無意味な裁判とクロウの帰還
「うむ!即刻死刑!」
「???」
裁判所に連れてこられてからものの数分で死刑宣告された。途中、まともな弁護士を呼ぶことも出来ず、全て自分の腰に槍を突き付けたあの男とその師匠を名乗る人物が裁判官に口添えをするだけでクロウの死が決定された。
「そうか、この国は、救いようがないな」
「死刑執行!」
古式ギロチンを採用しているらしく、空から降ってくる巨大な刃にすんなりとクロウの首は両断された。
***
「ま!待って!中止!死刑は中止!!即刻辞めろぉ!!」
時すでに遅く、宇垣城城主本人が処刑台にたどり着くころには、既にクロウは両断されていた。
「あああ!ああああああ!貴様!誰が!」
城主は絶望の顔でクロウの死体を目視している。周囲にいる人間全員が困惑した顔で城主を見ていると、空から黒い槍が降ってきた。目にも止まらない速度で降ってきたその槍は一瞬で城主の脳天を貫き、その頭部を地面に縫い付けた。
「<武聖>涼様の言葉である。貴様達は手を出してはいけない者に手を出した。この償いは越国の破滅を持って償われる」
黒い槍を持った男は槍から降りると、地面に刺さっている黒槍を引き抜いてクロウの死体へ歩き出した。
「大師.....帰りましょう」
クロウの生気を失った身体を綺麗に布で包み、黒槍の男は足に力を入れてそのままどこかへ消えていった。数分後、彼らの元にいくつもの黒い靄が現れる。それらの黒い靄は周囲の人間に覆いかぶさると、悲鳴と共に靄に取り込まれた人物は消滅した。
<黒い靄の洪水>
越国を襲った膨大な数の黒い靄は、まるで生き血を求める獣のように次々と周囲の人間を襲い、あっと言う間に賑やかだった越国を無音の国に作り替えた。洪水のような勢いで溢れ出し、喰らい尽くすその靄は、周囲の勢力に恐れられ、数十年は越国の領域に近づく者はいなかったという。
***
「死んだ?」
涼と金は持って帰ってきたクロウの死体を見て驚いた。自分の師匠でもあり北燕商会最高責任者にして天仙郷の創設者である彼が死ぬとは思えない。
「偽装でしょ、師匠が死ぬわけない」
「確かに」
金がそう言うと、涼も驚くことなく同意する。
「えーと、起死回生の丹薬が....」
「大丈夫大丈夫、要らない要らない」
***
どこからか現れたクロウが金と涼に声をかける。そうして彼らの前で死体に触れると、まるで元あるべきものへ帰るようにあっという間に吸収された。
「ある程度警戒はしていたけど、やっぱ怖いね外は」
「師匠、安心してください。既に無明がやつらを」
「うん、ありがとう」
クロウは軽く礼だけ言うと暫く引きこもるとだけ言って自分の家に向かった。
「はぁ、そろそろいいかな」
更に一か月ほど自分の家で丹薬を練成していると、久しぶりにアマネからプレイヤー連絡がきた。
「???」
何事かと思って見てみると、どうやらあまり良くない事が起こっているらしい。アマネが連絡するほどの事だ、もしかして彼女の手にも負えないのかも。クロウは連絡石に魔力を注ぎ込み、涼と金、それから無明に連絡を入れる。彼らは呼んでから数分で現れた。
「古い友人がピンチだ。暫く助けに行く。その間の事はお前たちに任せていいか?」
「「「は!」」」
三人は迷うことなく同意する。クロウはせめてもと思い、彼らに3つのアイテムを渡した。
涼には万薬の枝と言う上級回復薬の原材料を
金には身を守る金剛護身石を
無明には上級悪魔リリスの連絡石を渡しておく。
そうしてクロウは他にいくつか言い残し、彼らの前で<ディメンション・テレポート>と言う上位魔法を使い、一瞬でクロセルべへ帰還した。
***
久しく天仙郷と言う魔素ではなく仙気が漂う世界にいたせいで、クロウは自身の溢れ出す魔圧を鎖で縛る事を忘れていた。おかげで、クロセルべ王国へ帰還した瞬間、周囲の人間は自ずとクロウに平伏する事になった。だが幸いな事に、それはクロセルべ王国の国民ではなく、武器を抜いて王国首都へ攻撃を仕掛けているアルイタの息子の1人、<色欲>のミューランの手下を跪かせるだけだった。
***
「あれ?座標ズレた?そんなはずはないんだが??」
周囲を見渡すと、蛮族風の毛皮を着た人間達が不自然な近未来的武器を持ってエインヘリアルとネフィリム達に攻撃を繰り出している。怒声と罵声の溢れる戦場で、クロウの周囲だけはやたらと静かだった。
「どうなってんだこりゃ?」
わけもわからないので、とりあえずクロウはエインヘリアルとネフィリムのある方向へと飛んでいく。まずは自分の寮の方向へ向かうが、途中の道にはまるで戦火に溺れる難民のような悲惨な状況になっていた。
「???」
暫く天仙郷で遊んでいるうちに、再びクロセルべが分裂したのか?どゆこと??アマネは緊急事態だと言っていたけど、国家存亡危機レベルだとは思っていなかった。
クロウは急いでセシリアのいる王宮へと方向転換し、事情を聞いてみる事にした。