アルイタ討伐戦その4
「こ、これは....」
機械の人馬が持ってきた物資には、プレイヤーの間でもごくわずかにしか流通していない、星Ⅷクラスの回復薬やクロウの特注(一括製造)した反魔力防壁加工を持つ剣や槍の他に、多くの食料や水も含まれていた。
「我が主人より、これをチャーリー殿に服用させよと」
城内で必死にけが人の治療をしている聖女らしき人物にケンタウロスの1人が近づき、小さな丸薬を渡した。シュレミーが<鑑定>をしてみると、そこには星Ⅸクラス<賢者の秘薬>と書かれていた。
「こんなアイテム、見たことない....」
秘薬の効能はスキルデメリットの打ち消しとクールダウンタイムリセット。その効果は凄まじく、気を失っていたチャーリーもすぐに目を覚ました。
「お?てっきり2日くらい寝込むと思っていたんだが?」
起きて早々、チャーリーは体をぶんぶんと振り回す。疲労感も何もなく、まるで先ほどまでの戦いなどなかったような体感だった。
「そうだ、今の前線はどうなってる?」
「大勝利よ、北領大公と呼ばれるプレイヤーが鳥のような空軍とケンタウロスみたいな騎兵を連れて相手を蹂躙しているわ」
「マジか、ちょっと見てくる」
シュレミーの休憩とスキルによる身体検査も振り切って、チャーリーは最前線にテレポートする。
「ケンタウロス、敵軍右翼へ突撃を開始、その後迂回して敵中央軍へ再度突撃、瓦解した敵への砲撃と照射を止めるな」
「おーい!そこのプレイヤー!」
野太い男性の声がする。振り返ってみてみると、星Ⅷクラスの全身鎧を着た白髪壮年の男性がこちらに手を振っていた。クロウは彼を鑑定してみると、頭上に<鉄壁城塞>のチャーリーと書かれていた。戦場はそのままに、クロウはチャーリーの元へやってきた。
「初めまして、チャーリーさん?」
「おお、ご丁寧に、チャーリーだ。呼び捨てでいいぜ」
「助かる。クロウだ」
「よろしく、早速だけど、あれはお前が連れてきたのか?」
チャーリーと仲良く握手して話し出すクロウ、となりにいるシュレミーは物凄い形相でこちらを見ている。彼女とは色々怨念があるからかな。しょうがないね。
「そうだ」
「ありがとう、前線が崩壊する寸前だった。お前の援軍が無ければ大変な事になるところだったぜ」
「だいじょぶだいじょぶ、それで、この後はどうするんだ?」
「そうだな、とりあえず目の前のビシュロで戦力を立て直したら、何人か守城スキルが多いやつらを残してもう1つの前線城であるロクミを奪還しに行く」
「了解。じゃあこいつらは残しておくよ」
クロウは後方の機械兵達を指さす。
「助かる。お前はどうするんだ?」
「そうだな、元々ジュレンに急襲する予定だったし、作戦を再開するよ」
「1人でか?」
「そうだな.....それしかないだろう」
「危なすぎる。俺達は死なないとは言え、デスペナ喰らったままでの戦闘は難しい、それに....」
「だいじょぶだいじょうぶ、それじゃ」
クロウは心配するチャーリーを他所に、再び空へと飛びあがった。ホルスとケンタウロスを指揮している間は、魔法使いらしく魔法で空を飛んでいたが、プレイヤー達がクロウの姿を確認できない距離まで飛ぶと、サンダーストームに換装して、ジュレンへ高速飛行を開始した。
***
「<サーチ>」
探査系スキルの合成系である<サーチ>スキルで、ジュレン城上空から生存者を探してみる。結果は0。
蛮族兵達が1人残らず住民を全て殺したようだ。クロウは右耳のアクセサリーの1つである、ソラとの通信機を起動する。
「ソラ!第1第2第3発射台のロックを解除しろ。魔弾を使う」
「了解しましたマスター、第1第2第3発射台のロックを解除」
ソラにジュレンの座標を伝えると、彼女のカウントダウンが始まった。
「第1第2第3魔素分裂弾発射シークエンス開始、10、9、8....」
ジュレン城から逃げ出す存在は確認できず、ただ居住区の中の一番大きな家で、一人の男が屋根越しにこちらを見ている事に気が付いた。クロウも本能的に彼が魔王であると気付く。
「3、2、1、発射」
北領から巨大なミサイルが発射される。3分ほど経った後、クロウは自身の後方から轟音と共に3つの北帝紋章が刻まれたミサイルが目の前の城に降下していくのを見届ける。3つの魔弾が全て同時に着弾からコンマ数秒、クロウすら目を開けられぬほどの光と熱量が放たれた。人の身では抗いがたいその熱量と圧倒的なエネルギーが収まるころ、着弾地点周囲の砂漠は一部が結晶化、ガラス化しており、ジュレンの城があった場所には1人の男を除いて、何も残っていなかった。
クロウはゆっくりと今だ高熱の地表に降り立つ。ミューランの時同様、上半身の衣服が吹き飛んだ白髪褐色の男性が立っていた。
「......」
クロウと目の前の男、アルイタは何も言わない。だが、何かするよりも早く、クロウは鎖を5本解除して、戦闘態勢に移った。




