天仙郷黎明期その2
「はい、明日は我々天仙宗の弟子招集日です」
「天仙宗?えっなにそんな名前なの今?」
「はい」
クロウは無明の言葉を遮って、金に今の天仙宗について聞いてみる。
「今の天仙郷には多くの修仙者が現れています。どこにも所属せずに自らの力で散仙や、天仙宗、もしくは天仙宗傘下の仙宗に多く所属しています。実力順でいえば、迷竹山の最高峰に位置する天霊山のクロウ様、荒天開闢体を修練し、傘下や傍流にも数多くの実力派修仙者がいる武青山の涼。影寒無心訣を修練し、傘下は涼に比べて少ないものの、各宗派に恐れられている無日山の無明。武力の涼派閥、暗殺と諜報の無明派閥、そして私、収入と影響力の金派閥と言った感じに分かれております」
「なるほどな、それで俺が弟子を取る必要性は?」
「えー.....」
クロウの問いかけに金も何も言えなくなった。それもそうだろう。
「師匠、かれこれ10年、自分の家に引きこもってるんだ、流石に顔を出してくれないと困る」
涼が金の言葉を遮って代わりに話す。
「10年....10年!?そんなに経ってたの!?」
「まあ師匠のおかげで俺達3人はほぼ寿命なんてものは無くなったけど、部下や他の人はそうはいかないからね」
「そうか、世論ってやつか」
「そうそう、そういう事だから、明日の弟子招集会に来てね」
「分かったよ、顔だけ出す」
「助かるよ師匠」
3人はそれだけ言うと、自分たちの武器に乗って飛んで行った。
「おー!剣を御して飛行....化神までいけたみたいだな」
3人の修仙の進み具合に感心しつつ、明日の弟子招集会はどんなものや服を着ていこうか迷うクロウであった。
***
<天仙宗弟子召集日>
天仙郷の一大イベントであり、世界中の修仙者、散修、有名人や高官貴族までもが同様に集まるこの日、天仙郷傘下の霊根測定石がある測定の広場に無数の人物が集まっていた。すると、空から剣に乗った1人の修仙者が現れた。
「きゃー!見て!金様の内門弟子よ!秀様ー!」
剣に乗った秀と言われた中性的な人物は、そのまま測定石の傍に降り立った。
「これから天仙宗の弟子招集会を始めるよ!まずは指定枠から!名前を呼ぶからみんな順番にこの測定石を設置した台に上がって石に触れてね!」
そうして次々と名前を呼ばれた者が上がっていく。霊根は修仙者にとって大事な才能の1つ。火の霊根があれば火の仙術を得意とし、水の霊根があれば水の仙術を得意とする。ただ五行相克の関係はここにもあり、複数霊根を持つ優秀な人物も何人かいたが、火水の2つを持つ人物は残念ながら属性が相克して凡人と変わりなかった。
歓声と悲嘆の声が上がる中、測定石のある広場を遠くから眺める子供がいた。
「.....あ、うぅ....」
ボロボロの服に、汚れた顔は怪我で腫れており、身体は骨のように細かった。酷く長く続く痛みは子供の感覚を遮断し、唯一残った己の意思だけでこの世に自分を繋ぎとめていた。
「た、たすけ...」
だが、気力と意志の力が尽きようとしていた時、眼の前で誰かがこちらをのぞき込んでいた事に気が付いた。
***
「おーい、生きてる?」
クロウは近くの出店で買った焼き鳥串の残った肉を口に入れ、串を加えたまま少年を揺する。
「おいおいマジかよ」
自分の世界とは言え、貧困の差は生まれる。競争が無ければ進化もない、辛い世の中もそのまま作り上げたが、流石に自分の目の前で子供が餓死するのは気分が悪い。
「<スキャン>」
***
名前:楓 瑠果
修練段階:無(凡人期)
武力:無力
精神力:無力
仙力:無力
霊根:未発生(闇、空間)
天賦:悪魔混沌体
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<悪魔混沌体>
悪魔からのカースドギフト。0歳から18歳まで不幸な目に合い続けるが、闇と空間魔術、仙術について非常に高い親和性を得る。
***
「うわ!野生のラスボスじゃん!」
天賦と言い、霊根の属性と言い、完全にクロウの後継者に成れるほどラスボス属性を極めていた。
「弟子見つけろって言ってたしな....この子で良いか」
クロウはアイテムボックスから大きなブランケットを取り出し、目の前の子供を包んで自分の家に連れていくことにした。
帰宅後、早速クロウは目の前の子供を風呂に入れる。見た目からして6歳ほどだろうか、痣だらけの身体に折れた腕や脚が非常に見てて痛々しい。いきなり風呂には入れず、まずは服を脱がせることにした。
「あっ、やべ、女の子だったか...」
気まずい。だがまずは治療が先だ。
「クラスⅧ暗黒魔法<闇癒の触手>」
自分以外の存在を治療する事が出来るこの闇魔法は、神聖魔法の適性のある者には使えないし、意識のある者に施すと非常に痛い上に見た目も悍ましいし、なんなら蛸のような黒い触手になったクロウの両手に恐怖を覚えるのが慣例だが、今は非常事態。見た目の悍ましさと強烈な痛覚を除けば、この魔法はクロウの使える魔法の中でも非常に有効的な治癒魔法とも言える。クロウは彼女の負傷個所にその両手を近づける。彼女の皮膚をまるで海のようにずぶぶと侵入し、そのまま彼女の折れた骨を修復していく。気を失っていても痛みは強烈なようで、意識がないはずだが彼女の顔は酷く歪んでいた。そうして腕と脚を直した後、勝手に触手は彼女の他の部位へと蠢くように伸びていく。どうやら他にも怪我をしている場所がある様だ。そうして10分ほど経った時、触手は満足げに彼女から瑠果から離れた。