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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
諸国動乱編
189/227

燕国衰退とクロウの行先

幽燕公の訃報から3か月が経ち、燕国は2つの大きな問題を抱えていた。1つは人口流出。旧幾国や獅国に住む人々は、幽燕公の訃報を聞いた後、次々と燕国から近隣の国へと移民した。数人だけならいいものの、訃報が広まってから流出は留まる事を知らず、数百万居た燕国は、今や数十万人にまで減少していた。もう1つは深刻な技術力の喪失である。幽燕邸に設置されていた数々の冷蔵庫や食器洗浄機等はクロウと北燕商会にしか製造できず、そんな北燕商会も燕国から完全撤退。ステーキの味を知ってしまった犬がドックフードでは満たされないように、燕国の人々は必死に北燕商会の品々を複製、模倣しようにも、燕国内の技術者ではいくら作り方を知っているとは言え、作り出す技術が無くてはどうしようもなかった。おかげで国への税収も莫大に減少し、燕国は滅亡へのカウントダウンが始まった。


「おはようございます、香織様」

「おはよう彩花」


幽燕邸は今や香織に所有権が渡され、彼女達の別荘となっていた。動力を失った幽燕邸はとても以前と比べて不便になっていたが、彼の作ったベッドやハンモックチェアはまだ使えるので、2人はそのままそこに住むことにした。


「香織様、お戻りになられないのですか?」

「ええ、私はここで彼を待つわ」

「ですが....」

「私は彼が戦死したとは思えない。流征から彼の実力は聞いている。それが急に」

「同じプレイヤーに打ち負かされたと言う可能性は」

「ない。ありえないわ」

「香織様....」


2人と動物しかいない捨てられた幽燕邸で、香織と彩花はずっとクロウの帰りを待つ。彼がいつ帰ってくるか分からないが、きっと桜の木が花咲く頃に、彼は戻ってくるだろう。たとえ、国が滅んだとしても。


***


「マスター、燕国内からの撤収作業、全て完了しました」

「よし、じゃあこのまま東南方面に向かおう、散らばって、次は櫂国(かいこく)で会おう」


クロウは認識阻害の黒いコートを羽織る。そうしてそのまま北燕商会の人々と散り散りに櫂国へ向かった。


以前に、魔王クロウとして昔の聖王国に攻め込んでいた時と同様、クロウは己の分身を作り出し、宇国との争いで戦死するように仕向けていた。そうして燕国から自分の勢力を撤退、香織達には悪いけど、今の燕国で活動するメリットが見えなくなったので、早々に撤収する事にした。もちろん、豊富な資源の開拓等は全て北燕商会の名義の元、完了しているので、クロウからしたら特に思い残す事もなかった。


***


櫂国、海沿いの小さな漁村、<ホタテ村>は、国内有数の貧しさを誇る場所である。唯一の沿海漁船を持つ村長一家を頼りに、この村は細々と生活していた。だが、豊富な海産資源に、大きな鉱脈を複数含むムール山脈を付近に持つこの小さな村は、クロウ達にとっては宝の宝庫だった。


「兄ちゃん!兄ちゃん?死んでるのか?」

「おら!村長呼んでくる!」


古着を縫い合わせた服を着た少年が2名、浜辺に打ち上げられた男を拾った枝でツンツンしていた。

数分後、村長が村の男手数名と共に浜辺にやってきた。


「良い身なりをしておる。もしかしたら付近で座礁した豪華客船や豪商の息子かもしれん....」

「どうします、村長」

「とりあえず村へ連れていけ、お前ら丁重にもてなせ、何かあったら村が亡ぶかもしれん」


村長は浜に打ち上げられ気を失ったクロウを漂流した高官か権力者の家族だと思い、急いで村の中で一番整った村長の家へ運ぶように言った。そして村長の三女と四女にクロウの身の回りの世話を任せ、自分は村の残り少ない男手と共に近くの町や座礁した船が無いか探し回っていた。だが、不思議と付近に座礁した船は見つからず、身分を確認する方法も無かったので、村長は彼が目覚めてから話を聞くことにした。


「うぅ....ここは?」


クロウは潮の香りとさざなみの音と共に目を覚ました。


「あ!起きた!父ちゃん!起きた!父ちゃん!」

「おお、今行く」

「すみません、ここは?」

「ここは、ホタテ村、櫂国のはずれの小さな村です」

「私...どうしてここに...」

「あなた様はここの近くの浜辺に打ち上げられていました」

「なるほど、うぅ....」


クロウは頭を押さえる。


「だ、大丈夫ですか?」

「ええ、私の船は...確か海賊に...」

「なるほど、海賊でしたか、よくご無事で、それで、貴公の家は?」

「私の家は遠い北の燕国と言う場所です。商いの為に船に乗ってきたのですが、恐らく荷物を狙われて...」

「それは....なんというべきか。ですが、とりあえず村の者を近くの町に派遣して知らせを出しますので、暫くはここで休んでいってください」

「あ、ありがとうございます」


クロウは簡易的なベッドから起き上がって村長に一礼する。


「いえいえそんな、貴公のような公子からしたら不便な村ですが、人情味あふれている事は保証します。何かあれば村の人々に気軽にお尋ねください」


そうして村長は簡単に村の紹介をした後、そのまま自分の家に泊めようとさせたが、クロウは空き家で良いと言ったので、村長は自分の三女と四女と共にクロウを空き家に泊める事にした。

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