緊急クエストです
10騎で街を破壊し、100騎で都市を均し、1000騎で城塞を更地に変えると言われた<鉄雲屠>が3万騎。ゆっくりと、しかし着実に北狼兵と入れ替わりで突傑族の本拠地へ加速を開始した。3万の<鉄雲屠>が引き起こす地均しの音には、ベルアル達と戦っている前線の突傑部隊の耳にも入り、急いで彼らは引き返した。突傑族本隊が地鳴りのした方へ戻ると、本拠地だった場所には何も残っていなかった。牧草地だと言うのに、ぽっかりと更地が出現していた。そしてその更地の中央に、<鉄雲屠>の悪い癖と言うか、悪い習慣と言うか、彼らは殺した兵士や戦士の頭を刈り取って一か所に集めて見せつける己の存在を見せしめる。そういう悪癖があるのだ。それを見て怒り狂った突傑族は雄たけびを上げて、別動隊を探そうと再び動き出したが、後方の北王軍団と前方から再び聞こえてきた地鳴りの<鉄雲屠>の軍団をみて、彼らは諦めたように最後の突撃を開始した。数時間後、本隊を一人残らず均したベルアル達は、クロウ一人を残して北国ペトロデルへ帰還した。そのクロウはと言うと、引き続き<鉄雲屠>を引き連れて引き続き他の突傑族を探し回った。クロウは胸の前に刻んだ術式の10%を起動し、MP自動回復量とMP上限を更に増やし、より多くの<鉄雲屠>を連れて、ペトロデル牧草地帯を駆けずり回った。
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突傑族
西部から北部にかけて、膨大な人口と領土面積を持つ遊牧民族だ。農耕を知らぬ彼らは、西部王国の辺境でたびたび略奪を繰り返しては撤退していた。突傑族は西部王国の弱さを揶揄して、二本足の子羊の国と呼んでいた。西部王国も一度は反撃しようと牧草地帯に攻め込んだが、膨大な広さの蛮族領に迷い、危うくほぼ全兵力に近い4万の兵士を失いかけた。それから西部王国は、毎年多くの食料、馬、金品を納品する事で暫くの安定を保った。だが反面、突傑族への毎年の年貢のせいで、魔法王国としての発展が著しく阻害された。そうして突傑族は着々と力をつけ、他の蛮族も吸収合併し、近年まれにみる巨大な部族になった。そうして驕ったのか、はたまた気まぐれなのか、北国のペトロデルの辺境都市に攻撃を仕掛けた。ペトロデルの辺境都市は西部王国とは違い、びくともしない城壁に、見えない魔法や魔術の攻撃、そして空から降ってくる悪魔の落とし物(時間差魔術爆弾)に危うく全滅しかけた。だが50万を超える膨大な戦士を持つ突傑族の長は不遜にも西部王国にしたように、ペトロデルの支配者にも年貢を納めるように使者を出した。
だが、使者がその場で殺された事を皮切りに、全ての歯車が狂った。どれだけ引き絞った弓で放たれた矢でも貫けない、まるで祖先が還る霊山のような心知れぬ感情に襲われた。そうしてその山を越えようと、何度も攻撃をしていると、大地が揺れるのを感じた。祖先の家訓の中に、地鳴りは災厄の知らせというものがある。長閑な草原中に響き渡るほどの大きな地鳴りは強力なモンスターか敵対勢力の攻撃だと祖先の経験がそう語っていた。そして今、祖先が怯えた地鳴りが自分たちの後方から響いてきた。目の前には祖先の霊山が、後方からは災厄の地鳴りが響いていた。どうやら、今日が霊山に還る日のようだ....
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それから数か月、クロウはペトロデル牧草地帯を完全に踏破した。突傑族も完全に北部から追い出され、再び西部王国に小さな略奪を繰り返すだけの小さな蛮族に格落ちした。元突傑族の領土は完全に併合され、雄大な牧草地は一部を巨大な農場、魔油採掘場、魔導試験場、魔導魔力生成場にしたり、より一層の繁栄をもたらした。同時に、北部の更に広がった山脈の中から、また新たな鉱石、コラテラル・クリスタルやマナベール鉱石、悪魔の瞳に魔王の心臓などなど、それらの新しい鉱石がクロウとベルアルの主導の元、新しい魔導兵器やアイテムに利用され、そしてついには搭乗型の人型魔導兵器も実現した。魔素と燃料に、魔王の心臓をコアにした空と飛ぶ人型魔導兵器・白騎士と黒戦士は北国と他の王国との格差を永遠に覆せないものにした。
一方その頃、他の王国はと言うと、南部王国は少しずつだが、ちゃくちゃくと南部の蛮族を撃退し、彼らの水と木を操る術を身に着けた。東部王国は流浪の武士から剣術と刀の鍛え方を学び、諜報だけでなく、戦闘力も一段階上がった。西部王国はと言うと、邪教徒討伐の際に、一部の魔法使いが堕落し、魔王や邪神の持つエネルギーに魅入られ、教会派の裏でこのエネルギーを使用して密かに邪神信奉者が邪教徒を増やしていた。
そして、クロウはまたLv上げのために各地の新ダンジョンに行ったり、ワールドボスを倒しに行ったり、ベルアルの所に遊びに行ったり、クロウ領の図書館から今まで資源の限界によりできなかった技術を再現したり、また存在しない異界の技術も作り上げたりなど、暫く研究開発な日々が続いた。研究室での研究も落ち着いた時、久しぶりに新しいイベントが開催された。どうやらクロウ達がいない間に、西部南部東部のプレイヤーやNPC達が新大陸の王国たちや蛮族たちと交流を深めていたはずだが、クロウが研究室に閉じこもっている間に、気が付いたら新大陸へのポータルが閉じていたようで、数日後、新大陸は総勢力を上げてこの人間大陸に攻め込むようだ。
「みんなみんな大変だよ~!」
いつぞやのナビゲーター妖精が再び北国を除く各国の王都に現れた。
「新大陸の王国たちがここに攻め込むつもりだよう!みんな団結して国を守ろう!」
ナビゲーター妖精がそういうと、<緊急クエスト・新大陸の侵略者達>が始まった。
クエスト内容はいたってシンプル、人間大陸の各国は手を取り合って新大陸からの侵略者を撃退しよう。
ナビゲーター妖精曰く、今日から毎週金曜日夜に、新大陸へ通じるポータルが再び開くので、そこからやってくる新大陸軍を撃退しよう!と言うものだった。当然、クロウの所には久しぶりにメルティがやってきた。だが、気まずい事に、ベルアルとの晩餐会の最中だった。
「クロウ様~❤」
いつものようにメルティがクロウに抱き着こうとすると、横にいたベルアルが即座に剣を抜いてメルティの肩に載せた。
「サキュバスか...何者だ?」
「あら?貴方は?」
「北国ペトロデルの女帝、ベルアルだ」
「何をしにきた」
「クロウ様に会いに来ましたわ❤」
メルティはそう言ってクロウにウィンクして投げキッスした
「〇すぞ」
それを見たベルアルはクロウが見た事もない顔と気迫で殺害予告をしていた。
「冗談です。今回は二件の情報をクロウ様とベルアル様に持ってきました。一つは今回の新大陸の侵攻について、まだ他の王国は知らないようですが、原因は西部王国が邪教に魅入られ、新大陸の逆鱗に触れたからですわ」
ベルアルとクロウはあっさりと納得した。クロウも邪教のエネルギーを知っている。と言うか、そんなものより数百倍も有用な冥府と地獄に充満する呪いのエネルギーとか使えるし、正直クロウが新しく開発した魔導炉で錬成されるエネルギーの方がコスパもエネルギー効率もいいので歯牙にもかけていなかった。だがまさか西部王国がそれに手を出すとは思っていなかった。
「愚かな...」
ベルアルが呆れたようにそう呟いた。
「もう一つはクロウ様へ、魔王、魔帝、その他の御方々は貴方を完全に後継者に認めました。それにより、御方々の権能を完全に使用できるようになりました」
そういってメルティがクロウの胸をその綺麗な長い指でツンと指すと、クロウは本能的に色々やばいものを使えるようになったことを理解した。
(魔帝、魔王、魔神、機神、悪神に獄帝、それから他にもいろいろあるな)
自分のステータスや新能力を確認するだけでも数日かかりそうだったので、メルティに礼を言いベルアルに後の事を任せると、早々にクロウ領の自室に戻って、再び自己改造やスキルなどを開始した。




