アルイタ討伐戦その3
「チャーリー!」
城壁化が終了したチャーリーは人型に戻ったが、白目を剥いて気絶しており、どうやら孤城独守の反作用による強制ログアウトが行われたようだ。
「装置は破壊された!全軍突撃!まずはビジュロを奪還するのよ!」
ジュレンの右方向を守る城とも言える前線居城の1つは、プレイヤーの約3割のデスを引き換えに奪還する事が出来た。だが、すぐに立て直した蛮族兵達がビジュロの城を包囲すると、彼らはビジュロへの補給線を遮断。兵糧攻めに加え、先の戦場でのMPを吸い込む装置が今度は4つ、それぞれビジュロの東西南北の方向で起動したことにより、プレイヤー達は完全に包囲されてしまったと言える。
幸い、一足先にカバネの元へ戦況報告に向かったアマネの元にこの現状をアカリとホムラが伝えたので、数日もすれば増援の砂王兵がやってくるだろう。だが、長年カバネ達砂王兵がそれを考慮していないわけもなく、増援部隊もビジュロへ向かう道の途中で襲撃され、足止めを喰らった。
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兵糧攻めから2週間、プレイヤー達の食料も尽き、全員が<渇き>と<飢餓>のバッドステータスに苦しんでいる中、蛮族兵達は時期を見計らったようにビジュロへの攻撃を再開した。既に数多くのプレイヤーが蛮族兵に殺されたり、<飢餓>のバッドステータスの最終形態である<餓死>によってデスポーンしたりしている。そうして度重なる襲撃と飢餓による二重攻撃で、今回のイベント攻略は絶望的だと思われていたが、そんな落ち込んだ雰囲気は聞きなれない空を飛ぶ高速機動音によって打ち破られた。
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「今回の魔王は滅茶苦茶頭がキレる奴なんだなこれ」
別動隊として冥凍兵を率いてジュレンに急襲を仕掛ける予定だったが、アマネから正面戦線の部隊がまるまるビジュロの城に閉じ込められて兵糧攻めに合っていると聞いて、居ても立っても居られなくなった。
以前の生まれたての魔王やミューラン達魔王の息子とは違い、アルイタは頭の回る魔王なのだと納得した。クロウは突如率いている砂王兵達に停止命令を出し、転移ゲートを開いて彼らをカバネの元に返した。戸惑う彼らにクロウは前線の悪状況をカバネに使えるように言い、後はカバネの命令を聞くように言った。
クロウは戸惑う彼らを急いでゲートに押し込む。全員戻ったのを確認すると、クロウは自らの領地である北領に戻り、準備していたホルスとケンタウロスを全て起動した。
「モデルA-ホルス起動、モデルC-ケンタウロス起動!」
クロウ領の軍工場から無数の鳥人間型のロボットが飛び上がる。同時に、地下倉庫からもけたたましい蹄の音と共にどんどんと地上に姿を現した。
「エインヘリアル起動:サンダーストーム」
空中戦闘及び空対地爆撃に特化したステルス戦術爆撃戦闘機。アルイタの戦闘力と魔王の生命力も考慮して、クロウは容赦なく現代技術を持ってして彼らを灰塵と化すつもりだ。
「総員出撃、筆頭機に追尾しろ」
クロウはエインヘリアルを変形させ、飛行モデルに移行する。搭乗者は丁度うつ伏せにのような姿になるので、流線型を保ったまま高速飛行が可能だ。他のネフィリムにサンダーストームを筆頭機とする指示を出し、そのままビシュロへ移動を開始した。
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空を切り裂く加速音は、まるで嵐のように彼らの頭上を通過する。流線形の大きな鳥は、空を駆け回る鳳凰のように地上の人々を見下ろす。攻城戦の真っ只中だというのに、人々は首をもたげ、空を仰ぎ見た。だが、そこから見えるのは、昼間の太陽を覆い尽くすほどの鳳と、その鳳が両翼にチャージしている淡い光のような塊のみだった。
「モデルA-ホルス、対象を目視範囲内の全蛮族兵に、一斉照射、開始」
空を埋め尽くすほどの鳳は、その翼から日の光を地に降り注ぐ。光に照らされた蛮族兵は、その圧倒的な熱量に影響され、声を上げる間もなく絶命した。
「城内に入る全プレイヤーに告ぐ。今すぐ城内に戻り、建物の元へ避難しろ。窓辺を避け、光から身を躱すように。繰り返す.....」
クロウは三度告知を繰り返すと、攻城最中の蛮族兵への照射も開始した。幸い、防城のプレイヤー達は上手く隠れ場所を見つけたようで、何とか照射の避ける事が出来た。
「旋回開始、モデルA-ホルスはそのまま砂王増援部隊まで向かうように、モデルC-ケンタウロスはそのまま後方より入場、支援物資を場内で配給、完了次第反攻を開始」
指示を受け取ったホルスとケンタウロス型のネフィリム達はそれぞれの行動を開始した。その間クロウも何もしていないわけではなく、サンダーストームに装備している<反魔力防壁>加工を弾頭に施したミサイルと機関銃を使用して残存兵力を処理。機関銃の爆音とミサイルの爆発音は、その名に恥じぬ轟雷音と嵐のような恐怖を蛮族兵達に植え付けた。
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