違った意味で入学です
数日後、イリスに特待生用の寮の居場所を教えてもらい、とりあえず寮の自室に入ると、既に新品の教材やイリスの着ていたような学園の教師服が置かれていた。
「え?俺教師枠なの!?」
てっきり校長室で話をして、全員、クロウは生徒枠で入学だと思っていたら、気づかぬうちに内部の内緒の会議によって、クロウは特別教師枠での入学が決定していた。自分の教材を見てみると、<魔術理論と実戦における魔法使いの働き>と書かれた分厚い本だ。なるほど、タイトルから察するに、魔法だけではなく、より実戦的な魔術と冒険者パーティにおける魔法使いや魔術使いの活かし方、働き方を教えろと、まあようはRPGにおける魔法使いの動きってやつか。
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魔法と魔術、それから北国が新しく開発した魔導はそれぞれ特徴があり、広域破壊や自然現象に干渉し、本人の生まれ持ったMPと魔力で大雑把に発動するのが魔法、魔の法。
クラスⅩ大規模魔法<プロメテウス>などが例として挙げられる。
魔の術を使い、少ないMPでも局所的破壊や短いながらも自然現象への干渉を達成し、生まれ持ったMPが少ない人でも魔法行使によって得られる目的を達成することを目的とした魔術。
クラスⅩ大規模魔術<人工太陽>などが例として挙げられる
そして魔導、未来と未知の技術によって、徹底的な効率化が行われた魔の導き。魔法や魔術発動の素となる魔素に直接働きかけ、微量のMPで魔素を直接コントロールし、爆発的なエネルギーを生み出す。クラスⅩ大規模魔導<星の終わり>などが例として挙げられる
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翌日、しっかりと教材を読みこんだクロウは職員室で手早く他の先生に挨拶を済ませると、イリスに連れられて初めての授業を開始した。大きな講堂だったが、受講した生徒は数えるほどしかなく、できるだけ生徒が眠くならないように工夫をこなしながら教材通りに授業を進めていく。まあどれだけ工夫したところで授業ってもんは眠いよな。うん。わかるよ諸君。
「よし、じゃあみんな第三野外練習場に集合!行くぞ!」
早々に黒板授業をやめ、クロウはそういうと、数少ない生徒を連れて第三野外練習場に到着した。タンク、アタッカー、遠距離アタッカー、サポーター、ヒーラーのフルパーティがちょうど2つほど不自由なく戦える広さで、眠たい生徒たちの目を覚ますには丁度いいだろう。
「それじゃあみんな、一人ずつ十分な間隔を取って立ってくれ」
まあみんなとはいうけれど、生徒は4人しかいないけどね。
「召喚:<スピリチュアル・ナイト>、<スピリチュアル・ソードマン>」
それぞれ霊体の騎士を四人と剣士を四人召喚し、一体ずつ生徒と組むように指示を出した。そして左から順に、生徒達にはLv50のデュラハンと戦ってもらった。もちろん、戦闘中に、生徒には横から今日、授業で話したことをもう一度話していく。
「魔法はむやみに打たない。魔術は敵のスキをついて有効箇所を狙う。長期戦なら魔術を多く使い、短期戦なら魔法で一気にかたずけるべし」
その他にも低級ヒールは覚えて損がないので後ほど教会で教えてもらうなり、友達に習うなりして覚えると便利。瞑想による微量ながらの自動MP回復増加など、クロウは実戦的な事を惜しみなく教えた。数時間後、生徒達はもっと学びたいとせがんできたが、初日にやりすぎてはいけないと思ったので、全員がデュラハンを倒したくらいで、今日の授業は終わりにした。翌日、デュラハンと戦えるとの噂をどこからか聞きつけた生徒たちが多く集まり、意外にもクロウの授業は賑やかになった。流石にこんなに多くの生徒が増えるとは思っておらず、第三野外練習場での実戦授業も、理論授業が終わったと、一人一人日が暮れるまで続くことになった。
翌日、いつしかイリスが自分の杖を見て驚いていたのを思い出して、今日は実戦授業だけでなく、魔術について少し掘り下げることにした。
「魔術っていうのは魔法に比べてエコだと思われがちだけど、実は魔法よりも優れたところが何個もあって、一部の魔法使いは魔術使いを魔力が低いからとか、魔法の破壊力が欠けるから下にみる傾向があるけど、同じ魔力量でも、使い方によっては魔術が魔法に勝ることもある」
そう言いながら、黒板に基本的な<威力増加LvⅠ>の増幅術式を書く。
「これは魔術の一種である増幅術式と言って、魔法のように詠唱も魔法陣も必要なく、ただみんながよく使う魔杖や他の触媒に事前に刻んで、使うときにMPを注げばすぐに発動する」
そう言いながら生徒に増幅術式を書き写すように言う。増幅術式は一見難読難解だが、基礎となる魔術文様が重なり合って効果が発生しているので、基礎文様をすべて暗記できれば自分で自分だけの増幅術式も作ることができる。先のイベント戦の合間に、クロウはあの図書館に住み込みで鬼のように分厚い文様を全て暗記し、はてには異界の文様まで暗記し、体中に入っていたタトゥーや幾何学模様を全て増幅術式やマナタイト文に刻みなおしている。おかげでMPもほぼ無尽蔵になり、もはやよくわからない生き物になっていた。
「さて、みんな写せたと思うので、今日は第一練習場に行きましょう」
生徒を連れて第一練習場に着く。ここには魔力測定器が置いてあり、ここで増幅術式の便利さを身をもって体験してもらうことにした。運よく今日はイリス先生も授業参観に来ているので、イリス先生から普段使わないスペアの魔杖を借りた。
「では、まずは普通の何の増幅術式もない杖を通して魔法を使います。ファイヤーボール」
<クラスⅠ>、初級のファイヤーボールを的に向かって打つ。
測定結果は68。まあ妥当だろう。
「次に先ほど黒板に書いた<威力増加LvⅠ>の増幅術式を使って同じ魔法を使います」
イリス先生に承諾を得て、その場で先生の魔杖に増幅術式を刻む。
その後、ファイヤーボールの魔法を唱え、発動直前に増幅術式にMPを通し、効果を発動させる。測定結果は103。その測定結果を見た生徒とイリス先生は、驚愕の声を出していた。
「このように、魔術は魔法の威力を高めることもできます。この世には無数の増幅術式があり、無数の魔法と合う無数の魔術が存在します。皆さんも、魔法が使えるからと言って、奢らず、双方の研鑽を続けててくださいね」




