アフターフロムヘルとの戦い
アフターフロムヘル。退役軍人と犯罪者で構成された危険組織。他の組織とは違う、鉄血の掟と行動力から、クロセルべ王国内でも最注意組織として長くリストアップされていた。
「引け、貴様らが来たところで何もできない」
「くっ....」
腕と脚を折られた、気を失ったタタ、曲刀が折れ、エインヘリアルがほぼ全壊したアリアンナ、そうして骨が折れて、MPも尽きて意識を失いつつあるリリィの前の前に、身体の半分を機械化させた男が立っていた。
「俺達の計画の邪魔をするな」
「さ....させ....ません」
手に握る光の槍も、どんどんと消えていく聖光兵も、力尽きるリリィの力にはなれなかった。
「強い意思だ。だが、使いどころを間違えるな」
外惑星装甲のような超未来的機械で覆われた男は自身の、右腕をリリィの前に突き出し、赤色の脈動と共に己の心臓部にあるコアの出力を上昇させていく。耳をつんざくような高音を発しながら、男はその右手から赤い光のビームを動けないリリィに放った。
(神様ぁ!)
眼を瞑って己の死を覚悟するリリィ、今だけは神でも悪魔にでも縋りたい気分だったが、そんな彼女を助けたのは神でも悪魔でもなく、聞きなれた声の鍛冶師だった。
「あちち!」
再び目を開けると、そこには壊れた盾をアイテムボックスにしまうホムラが立っていた。
「なるほど、電気と熱エネルギーを凝縮したビームって所か」
「何者だ」
「名乗るほどの者でもねぇよ」
ホムラはにこやかにそう言いつつ、アイテムボックスから棍棒を取り出す。何やら仕掛けがあるようで、彼女が何回か振りかぶると、打撃部分が勢いに促されるように回転しだした。
「お前にはなぁ!」
ホムラは先ほどまでのにこやかな顔をしまい、目の前の男に脚力だけで急接近した。
「はやっ!」
回避も間に合わず、男は自分の機械化された右腕でその棍棒を防ごうと思ったが、棍棒が右腕に触れた瞬間、まるで脆いクッキーのように右腕がボロボロに砕け散った。
「な!?」
「お?なんだ脆いなそれ」
ホムラはがっかりした声と共に、再びその棍棒を振った。今度は何とか回避したようだが、ホムラが再び踏み込んで大きくその棍棒を振うと、今度はその屈強な右半身を大きく砕いた。
「があああぁ!」
流石の男もこれには堪えたようで、先ほどまでの余裕さもなく、崩れた自分の右半身を守るように膝を地面についた。
「終わりか」
ホムラが再び棍棒を振り上げて、目の前の男めがけて容赦なく振り下ろすが、それより先に男はポケットからアイテムを取り出し、一瞬でどこかへテレポートした。
「ちっ、逃げられたか」
ホムラは武器をしまうと、自分のアイテムボックスからレスキューボットを取り出す。ホムラ自作の緊急救護ボットであるこの小さな機械は、周囲のけが人を確認すると、自動でクラスⅤ相当の回復魔法を施し、指定された場所までけが人を1度だけ転移させることができる。
「ボット、王宮まで」
「かしこまりました」
3つのボットはそれぞれリリィ、アリアンナ、タタを認識すると、回復魔法を施し、すぐさま転移魔法で王宮へと転移した。
***
「うがぁああ!」
コントラクター、今回の武装蜂起の契約者の1人でもあるミューランの元へ転移した。だが、転移先には安全は無く、目の前の二頭四腕の剣士にすぐさま両腕両足を切り落とされた。
***
「冥夜叉!殺すな!」
クロウはすぐに四肢を失った男の頭を掴んで<洗脳>をかける。
「ん?効き目が悪いな....<スキャン>」
どうやら脳の一部も機械化しているようで、重要な記憶には機械的なパスワードが仕掛けられていた。
「なるほど、じゃあ」
クロウは機神の権能を行使し、あっと言う間にロックのかかった記憶をハックする。
「ふむふむ、今回の件は長く潜伏していたミューランが仕掛けたと。なるほどね」
アフターフロムヘルの本拠地までは分からなかったが、今回の事件についてのあらましは理解したので、冥夜叉に始末するように言い、クロウはそのまま記憶の中で見つけた支部の1つに向かう事にした。
***
晴天の霹靂とはよく言ったもので、数十年間何の問題もなく潜伏していたアフターフロムヘルの面々は、突如として、定例集会の時間に、その隠れ家ごと落雷に1人残らず、跡形もなく焼かれた。
***
「ふぅ、これでいいだろ」
雷雲を霧散させ、足元で瓦礫すら煤と灰になったアフターフロムヘルの集会用の建物を見下ろし、クロウは一応<スキャン>と<鑑定>で生存者を確認する。結果は生存者0。よし。
「帰るか」
花魁の本拠地の方はどうなってるかわからないけど、セシリア達がなんとかしてくれるだろう。クロウは引き続きMPタンクとして、リリィやアリアンナ、タタ達の手術のための無菌室と執刀医達へのバフ役を続けた。




