色欲軍団撃退戦
「クロウ!お帰り!」
「クロウ、久しぶりです」
「おかえりクロウ~」
「おいおい!クロウじゃねぇか!久しぶりだなおい!」
自身に再び天罰神縛を巻き付き、王宮に入ってみると、久しぶりに戦乙女達の面々が全員集合していた。今回はクロセルべ王宮護衛隊ではなく、全員がヴァルキリーズの紋章と装備に着替えている。これはつまり、王宮護衛隊は全滅、もしくは既に護衛隊として運用する暇がないと言う事なのだろう。
「セシリア、アマネ、アカリ、ホムラ、状況を説明してくれ」
彼女らの説明曰く、数か月前にアルイタの息子の一人、<色欲の魔王>ミューランが6万人の蛮族を引き連れてクロセルべへ侵攻。同時に国内の反乱分子である不夜城の花魁とアフターフロムヘルがミューランの侵攻に応じるように内部からクロセルべ王国の軍事基地へと攻撃を開始した。リリィ、アリアンナ、タタはアフターフロムヘルの鎮圧へと、シャル、フェリスは花魁達の鎮圧へと向かった。国内の二大危険組織が同時攻撃をするのも考慮していなかったらしく、まずは国内の危険組織を鎮圧する事にし、ミューラン達はひとまず防衛する事にした。
「なるほどなぁ....リリィ達は大丈夫なのか?」
「大丈夫だろう、それこそ私らみたいなプレイヤーレベルの強さの敵が出てこない限り」
「.....」
ホムラぁ...フラグって言葉知ってる?
「なっ、なんだよ、そんな顔で見るなよ、照れるだろ」
「ホムラ、フラグ」
「な!」
ホムラもアカリにそう言われてから気づいたように自分の口を手で塞いだ。
「セシリア、お前はどうするつもりだ?」
「ふらぐ?の意味は分かりませんが、リリィ達に危険が訪れる危険があるのですか?」
「うん」
「でしたら、ホムラさんはアフターフロムヘル、アカリさんは花魁の鎮圧援護に向かってもらってもいいですか?」
「もちろんだぜ!鍛冶ばっかりで戦いたくてたまらなかったんだ!すぐに行く!」
「私も、精霊達がうずうずしてるの」
「2人共ありがとうございます、では私の近衛隊から」
「「要らない」」
「しかし」
「セシリア」
アマネはセシリアの言葉を遮る。長く親しんでいたせいで、彼女らも天地をひっくり返せるほどのプレイヤーである事を忘れていた事に気が付いた。
「よっしゃ、じゃあ行ってくるぜ!」
「私も」
成熟した自己成長型武器を2人共取り出し、頼もしい背中と共に彼女らも危険組織の鎮圧へと向かった。
「2人に任せれば大丈夫だろう、アマネ、俺は蛮族鎮圧へ向かうよ。セシリアの安全は任せていいか?」
「ああ、任せろ」
「よし、念のために」
クロウは久しぶりに召喚陣を展開し、冥凍兵を10体ほど呼び出した。蒼白の龍を模した全身鎧を身に着け、巨大な盾と凍えるような冷気を常時纏っている直剣を背中に装備した強力な兵士が10人、セシリアを見つけると、直ぐに跪いて指示を待った。
「ん?なんか強くなってね?」
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名前:冥凍兵
武力:150
知力:100
政治力:55
統率力:50
魅力:60
特性:<気高い誇り><戦いの才>
スキル:<氷の戦意><凶暴化>
<気高い誇り>:精神汚染、状態異常無効化
<戦いの天才>:戦闘時、武力知力統率力上昇80%
<氷の戦意>:<狂乱>状態にならない。攻撃を受けるたびに武力と知力が10%上昇する(最大50%)。
<凶暴化>:HPが50%以下に陥った時、武力知力統率力上昇200%、<狂乱>状態に陥る
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「つっよ」
特に凶暴化のデメリットが<氷の戦意>で完全に打ち消されている。今のリリィ達がどれくらい強いか知らないけど、冥凍兵1体でリリィやシャルとまともに戦えるほどだろう。
「よし、じゃあお前らセシリアの護衛を最優先に、それ以外はセシリアの話を聞くように」
クロウはそれだけ言うと再びドアから飛び出して先ほどの戦場へ向かった。
***
「総員撤退!王宮と女王守護を最優先に!」
クロウは戦場に聞こえる大きな声でクロセルべ側に撤退するように言った。新兵達はクロウの事を知らなかったが、百人長千人長、それにネフィリム達が素直に撤退している所から、彼らも迷うことなくぞろぞろ敗走するように撤退していった。
「派手に行くか」
クロウは空に大きく魔法陣を展開する。それだけではなく、圧縮言語による詠唱も開始。古代魔術を魔法陣で展開しつつ、圧縮言語による異次元の魔法も同時に発動。ミューラン率いる蛮族達も、天高く聳える複雑怪奇な魔法陣と、悪魔のささやきに聞こえる詠唱に対して、発動する前に突撃して倒すという愚策に出た。
「魔門開放、獄炎融合、<デビルハント・ヘルフレイム>」
クロウは両手を羽ばたくように振るうと、戦場を分断するように黒紫色の炎の壁が高く燃え上った。その壁は蛮族達を包み込むように全身する。炎に触れた蛮族達は、物理的に燃える事は無いものの、まるで見えない炎に焼かれているように体をかきむしっている。数分後、命尽きたように膝から崩れ落ちた蛮族達は、そのまま赤い液体となってべちゃりと広がった。
***