アルイタ討伐戦その2
「別動隊、蛮族兵達の騎兵突撃と魔法砲撃の双方の中で戦線を維持するのは難しい、よって、これからの攻撃は全て俺1人が受け止める、もって30分と言った所だ、その間に装置の破壊を任せたぞ」
チャーリーはそれだけを装置破壊に向かった別動隊に言うと、今度はシュレミーに連絡した。
「シュレミー、孤城独守を使う。どうにか30分持たせてくれないか?」
「チャーリー、この大軍を1人で耐え抜くつもり?副作用が数日続くかも分からないのよ?」
「仕方ないさ、今ここで全滅して立て直すよりマシだ」
「そうだけど....」
「信じてるぞ、シュレミー!孤城独守!」
それだけ言うとチャーリーは自分の奥義であるそのスキルを発動した。
<孤城独守>
使用者のHP50%と30分間の<城壁化>状態を自身に付与する事を引き換えに発動。30分の間、敵のあらゆる攻撃は使用者のみを対象とする。使用者は発動した瞬間から、あらゆる被ダメージを70%減少する。
<城壁化>
この状態異常は解除不可。<城塞化>の効果を受けた人物は自らあらゆる行動を行うことができず、回復系統の魔法・魔導以外のあらゆるスキル・特性・魔法・魔術、魔導の効果を受けない。
最前線に立っていたチャーリーは突如として戦場を分断するほどの巨大な城壁になった。彼本人も城門の上の大きな石像になっており、プレイヤー達へ向けて放たれていた魔法攻撃は全てその城壁へ飛んで行った。
「ヒーラーは私と共にチャーリーに回復魔法を、それ以外のメンバーは装置破壊と急いで!」
魔法攻撃も騎兵突撃も全て城壁になったチャーリーへと飛んでいく。数回チャーリーの城壁に大きな傷が入ったが、回復魔法が追い付くと、それらの傷は無かったもののようにすぐに塞がった。
***
影丸とゼクスが装置に着くと、彼らはすぐさまホースに繋がった魔法使い達を一撃で倒す。装置の開閉が無いか探していると、頭の上から声が聞こえてきた。
「お腹空いた~」
突如ごっそりの自らのHPを削られた事に気が付いた2人は一旦距離を取る。
「貪欲な大口」
少年のような人物は装置の上に座っているが、ごりごりとHPが減っている所から、目の前の少年は魔王である事が分かる。
「こんにちは、<暴食>の魔王、グランです。よろしく」
少年は礼儀正しく彼らに一礼すると、再び大口を開けて彼らのHPを吸収しだした。毎秒1%のHPを吸収し、恐らくは自ら回復しているのだろう。2人は目の前の少年の一定範囲内にいると、自分のHPを吸収され、目の前の少年の身体に緑色の回復効果が表れているのが見て取れる。
「近づいたら吸われる、離れれば装置が破壊できない、一体どうすれば」
ゼクスがどうすればいいか分からず、あれこれ考えていると、再び少年が大きな口を開けて吸収を始めた。それを見た影丸は閃いたようにアイテムボックスから何かを取り出すと、少年の口を目がけて投げ込んだ。
口の中目がけて何かを投げ込まれたグランは反射的に口を閉じる。
「......うううう!酸っぱいぃいい!」
グランは口を開けて吐き出そうとしているか、そういうわけにもいかず、何度も何度もぺっぺっと口の中の物を吐き出そうとしているが、なかなか治らないようで、暫くすると泣きながらどこかへ走り去った。
ゼクスは影丸に何を投げたのか聞いてみると、害虫退治用の酸っぱい粉と言っていた。そんな小さな戦闘も挟んで、2人はあっという間に装置を破壊した。
***
***
「憤怒!怒り!<憤怒>の魔王、アーランが相手をしよう!」
ペデロと辰巳が装置に着くと、辰巳と似た赤肌怒髪天で筋肉隆々な男が2人を待ち構えていた。
「ペデロ、あいつは俺が相手をする。お前は装置の破壊を頼む」
「了解した」
「憤怒!俺を無視するだと!」
「お前の相手は俺がしよう!」
二頭四腕の辰巳とアーランは正面から斬り合う。お互い刀と剣を使う相手であり、命を顧みない2人の攻撃は時間が経つごとにどんどんと苛烈さを増していき、お互いに相手を斬り殺さんとお互いの殺気も高まっていた。
「む?」
突如、アーランは何かを受け取ったかと思うと、一旦辰巳の剣を強めに弾いて距離を取った。
「.........承知」
アーランは何かに返事すると、壊れた装置を尻目に、辰巳とペデロに別れを告げた。
「目的は果たした。さらばだ2人とも」
それだけ言い残すと、彼は空高く飛び上がり、空を踏むように遠くへ引いていった。
***
どうにか装置は28分と言った所で破壊に成功した。それにより、後方だけではなく戦場にいるヒーラー達もチャーリーに回復する事ができるようになり、彼もどうにか30分間耐え切る事が出来た。




