた。それから暫くして、攻撃が開始すると、クロウは他の魔法兵に習って、ぽこぽこ魔法を敵軍に放った。だが神聖属性の魔法防壁には効きづらく、敵の軍隊は以前と変わらない速度で行進を続けた。
「第三次聖戦、開始ぃいいい!私に続けぇええ!」
敵兵の先頭に立つ金髪色白の聖女が剣を抜き、雄叫びを上げると、敵軍は全員突撃を開始した。
そうして前線に立つ西部南部東部の混合軍隊と暫く戦っていると、あっとう言う間に前線は敗走し、敵の銀箔の騎士団がクロウ達のいる後方魔法兵隊まで攻め込み、あっという間に迎撃軍も敗走した。クロウも他の魔法兵に習って、ちりじりに逃げ、西部王国の都市を落とそうと躍起になっている今回の侵略軍の後方にこっそり潜伏した。
夜間、野営地で休憩している敵軍を発見したクロウは、早速新しい魔導術式を起動した。
「擬似魔導魔力炉起動、出力上昇」
クロウがそういうとクロウの頭上に透明な山ほど大きい巨大な青い魔力炉が生成され、ゆっくりゴゴゴという重たい音を上げながら稼働した。その瞬間、魔力炉は周囲の魔素を吸い込み、内部で何かと何かがぶつかる様な音が鳴りだした。それをクロウが確認すると、続けて違う魔導術式を起動した。
「大型魔導殲滅砲、天雷に接続、充填開始」
新型アプデにより、新発見した鉱石と機神と全知の書で作り上げた北国ペトロデルの衛星兵器の一つ、天雷。本来はペトロデルにある魔導魔力炉を稼働させて使用するが、クロウは自分で擬似的な魔導魔力炉を作り出せるので、問題なく天雷を使用できる。そうして魔力炉から魔力の塊が光の柱となって一直線に天に登り、星に浮かぶ天雷へクロウは座標を指定した。
「充填完了、目標、新大陸侵攻軍野営地」
天雷の発射口が野営地の方向を向いたのを確認すると、クロウはためらいなく、
「発射」
と言った。
***
新しく交流を持った人間大陸の西部、通称、西部魔法王国で邪教徒が活動しているとの知らせを受けた。丁度、西部王国の使者も来ていたので、彼らと共に西部王国へ赴き、内密で調査を進めたところ、既に邪教は西部王国を骨の髄までむしばんでいた。国王は国民を魔力種と呼称し、絞れば絞るほど価値があると言い、部下や家臣たちも赤子の骨で作った指輪やアクセサリーをさも当然のように見せびらかしていた。悍ましい、なんと悍ましいことか。この件を私はすぐに国に持ち帰り、聖主に話したところ、すぐに西部王国討伐を決断した。新大陸の唯一にして最も神聖な国として、私たちには西部王国のような邪教の国が他の国に攻め込む前に芽を摘んでおく必要があった。それから何度も聖戦を仕掛け、今日、ようやく邪教の国の街を一つ救えそうだ。邪教徒の軍隊を敗走させ、休む間も惜しんで近くにある一番大きな都市へ向かう。ここには既に多くの無垢な人々が洗脳され、我々に抵抗を繰り返していた。だが今晩、聖教徒たちを休ませ、明日の朝、再び攻撃を仕掛ければ、きっと彼らを救えるだろう。そう思いながら私もテントで休憩していた。
次に目を覚ましたのは、外にいる見張りの兵士が、聖杯が現れたと声を上げながら野営地を走り回る音だった。私も急いで外に出てみると、私たちの野営地後方に、大きな聖杯がカンカンと音を出しながら燃え盛っていた。そして全員それに見とれていると、聖杯から光の柱が天に登った。最初、私は天より神が降臨すると思い、空に祈りを届けていてが、聖女としての直感が私に一瞬の幻覚を見せた。聖杯が光の柱を届けたのは、神ではなく、羽が6つ生えた巨大な眼球だけの邪神、星の外から私たちを見下し、滅ぼそうとする魔神。気づいたとき、私はできる限り大きな声で周囲の兵士に散開するように、全力で逃げるように言ったが、時すでに遅く、私の野営を飲み込むように、天から神罰が下った。痛みも苦しみも何もなく、ただ次々と私たちは光の柱に飲み込まれて消滅していくだけだった。
「神よ...」
神罰抗いがたく、教徒祈るしか能わず。
それが新大陸に残った、聖戦の結果を表す言葉だった。
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