幽燕公の日常その1
「出来た!う~ん我ながらいい出来」
それから3日、クロウは邸宅の家具をほぼ全て新しく作り替えた。金で出来たとか、そういう物凄く高価な物は使用していないが、工夫と意匠は凝らしたつもり。質の良い壇木を存分に使い、さまざまな意匠を凝らした模様や彫刻を施し、防腐防水の漆も十分な量塗っていく。そうして出来上がった家具は、見る人には分かる、高級家具となった。もちろんそれらは人に見せつける用、仲のいい友人には、きちんと羽毛と手触りの良い布で作ったソファを別の部屋に用意してある。キッチンは古式で大きな竈が置いてあるだけだったので、ここは新しく中くらいと小型の小さな竈を増設した。竈の横には鉄で出来た大きな冷蔵庫の中に氷魔法を込めた魔石を設置し、取っ手に布を巻き、冷蔵庫自体を空気の隔層を含む二重の構成にし、内部の温度変化をできるだけ一定にする。聖セシリア学園にあるような高級なものではないが、最低限食料等の保存はできる。それだけではなく、簡易的な食器洗浄機も作る。石で食器洗浄機の外側を作り、防水の漆を塗った木で内部ラックとし、底に風魔法の刻まれた小さな魔石と水を噴出する魔石、洗浄機の内側には火魔法の籠った魔石に清潔魔法の籠った魔石も設置する。さらにそこにはきちんと排水口も設置する。そうしてそれぞれの魔石を食器洗浄機の外側に彫った魔術刻印で繋ぎ、時間差発動と同時発動を利用して上手く稼働させる。
時間差の計算に少し苦労したが、何とかうまく稼働できた。これなら時間が無い時、クロウが家に居ない時でも誰か他の人が簡単に食器洗浄ができる。エアコンも作ろうかと思ったけど、燕国は一年を通してあったかいくらいの気温と涼しいくらいの気温にしか下がらないらしいので、特に必要ないと思った。生活必需家具等は粗方作ったので、後は庭園の裏の大きな場所に畑を作る事にした。枯山水らしき風景を作ろうかとも思ったけど、それよりは土いじりでもしてた方が性分に合う気がする。とりあえず木魔法や土魔法で地面を整え、雑草を抜き、まずは簡単な食料になるジャガイモでも育てようかと思い、事前に買ったじゃがいもを植えておいた。他にも簡単な柵を囲い、鶏を育てるための飼育エリアも作った。
「うーん、あっ、そうだ」
クロウは飼育エリアと畑エリアの近くに、桜の種を植えておく。品種的に大きな桜の木になりそうだったので、広めのスペースを取っておく。後は毎日様子を見て、大きく立派に育つことを願おう。庭園の準備が済んだので、クロウは服を着替えて外へ買い物に行く。近くを走っていた人力車を呼び止め、近くの市場まで連れて行ってもらう。多めに金を払って、帰りの分も先に予約しておく。
「ありがとうございやす!では!出発いたしやす!」
クロウは座席に座り、市井の雰囲気と風景を眺めながら、市場へ向かった。
***
「親父、クロウの話だが...」
「流征、どうした急に....」
宮殿で仕事をしている国王の元へ、私服に着替えた流征がやってきた。
「あいつがプレイヤーって事は知ってるか?」
「ああ、知っている」
「プレイヤーは飄々としていて、無限に等しい寿命と実力を持っているのも知ってるよな?」
「うむ、お前の言いたい事は分かる。どうせ婚姻やら政略結婚であやつを引き留めておきたいのだろう?」
「そう言うことだ」
「その件なら案ずるな。次女の香織と引き合わせる予定だ」
「香織姐さんか、だけどどうやって?」
「あやつはまだ侍女がいないだろう、贈ってやれ」
「まさか香織姐さんも紛れ込ませるのか?」
「うむ、賢い香織ならば分かるだろう」
「分かった、他の侍女はこっちで選んでおくよ」
「必ず仕事ができる見目麗しい者にしろよ」
「分かったよ親父」
クロウが家を出る頃と同じくらいに流征は香織姐さんの元へ行き、彼女に話をつけて、侍女と共に幽燕邸へ馬車で向かった。
***
「これ3つ、これも4つ、それも3つくれ」
「あいよ!旦那、今日は客が来るので?」
「おう、大飯喰らいがな」
「かー!そいつあぁ大変ですなぁ、こいつはおまけです、もってってください」
「お、良いのかい?」
「うちでこんなに買ってくれたお礼です。またの来るのをお待ちしてまっせ!」
「おう、また来るよ」
野菜を多く買ったクロウ、葱や粟、栗も少し多めに袋に入れてくれた。クロウは他にも簡単な食器や箸を買い、次に肉やへ向かう。クロウも肉を食べるのが好きだったので、多めに豚肉や牛肉、鶏肉を買っていく。
「塩漬けにするのか?」
寡黙な肉屋の親父がクロウに聞いた。
「ああ、そのつもりだ」
「......風当りと日光には気をつけろ」
「ありがとう、恩に着る」
肉屋の親父もアドバイスをくれた。いい人が多いなここの市場、また来よう。最後に果物と果糖飴を買い、予約していた人力車の若い兄ちゃんに果物と果糖飴を少し渡して、クロウはカモフラージュ用の荷物を持って人力車に再び乗り込み、帰路に就いた。
「お、お客さん、つ、着きましたぜ」
通り過ぎる飯屋や被服屋、小物屋に遊戯屋に気を取られて、眼の前の景色を見ていなかった。震える声で目的地に着いたことを教えてくれた人力車の兄ちゃんは、幽燕邸の目の前にある王族の紋章が入った馬車が待機している事に怯えているようだ。
「ありがとう、こいつはおまけだ」
人力車の兄ちゃんは深々と頭を下げて感謝をし、早々に立ち去ってしまった。




