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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
諸国動乱編
196/227

弟子を引き取りました。

「さて、いきなり湯に浸からせるわけにもいかないし、とりあえず綺麗になるまで拭くか」


クロウは手ごろなタオルを濡らし、瑠果が綺麗になるまで優しく拭く。髪の毛も水を張った桶と石鹸で洗い、湯冷めする前に素早く彼女に新しい服を着せた。流石に6歳児用の服は無かったので、急遽メニューかた簡易な子供用の服を作る。そして彼女がもともと来ていた服も洗浄魔法で綺麗にした。


「ん?」


翡翠の綺麗な玉石の下部に文字が刻まれている。<楓>と刻まれたスタンプ石のようだ。これは彼女の大事なものかもしれない。空いている穴にクロウは赤い紐を通し、彼女の首にかけておいた。


「さて、とりあえず何か食わせたいところだが....」


クロウは彼女を子供のように抱いたまま縁側までやってくる。彼女の頭の下に自己治癒効果のある特殊な藁を簡単な布で包んで作った草枕を敷き、クロウは目の前の育てた薬草と飼育している鶏を今日は捌くことにした。


「あ....う....」

「む?起きたか」


眠っていた瑠果が目を覚ました。彼女は体を起こそうとして、傷がある事を思い出したように自分の腕を支えようと思ったら、治療されていることに驚いて目を見張った。


「落ち着け、俺が治したんだ。無理に喋らなくていい、飯を作るから少し待ってろ」


彼女はその大きな目をパチクリさせて再び身体を横たわらせた。だが、寝返りをうって自分の方をじっと見つめているようで、背中が痒くなったクロウは急いで厨房へ向かった。


***


家が無くなってから数年、こうして誰かに引き取られるのは何年ぶりだろうか。逃げてばかりでまともな住処も見つけられず、ボロ屋と空き家に逃げ込んでは他の流民に追い出されてばかりだった。だが目の前の男は、なぜ自分を引き取ったのだろう。仮に自分が楓家の生き残りだと気が付いたら、こうして彼は自分の為に紐を通してこの楓家の家印を返してくれる意味も分からない。分からないが、命の恩人には変わりないので.....このまま.....世話に...


***


「師匠、弟子を引き取ったんですか!」

「ああ、言いつけは守ったぞ」


本当は弟子招集会に顔を出す予定だったが、クロウがきちんと弟子を取った事を確認した涼と無明の2人は、ほっと一息ついた。


「ですが、まだ子供ですね....」

「ああ、そいつ先天悪魔混沌体だ」

「悪魔混沌体!?しかも先天性...よく生きてましたね」

「実際出会った時は死にかけだったよ。今、栄養回復剤と軽めの栄養食を作ってる」


栄養剤はクロウがアイテムボックス内で初級用のやつを、いきなり中級とか飲ませたら効力が効きすぎて爆発四散しかねない。栄養食は天仙郷で育てた霊薬や仙薬草を使ったものにする。もともと天仙郷の住民なんだ、多分栄養食の方が体に合う。


「味見しても?」


涼が興味深そうクロウのかき混ぜている鍋をのぞき込んでいる。


「いいけど味薄いぞ?」


クロウは適当に器を2つ取り出して涼と無明に盛り付ける。


「「いただきます」」


2人はスープを飲み込むと、器を落として体を押えて悶えた。


「ぐっ....」

「うっぅ......」

「おい、どうした2人共!?」

「分かりません...ですが....何か体内で変化しているようで.....」


急いで2人の様子を確認するべく<スキャン>してみると、どうやら2人とも後天的天賦を得ているようだ。


「なんだびっくりした。お前ら頑張って耐えろよ」

「え!?、うぐぐぐ」


10分後、瑠果の為の栄養食が出来上がった頃、2人もようやく調子を取り戻したようだ。


「お、涼は<天地創滅体(てんちそうめつたい)>、無明は<真・鬼影体(きえいたい)>が生えてきたようだな、どれどれ、<鑑定>」


天地創滅体:天を作り大地を滅ぼせる肉体の素を得る。常人離れしたエネルギー摂取が必要だが、体術系統のスキルや仙術、魔法への強大な親和性を得る。


真・鬼影体:影鬼の真なる唯一の系統者。日が出ている時は効果を発揮できないが、日が沈んでいる間は世界の覇者になれる程の力を手に入れる。影と夜系統のスキル、仙術、魔法への強大な親和性を得る。


「くっそ強いやん」


クロウの言葉の意味は分からなかったが、師匠が何か自分を褒めている事は分かったので、2人は苦しかったのも忘れて急いで自分達の修練場に戻った。


「飯たかりに来ただけかよ、まあいいけど」


クロウは瑠果の為の器と木のスプーンを用意し、それぞれ自分の分も含めて綺麗に盛り付けて、お盆に乗せて彼女のいる方へ歩き出した。


***


良い匂いがする。いつぶりに嗅いだだろうか、ドブのネズミではないきちんとした肉の匂い。男が高価そうな器に食事をよそって持ってきたようだ。耐え切れずに男の方を見てしまう。自分のような広い子は大したものは食えないだろうが、せめて骨の汁でも飲めれば上々だ


***


「ある....くのはまだ無理か」


お盆を近くのテーブルに置いて、クロウは瑠果の方へ向かう。そのまま戸惑う彼女を無視して、彼女を抱き上げる。少し身を捩って抵抗していたが、子供だと思って優しく頭を撫でると、大人しくなった。


「ふー、ふー、ほら、口空けろ」


鶏ガラのスープで作った簡単な野菜入りの重湯だ。彼女を頭を自分の胸に寄りかからせ、少しずつ飲ませる。彼女は数口飲んだ後、急かすようにクロウの腕をぺちぺちしてきたが、急かさずに少しずつ彼女に飲ませる。


「えっ、ちょ、どうした、泣くな、熱かったのか?」


なぜか自分の懐で泣き出した彼女に慌てて、クロウはスプーンを置いて改めて彼女を抱きしめて背中をさする。


「よしよし、泣くな、もう大丈夫だ」


こうして、クロウと1人目の弟子の生活が始まった。

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