天仙郷と北燕商会のメンバー達
心休まる鳥の声に、軽やかな仙鹿の蹄音、剣に乗って空を飛ぶクロウは、80万人のメンバーに向かって高らかに声を出した。
「諸君!ようこそ我らの新たな本拠地、<天仙郷>へ!伝説の仙郷で君達は天賦の才や努力で天地に等しい寿命と、神をも超える力を手に入れるだろう!ここは我々の世界だ!好きにするがいい!これより!我々北燕商会は名を改め、<天仙氏>とする!諸君は天仙家の家族だ!諸君!我々!天仙の名前を世界中に知らしめよう!」
「「「おおおおおお!!」」」
80万人の歓喜の声と共に、彼らはクロウの作り出した世界である天仙郷に散らばった。そして空中からゆっくりと降りてきたクロウの元に3人の人物がやってきた。北燕商会、改め天仙氏武装勢力最高指揮官<武仙>涼、天仙氏商業最高指揮官<財仙>金、そしてクロウの副官でもある天仙氏暗部副頭領<影仙>無明。美麗衆目な美男子である涼、眼鏡をかけた少し疲労感漂う壮年の金、そして全身が黒い靄に包まれ、赤い眼だけがこちらを向いている無明がクロウの前に立っていた。
「さてさて、君達にはこれからも天仙氏の最高権力者の面々として活動してもらうためにも、しっかりとここで修業、もとい修練をしてもらいたい。ここの世界のルールは本能で理解できるかい?」
「は!」
「よしよし、では、君達にぴったりの修練本を贈呈しよう」
涼に<荒天開闢体>と言う体術の鍛錬法を
金に<陰陽心眼鋳>と言う魔眼の鍛錬法を
無明には<影寒無心訣>と言う暗術の鍛錬法を
この3つの修練本を渡し、クロウは再び剣に乗って空高く飛んで行った。
***
クロウの生み出した天仙郷は、ゲーム<オーバーザホライゾン>のバージョン16、<万人修仙期>と言う時期を参考にしている。このバージョンのゲームでは、あらゆるNPCやプレイヤーが仙気と言う大自然のエネルギーを吸収して、凡人から空飛び天変地異を引き起こせる不老不死の仙人になろうと言う新しいコンセプトを実装した時期だ。だが、いわゆる仙人になるまで非常に時間がかかるし、なにより魔法が存在する世界では魔法使いとして大成した方が早いし、なんなら優れた生命魔法の使い手も不老不死に成れる。そんなわけで、実装期間は3か月と短く、直ぐに次のバージョンにアップデートに埋もれ、誰もがこの修仙システムについて忘れてしまった。
***
「さて、じゃあ俺んちはここに作ろうかな」
天仙郷、迷いの竹林の最奥、仙獣の住まう霊峰の頂上にクロウは自分の家を作った。小さな小さな、庭付きの家だ。この美しい郷を一望できるここはクロウにとっては丁度いい。
数時間後、クロウは自分の部屋で早速周囲の様子を確認する。既にこの世界は80万人の天仙氏のおかげで規律正しく発展をしており、まだ数時間しか経っていないはずだが、彼らは既に天仙郷に存在する霊峰でそれぞれ家を作り出した。
「関心関心、よし、寝るか!」
リアルの仕事の辛さを忘れるために、クロウはゲーム内で仙鶴の心地よい鳴き声や流水のせせらぎを聞きつつ、ゆっくりと目を閉じた。
***
プレイヤーの存在を確認...仙気の存在を確認。v16未実装..修仙システムをイニシャライズ、インストール開始.....0..1...エラー!エラー!エラー!修仙システムインストール失敗!.....軌道修正、聖人君子ルート破棄、救世大君ルート破棄、破世涅槃ルート破棄、救国王君ルート破棄.....魔仙悪人ルート設定完了....実績達成済み.....邪仙帝廃ルート設定完了...実績達成済み.....魔君奪帝ルート設定完了....実績達成済み.....堕聖悪帝設定完了.....実績達成済み......
クロウの寝ている間に、クロウは物凄い勢いでまともな王道修仙ルートをゲーム側に破棄され、魔王悪人ルートを次々を設定されていくが、システム側には既に達成していると認識され、大量の報酬が強制的に付与されていく。それに伴い、クロウの手下である天仙氏のメンバー達もどんどんと強化されていく.....
***
「ふぁ~、すげぇ寝た気がする」
クロウはゆっくりと目を覚ます。外を見てみると、夕立が降っているようで少し肌寒かった。周囲を見渡してみると、驚いたことに想像の数倍早く天仙郷の発展が進んでいた。
「????」
確かクロウの小世界であるこの天仙郷の時間の流れは外の100倍に設定したが、中にいる人物の行動速度が100倍になるわけでもない。おかしい、何かあったのか?
「無明」
「はっ」
数秒でクロウのいる霊峰の階段の下から、黒い霧の塊が何かに引かれるようにやってくる。そうしてクロウの前で止まると、いつものようにその眼だけを現した。
「何があったの?進捗おかしくない?」
「おかしいとは」
「いや早くない?」
「私達も何が起こったか分かりませんが、急に私達の行動と修練速度が急激に上昇しました。恐らくそれが原因かと」
「なんで?」
「分かりません」
「......」
クロウは無明を作業に戻らせると、もしかしてと思い、自分のステータスを開いた。
***
名前:クロウ
修練段階:魔帝大成期(大帝期)
武力:天地開闢
精神力:無量大数
仙力:唯一無二
***