大型アプデです
あれから数か月、授業もいよいよ終わり、受講終了の証として受講者全員に<威力増加LvⅠ>と<消費MP軽減LvⅠ>を刻んだ魔杖をプレゼントした。一番安い道具屋で買える杖に刻んだだけが、全員すごく喜んでくれた。イリスには引き続き教諭になってくれないかと言われたが、本職ではないので辞退した。西部の学園で生徒としていろいろ学びたかったが、教師として人に教える立場になって、学んだ事も多くあった。形は違えど、ある意味では勉強になった。今回の西部への修学旅行の思い出に浸りながら、ゆっくりとペトロデル行の馬車に揺られた。
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「やったやった!クロウが帰ってきた!えへへ!」
ベルアルは一人自室でぬいぐるみを嬉しそうに抱きかかえて、ぶんぶん振り回していた。そんなクロウは、関門の人が伝書鳩でベルアルに知らせを入れている事も知らず、自分の学園で交換留学とかやろうかな?とか考えていた。
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「大型アプデ?」
金曜日の帰り道、ケータイでゲームの大型アプデについての情報を見つけた。
次の大型アプデでは、新大陸と新モンスターなど、新しい大陸に行けるようになるらしい。その他にも新しい職業、サブ職業の追加、新ダンジョンの追加などなど、数えきれない程の新要素が羅列されていた。次の大型アプデの具体的な日付はまだ分からないが、これはこれでワクワクする。今日はコンビニで軽く済ませ、大型アプデの為の準備をすることにした。
「召喚:<スケルトン・ワーカー>」
今やほぼ無限の<スケルトン・ワーカー>を呼び出す事ができるようになり、新しい嗜好品や高級品も作り出し、今やクロウ領の収入は北国の三分の二に匹敵するようになった。その金の半分を税金としてベルアルに渡し、残った金で更に新技術を開発し、新大陸にあるものないものを勝手に想像し、勝手に対応策や対応兵器を作り上げていた。それからしばらくすると、開発チームから来週の金曜日朝から大型アプデを開始し、同日夜8時に終了する予定との告知が出た。クロウは飛び上がるほど喜び、仕事を手早く切り上げると、2時間ほど早く家についたのでしっかりと食事や入浴を済ませ、8時ちょうどにゲームを開始した。
暗い画面でのアプデ終了カウントダウンがあり、カウントダウンが終わると、今回のアプデの目玉、新大陸についてのPVを見ていた。まずは新職業についての告知やログインボーナスの追加、課金優待などなど、流し見しながら重要な告知を今か今かと待っていると、一つ目の大型告知である新大陸について流れ始めた。どうやら今日から新大陸の使者が次々と各国へ現れ、国交が成立すると転移ポータルを設置してくれるようだ。次の目玉は新ダンジョンについて、どうやら既存のダンジョンがより大きくなり、魔塔もより大きくなったそうだ。そして三つめは、人間大陸のさらなる巨大化、それに伴った新たな蛮族、いわゆる第三勢力の追加だ。北部には遊牧民族が、西部には邪教徒が、南部には熱帯にすむ蛮族、東部には流浪の武士などなど、より多くの勢力が追加された。PVを見終わり、早速ゲームに入る。クロウ領の自室で目を覚まし、収入を確認した後、今回はベルアルも食べた事もない甘いスイーツを持って久しぶりに会いに行くことにした。
「ベルアル、北方の遊牧民族についての情報はあるか?」
スケルトン達とクロウ自らが建て直したベルアルの女帝宮にて、二人はとびっきり甘いショートケーキを食べながら全く甘くない話をしていた。
「ああ、人間大陸の新地域に住まうやつらのことか」
どうやら新型アプデの件は、NPC達の間でそういうことになっているらしい。今回のアプデで人間大陸は20倍ほど大きくなり、自然と北国もさらに北に西に東にと、さらに版図を広げることができるようになった。どうやら最近、ベルアルもべオスや新しく抜擢した将校たちを連れて、新しく発見した西部の蛮族領を征服する予定で、クロウもその蛮族領、通称ペトロデル牧草地帯の遊牧民族、突傑族を征服に行くことにした。リアル知識的に、遊牧民族ともなれば、馬による高機動の遊撃戦がメインになるだろうか、ベルアルは既に辺境に北王兵を派遣しており、ここ数日、将校達と作戦を練りなが前線兵士の情報を待っていた。数日後、北国辺境でそれぞれの蛮族達との威力偵察の結果がベルアル達の手に届き、早速作戦会議が行われた。予想通り、西部蛮族領、突傑族は赤い馬に乗り、高機動を生かした遠距離攻撃で敵兵を削り、様子を見て最後に抜刀して突撃してくる戦い方をするようだ。北部永久凍土領には蛮族は居らず、おそらくクロウ領辺境のような鉱山資源などが期待できる山脈がさらに広がっている。東部には凍った海が広がっており、豊富な海洋資源や海底火山、そして強力な海洋モンスターが広がっていた。
「北王兵!整列!侵攻、開始!」
ベルアルが簡単な鬨を上げると、戦鼓が轟き、開戦の合図が響き渡った。
今回の作戦はべオスとベルクが立案したもので、ベルアル達率いる北王兵が敵主力を引き付けつつ、別動隊であるクロウが敵の後方へ迂回し、挟撃するという至ってシンプルな作戦だ。早速、前方の北王兵が接敵する。巨大な弓と赤い馬に乗った大男達が、蛮族特有の言葉を話しながら雄叫びを上げ、弓を放ってきた。その一つ一つの大きな矢は盾を持った屈強な北王兵も少したじろがせるほど強力だったが、練兵の時にクロウが呼び出した初代北王兵に比べたら屁にも及ばなかった。その後方、クロウは別動隊と共に突傑族の今回の本拠地の近くまで来ていた。別動隊は北狼兵とクロウだけ。始祖オーフェンが自ら鍛え上げた狼兵の俊敏さと、チートバグみたいなクロウでどうにかしようということだ。ひとまず北狼兵を突撃させ、敵を深追いせず、ここに伏兵がいることを知らせる事と敵の一部もしくは後衛隊がやってきたらここまで撤退することを遵守せよと指示を出し、北狼兵が飛び掛かったのを見ると、クロウは左足に刻んだ術式の10%にMPを通して特殊な召喚をした。
「悪魔召喚<鉄雲屠>」
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鉄雲屠、騎兵の中でも重装備騎兵と呼ばれる特殊な騎兵。機動性では他の羽騎兵などの軽騎兵に劣るが、強靭な踏山馬という巨大な品種の馬と、北人といわれる天性の戦闘民族が共に全身余すことなく分厚い鉄の鎧で包まれた重装騎兵。加速は遅いものの、一度最高速度まで達すれば大型トラックに匹敵するほどの衝撃と破壊力をもたらし、その馬は城壁すら破壊し、踏山馬に乗った北人の巨大な曲刀はもはや攻城兵器に匹敵するという。それにより、過去に鉄雲屠が滅ぼした国の数は星の数ほどあり、運良く生き残った人からは、数千の鉄雲屠が起こす地鳴りの音から、<国均しの悪魔>と呼ばれた。
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