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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
諸国動乱編
188/227

幽燕公の訃報

クロウは何も言わずにドアの破片を片付ける。香織はすぐにクロウに向かって事情を説明する。


「あの、クロウ様、身内がすみません、でも愚かなのは彼だけで、きっと父様は彼に厳しい処罰をすると思うので」

「ああ、大丈夫、気にしてないよ」


クロウはそのまま外へ行き、近くの北燕商会系列の店へ行き、新しく鉄の玄関扉を注文した。そして彩花を門番においたまま、クロウは授業の続きを始めた。


***


「親父!継が!」

「どうした流征、あのバカが何をやらかしたんだ」

「幽燕公にケンカ売りやがった」


大臣からの書類を読んでいた国王の手が止まる。


「そうか....」

「どうすんだ親父」

「どれほどの事をやらかしたんだ?」

「玄関ぶち壊して不法家宅侵入、そして利権書を出せと脅した」


流石にこれには国王も眉を顰める。


「......」

「親父...」


国王は何も言わないが、年老いた彼の顔がより一層皺深くなった気がする。


「良い、下がれ」

「な!親父!」

「下がれ」


流征は何も言えずに、諦めたようにその場から立ち去った。


***


燕継は現国王の叔父、先代の兄弟でもあり、国王も手を出しづらかった。だから、クロウはあの日の中年が無罪釈放されても特になんとも思わなかった。思わなかったが、香織達も明らかに彼の顔に失望の表情が浮かんでいる事に気が付いた。


「あの!クロウ様」

「ん?どした?」


事件から数日、クロウは北燕商会の人が玄関を設置しているのを見ている。そんな彼に香織は勇気を出して話しかけた。


「継の件ですが」

「あー、いや、気にしてないから別にそんな気を使わなくていいよ」

「ですが」

「まあ、彼も王族だからね、流石の国王も身内に厳罰はできないよ」


クロウは香織の方を見向きもせずにそう言う。


「ほら、玄関の設置も終わったし、今日の授業を始めるよ」


クロウは香織の話を遮るように授業を始めた。その日から、2人はクロウが彼らの間に見えない壁を作った事を感じた。香織や彩花はなんとかその壁を打ち破ろうとしているが、クロウはまるで飛んでいくタンポポの種のように、ふわりひらりと2人から遠ざかっていく。だが、クロウはやると言った手前、2人への授業を一日たりとも欠かした事は無い。そうして燕継も大人しくなってから3か月ほど時間が流れた時、()()()へ招集令がかかった。


「流征将軍、幽燕公、最近、宇国が我々に対する辺境紛争が酷い、既に3通も批難文書を送っているが、一向に彼らが辞めるつもりはないようだ。それにより、我々は今回、最終通告を送った。そこで、君達には宇国との辺境へ赴き、彼らが最後通告を断った場合、即座に侵攻を開始してほしい」

「王命承りました」


流征とクロウは同時に王命を受け取る。そしてクロウはすぐに兵の編制を行うとのことで、一足先に兵営へ向かった。


***


「撤退!撤退しろ!全て投げ捨てて城まで戻るんだ!」


黒く分厚い雷雲が、真夜中の戦場を落雷と共に明るく照らす。雨と血でぬかるんだ戦場には、無数の燕国の兵士が横たわっていた。


「敵将!討ち取ったりぃいいい!」


宇国所属のプレイヤー、<ケビン>が燕国の将軍の首を掲げる。前線の他の兵士は、殺された将軍の首を見て、より一層惨めに逃げ出した。


***


「き、緊急!、宇、宇国戦線大敗、幽燕公は戦死しました!」

「バ、バカな!」


流征と国王は激しく取り乱した。彼らは今回も幽燕公が簡単に戦いを終わらせると思っていたが、まさか幾国蜂起と獅国征服の大英雄が、宇国で死亡するなんて。


「ゆ、幽燕公の死体は、宇、宇国の城壁に吊るされています!」


伝令兵は言い終えると、悲しみの余りその場で気を失った。国王はすぐに流征を次の指揮官に任命、増援と共に宇国戦線へ向かった。


***


「幽燕公の敵討ちだ!」

「うおおおおおお!」


戦線に到着した流征達は軽く兵士を休ませる。食事も終えた後、明朝に営地で戦意高揚のための演説も行い、直ぐに宇国への攻撃を開始した。幽燕公すら打ち倒すほどの相手、流征は正直少し怖気づいていたが、いざ攻撃を開始してみると、あっと言う間に敵の戦線は崩壊。流れるように宇国内へ侵入し、1か月足らずで宇国全域は征服された。


「クロウ....バカ野郎....」


流征は城から1つの死体を引き上げる。見慣れた服に、燕国王直々に下賜された鎧を着た首の無い死体は、幽燕公である事を否応にも証明していた。


***


白い服装を身に着けた人々が街中で泣いている。燕国王の命令で、燕国全土で幽燕公の葬儀を上げる事になった。特に北燕商会の人々はひどく悲しみ、1か月の喪に伏すと同時に3か月の営業停止を宣言した。


「はははは!やはりなんてことはなかったな!何が幽燕公だ!己の傲慢により、あっけなく死んでしまったではないか!」


燕継は自分の邸宅で幽燕公の訃報を知って、大笑いしていた。

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