北陸三か国統一戦その4
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「なんか....色々直ってね?」
「ああ、半分くらい直ってんなこれ」
フェルンライオネルから派遣された2人は、崩れ落ちる寸前だった城門が、半分ほど直っている様を見て、驚愕せざる終えなかった。クラスⅦの土魔法、豪土槍で城門ごと貫いたはずだが、城門を中心とする城壁は、半分ほど修復され、最低限の防衛力は既に回復していた。
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「後方に回れ、絶対に逃がすな」
クロウはスパイ部隊に城門の前に立っている傭兵団2名の後方に回るように言う。そして同時に<魔術禁域>を展開し、周囲10kmを範囲内とする。不思議とこの新大陸にいるNPCにクロウの魔力的威圧は感じられないようで、クロウがどれだけ強力な魔法や魔圧を開放しても、ここにいるプレイヤーのみ影響を与えるようだ。
「連弩隊!構え!」
クロウは城門の上から合図を発する。魔法が使えないことに彼らが気づく時には、既に彼らの手足は連弩にズタズタにされていた。
「<洗脳>」
間に合ったか分からないが、なんとか彼らが傭兵団本体にダイレクトメッセージを送った事を阻止したと思いたい。動けなくなった彼らはデスポーンしない程度に呪いをかけておこうとクロウは思った。
「召喚:<異怪呪物:達磨片刃>」
赤と白色が織り交じった禍々しい小さな包丁を取り出す。そして洗脳で動けなくなった彼らの手足の筋を断ち切る。強力な部位破壊に高度の修復不能の呪いが付いたこの片刃の小さな包丁は、古代の呪物でもあり、彼らの行動を制限する上では最適な武器でもあった。その後、彼らを城門の外の空き地に、首から下を地面に埋め、放っておく。
「すぐに傭兵団本体が戻ってくるかもしれない!迎撃の準備しろ!」
クロウがそう言うと、元敗残兵達は素早く準備を始めた。
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「作戦中止だ。引き返せ」
「???」
フェルンライオネルの団長は、燕国に囚われた最後の城への攻城戦を急遽中止、全団員に来た道を引き返すように言った。
「後方の城を見に行かせた2人が帰ってこない。フレンドメッセージも来ない、何かおかしい」
「フレンドメッセージも?まさか体調不良?」
「ありえない、クラブチームの専用生命維持ポッドも使用しているんだ、体調不良になればすぐにポッドがゲームを中断させる」
「....まさか」
「そのまさかだ、魔族、洗脳術か何かで長時間拘束されているはず。しかもプレイヤーは死ねば教会や最後に訪れた街で蘇生する事を知って、あえて拘束に留めている。恐らくプレイヤーと鉢合わせたのだろう」
「まずいですね」
「ああ、燕国本国での増援部隊の編制ももうすぐ完了するだろう。これ以上時間をかけては幾国のあの兵士達がまた帰ってくるかもしれない、そうなれば後方のプレイヤーと前方の燕国軍で板挟みだ。ならば敗残兵しかいない後方を先に叩くのが上策」
団長はそう言いながら、集まった団員に大至急後方へ戻る事を告げ、戦闘態勢で全員テレポートするように言った。
「しかし団長、あの2人がメッセージを送ってこない限り、どの城か分かりません」
「ライト、貴重だが探査アイテムを使え、一番強力な魔族がいる場所を特定するんだ」
「分かりました」
ライトと呼ばれた魔法使いはポケットから水晶のようなアイテムを取り出し、そしてそれを口に入れてかみ砕く。すると、彼の瞳が青色に変化し、そのまま魔法で上空へ浮遊した。それと同時に彼はメニューからマップを開き、場所を特定する。
「特定しました!すぐにゲートを開きます」
<ゲート>は移動魔法の1つであり、時間はかかるし、ゲート石と言う高価なアイテムを発動するたびに消費する必要があるが、複数人を同時テレポートさせられる便利な魔法だ。今回のような100名同時転移ならば、ゲートが丁度良い。
「飛びます!3、2、1!」
一瞬視界が白くなり、すぐさま彼らは短い浮遊感に襲われる。そして浮遊感が収まった頃、彼らは何かが首元に当てられている感覚に襲われた。
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「えぇ....?」
流石のアホさ加減にクロウも声を出さざるを終えない。ゲートは確かに大人数の移動に便利だが、発動してから実際に飛んでくるまでに長いチャージや詠唱が必要だし、転移予定先の場所に魔法で出来たゲートが出現する。無人や知能の無いモンスター生息域ならゲートは便利だが、いくらNPCはノン・プレイヤーとは言え、怪しい光が突如出現すれば、誰だって警戒するだろ....
「<豪山烈破>!」
傭兵団の中で恐らく前衛を担っているだろう人物がスキルを使用して周囲の兵士を吹き飛ばす。
(しまった、スキルを封じるのを忘れていた)
試しに<洗脳>スキルも使用したが、何かアイテムのようなもので弾かれてしまった。
「撤退!連弩兵は射撃を開始しろ!」
彼らを取り囲んでいた兵士に引き下がるように言う。同時に、四方八方に潜んでいた連弩兵が射撃を開始する。
「ぐっ!<鋼鉄化>!<範囲吸鉄>!」
連弩の矢は次々と前衛に不自然に吸われていく。恐らく何かスキルで、矢を吸っているのだろう。
「大連弩を使え!」
攻城兵器を破壊するための巨大な連弩に兵士が集まる。鍛え抜かれた兵士3人同時に引かなければ引けない巨大な連弩だが、攻城兵器や投石機すら破壊できる巨大な連弩は、安々と前衛達の身体を貫き、彼らが本拠地登録している場所の教会へ送り返した。
「前衛が死んだ!蘇生させるな!次は相手の医療兵を狙え!」
だが、相手の弓兵もバカではなく、スキルを使用して城壁の上の大型連弩を破壊する。
「クソ!」
クロウも負けずと弓を引いて相手の弓兵を射ち殺していく。城門の上の兵士も多くやられたが、何とか蘇生を阻止する事が出来た。
「よし!連弩兵!射撃を止めるな!そのまま相手を鎮圧し続けろ!」
残った傭兵団員も、魔法が使えないとはいえ、良い装備をしているせいか、ある程度は耐えられる。だが、止まりない連弩の射撃と弓兵の強力な射撃により、次々と相手の治療担当を中心に倒れていく。嫌らしい神聖防壁のような魔法で一時的に攻撃を防がれたが、残った大連弩で防壁ごと貫くと、すぐに彼らの抵抗虚しく、全員矢に貫かれて教会へ戻った。
フェルンライオネル全員がポリゴンと化し、そのまま消滅したのを見ると、クロウは暗闇からスパイ部隊が敵の暗殺部隊を全員倒したのを確認。そして、クロウはごく少数の犠牲を支払ってフェルンライオネルへの完全勝利を宣言した。