砂王カバネとアルイタとの戦争準備
急報を受け取った後、クロウはクロセルべ西部辺境、セシリアの義理姉妹である砂王カバネに会いに行くことにした。理由はクロウが直接アルイタの軍勢を確認すると同時に、セシリアが度々言っている砂王に会いたかったからだ。今回は王宮からではなく、クロウ領のテレポート装置から直接、砂王領の転移ポイントまで転移する。近くにいる兵士に援軍の身分を表すクロセルべ特有の兵符を見せると、彼らはすぐさま王宮へ走り出した。一般人と同じくらいにしか見えないクロウ1人がなぜその兵符を持っているか分からないが、兵符自体は本物に違いないので、細かい事は砂王の判断に任せる事にした。
「何?すぐにここに連れてこい」
カバネはすぐにクロウを連れてくるように言う。戻ってきた砂王兵に案内されるようにクロウも彼女の砂の王宮に向かった。
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初見、彼の印象は普通の一言に尽きる。自分の義理姉貴分でもあるセシリアの恩師であり恩人だと言う彼は、一体どのような魑魅魍魎かと思っていたが至って普通の人間だった。もしかして違う人を派遣したのか?だがセシリアが通信石を通して直接言ったんだから間違いないと思ったんだが....
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「初めまして、カバネ王、聖女様から北領大公の名をいただいた、クロウと申します」
西部砂王の謁見の礼をセシリアから習って見様見真似で一礼する。ぎこちないが、誠意は伝わっただろう。北領大公はセシリアとの相談の結果新しく貰った冠名であり、以前のように北帝大公を名乗るわけにもいかないので、クロウ領が王国北部にある事を考慮し、北領大公を名乗る事にした。
「おう、早速でわりぃけど、お前はどこまで戦えるんだ?」
「どこまでと言うと?」
「お前はどのくらい強いってことだよ?」
ホムラに似た褐色の肌色を持つ、橙色の髪の筋肉質な女性が王座に座っていた。恐らくクロウの強さを問いただしている彼女がセシリアの義理姉妹のカバネだろう。
「砂王将!整列!」
突如勇ましい声を上げたカバネの声に遅れることなく、彼女の左右に控えていた逞しい砂王将が武器を構えてクロウの方を向いた。
「ひー、ふー、みー」
「大公、腕試しはどうだ?」
「魔圧」
「ぐおっあ」
「くっ」
「うぅっ」
「がはっ」
鎖を3本ほど解除し、容赦なくMP量で威圧する。思ったより良く聞いているその様から、彼らのMP量は思ったより少なく、肉体派のようだ。流石にカバネには圧をかけていないが、王宮魔導士らしき杖を持った女性も膝を地面に着いている所から、砂王将はほぼ全員肉体格闘派なんだと納得した。
「砂王、信用していないのか?」
クロウはカバネを睨みつける。
「あっ、いや、済まない、貴殿の力を試したかっただけだ」
カバネの納得した顔を見て、クロウは魔圧を解除する。何人か魔法耐性の無い将軍は気絶してしまったようで、カバネの目配せで素早く医務室へ運ばれた。
「砂王、早速話を聞いてもいいか?」
「え?あ、ああ」
カバネは早速クロウに斥候の持って帰ってきた情報を包み隠さず全て話した。
「なるほど、アルイタはほぼ全軍を突き連れてやってきたと」
彼女曰く、確認できただけでも先鋒50万人が砂漠から馬に乗ってこちらにやって来ており、既にいくつかの城塞が陥落している。なぜこの50万人が先鋒だと気付いたかと言うと、先鋒が城塞を陥落させた数日後、更に後方から50万人相当の優良な装備を持った逞しい大軍勢が城に入ったからだ。
「カバネ、俺はどうすればいい?どこまでやってほしいんだ?」
「今回は完全殲滅、西部蛮族共を1人残らず砂漠に埋めてほしい」
「分かった。じゃあ準備をしてくる」
クロウはわざとらしく彼らの前で右手を振るってテレポートゲートを開けると、そのまま中に入ってクロウ領へ戻った。
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恐ろしい男だ。砂王将は確かに武闘派で知られる肉体格闘派が多くあるが、まさか王宮魔導士も同じように魔圧に押し負けるとは。彼女はセシリアの元から直接引き抜いた国内での屈指の優れた魔法使いのはず。そんな彼女も安々と平伏するとは.....面白い
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「ふふふふ、ふははははは!」
手で顔を覆って高らかに笑うカバネ。彼女はまるで積年の恨みを晴らせるという嬉しさか、それともクロウの底の見えない強さを気に入ったのか、王座に座った彼女は堰を切った水のように、とめどなく分かっていた。
数分後、ひとしきり笑い終えた彼女はすぐさま立ち上がり、王としての命令を出した。
「全軍出撃準備!長い戦いを終わらせるぞ!」
カバネの命令に呼応するように、砂王将達もすぐさま自分達の兵営へ向かう。翌週、<アルイタ討伐戦>と言う西部蛮族との決着をつける戦いが始まろうとしていた。
同時期、運営からも緊急イベント<略奪の魔王>討伐戦の開催が発表された。流石のクロウも偶然が過ぎるだろと思ったけど、今回も以前のように討伐報酬や殲滅数報酬があるので、特に何も言わずに参加する事にした。




