北陸三か国統一戦その5
「よし!2000名は大連弩の修復を開始!今回消費した矢の補給と製造も大至急開始しろ!」
勝利した後も、クロウは快感に浸ることなく、すぐに次の指示を開始する。
「伝令兵!1番良い馬をくれてやる!こいつと3日分の食料を持って大至急燕国へ迎え!敵の主力である傭兵団は暫く帰ってこれない!、反撃するなら今だ!」
クロウは自分のアイテムボックスから名馬・黄馬を取り出し、急いで伝令兵を背中に乗せる。生きた人間以外なんでも入れられるアイテムボックスから取り出したその馬は、日に50kmをノンストップで走る名馬。騎乗者のための休憩込みで4日以内に着く予定だ。
同時に、クロウは5名の百人長を千人長に昇格させ、それぞれの千人長に2千人の兵士を配分し、彼らに周囲の城を占領するように言う。傭兵団が全員打ち倒された今、完全な形勢逆転と言える。千人長達には耀幽候専用の軍令符も持たせる。できれば耀幽候の名声と小型連弩の威圧力で勢いを削がれた獅国兵を降伏させ、そのまま自分の軍隊に招請したい所。
「いけ!速度と苛烈さを持って制圧しろ!急げ!」
大方の作戦を告げ、千人長達を出発させた。2週間後、無事にクロウは周囲の城の城符を手に入れる。5名の千人長はクロウの予定通り周囲最大の城を5つ制圧した。同時に、耀幽候の名声と言うべきか、クロウの名でそれぞれ千人長は3万人の獅国兵を招請できた。クロウはすぐに千人長を将軍に任命する事と、それぞれの将軍に兵を訓練させ、引き続き周囲の城を攻略し、獅国を両断するように勢力を伸ばし、燕国本土からの再侵攻軍が行動を開始した瞬間、彼らに合わせてこちらも動き出す事を手紙に書き、5名の将軍の元へ伝令兵を派遣した。
1か月後、最低限だが、兵の訓練も終わり、彼らの食料もクロウのいる本拠地から十分な量を輸送した。問題なければ彼らはそろそろ周囲へ攻撃を開始するはずだが.....
「朗報!朗報!西部の獅黄城を攻略しました!」
「朗報!朗報!北部の獅石城を攻略しました!」
「朗報!朗報!南部の獅斗城を攻略しました!」
前線から次々と朗報が届く。時折敗報も届くが、城が落ちるような大きな問題は起こっていない。数日後、ようやっと燕国も幾国を無事に完全に支配域に置いたようで、続々とクロウの下へ少数だが、再編成させた幽鬼隊や鬼槍隊がやってくる。
「よし、反撃の時だ!」
クロウは素早く手下を招集し、反攻を開始した。
***
電光石火の勢いを持って、獅国内に突如現れた敗残兵達は周囲の城塞を飲み込み、巨大な断裂を国内に生み出した。そのせいで、西方の勢力は東方との連絡が途絶え、数多くの兵士を中央の断裂層と、燕国からやってきた軍団に包囲されることになった。そのせいで、すぐに東方の残った勢力はあっという間に降伏、燕国軍とクロウの育て上げた断裂層の軍隊は合流し、そのまま洪水のように残った獅国の領域も併合した。こうして、長かった北陸三か国統一戦はようやく終わりを告げ、燕国は新大陸において、楚国、唐国、元国、越国にならぶ一大国家に成長した。
***
「耀幽候!貴殿の並ぶ事の無い功績を称えて、貴殿には幽燕大公の名を与えよう!」
叙勲式に参加した大臣達がざわめく。それもそのはず、燕国において、<燕>の名は国王の親族、もしくは当代国王の兄弟にしか与えられない。そんな燕国王からクロウは燕の名を与えられた。それはつまり、国王がクロウを兄弟だと認めた証とも言える。
(また大公....)
「ありがたき幸せ!」
クロウは国王直々に権利の象徴とも言える、宝石で出来た青い燕のアクセサリーを手に入れた。周りには同じようなアクセサリーを服に身に着け、包帯を巻いた流征がクロウに他の大臣同様、握手をしていた。
叙勲式終了後、クロウは早速流征と話をしながら馬車に乗って共に幽燕邸へ向かった。
「流征、身体は大丈夫か?」
「ああ、お前の部下が無理矢理を連れて帰って来てな、左目が見えなくなったが、何とか生きてるよ」
「良かった良かった、燕章将軍は...」
「ああ、俺を助けるために、将軍は、殿を務め、命がけで....」
「そうか、墓は」
「将軍は王族の墳墓に埋葬された。歴代国王の傍に埋葬されるんだ、将軍も喜ぶだろ」
「そうか、将軍も誇り高いだろう」
短い感傷に浸った後、クロウ達を乗せた馬車はクロウの新築でもある幽燕邸にたどり着いた。




