北陸三か国統一戦その2
「お邪魔しまーす」
王宮本殿の中に足を踏み入れる。国の大事を国王と話すべき大臣達は、一様に幽鬼兵に大きな刀を首に当て得られ、惨めに膝をついて頭を下げていた。
本殿の王座の近くでは、既に幾国王が伝国の玉石を赤いケースに入れて頭を下げてクロウ達に捧げたまま膝をついている。
「.....」
クロウはそんな無様を王を見て、特に何も言わずに、近くの幽鬼隊に大臣の首は全て刎ねるように言った。
それを聞いた幾国王は更に頭を低く地面にこすりつける。
(命乞いね...)
ここでこいつを殺しても良かったけど、それは燕国王が決める事なので、クロウは手下に鉄の檻を持ってこさせ、伝国玉石を共に、彼の身ぐるみを剥いだまま燕国国王へ引き渡す事にした。そうして大臣の死体と血で染まった宮殿の中、幾国の玉座に芝崎城城主を座らせる。
「どう?座り心地は?」
「えへへ、えへへへへへ、えへっへへ!あっははは!」
「良いみたいだね」
「じゃあ、約束通り、これからは君が国王だ」
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!」
城主は何度も感謝のために玉座から降りて土下座して頭を地面に打ち付ける。
「ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうございます!ありがとうおざいます!ありがりありがありがありが」
「リリス、もう十分」
クロウの影に隠れていたリリスが出てきた。
「分かりました」
城主も白昼夢を見ていたようで、クロウは下を見ると、城主は頭から血を流して死んでいた。
「さて、西部戦線ももうすぐ終わるだろうし、さっさと立ち去るか」
散らばる死体を一体どうしようか考える。まあ後で来る西部戦線の将軍達に任せるか。
***
幾国国王の死報を聞いた西部戦線はすぐに崩壊、多くの兵士は降伏した。一部兵士は最後まで抵抗しようとしていたが、多勢に無勢、すぐに彼らも捕縛された。戦線が崩壊した後は、王宮へほぼ一直線であり、王宮に近づくにつれ、彼らは不気味さを感じ始めた。
「臭い...」
まだ夏には遠く、夜は少し冷えるほどの天気だが、酷く鼻をつく臭いが容赦なく漂ってくる。そんな臭いの出所に頭を傾げていると、すぐに答えが見えてきた。
「なんだ...これは...」
燕国の兵を率いる将軍として、少なくない戦場も、戦争の悲惨さも知っているつもりだ。そのつもりだったが、開かれた王宮への扉をくぐり、本殿への通路に踏み入れると、そんな心構えも一瞬で打ち砕かれた。
茶色の高級な樫木でできた通路は真っ赤に染まっており、幾国王を守る禁軍と近衛兵は全て首と胴体が分かれていた。それだけならばいいが、通路の手すりの上には苦しんだ表情のまま首を刎ねられた頭がずらりと本殿まで並んでおり、通路の両脇には胸に穴の開いた死体がずらりと並んであった。空いた胸の心臓は手すりの上の死体の口に詰められており、時間が経ったせいか、首から滴る血と胴体から通路にあふれ出た血は乾いていた。
「あっ、こんばんわ、西部戦線の指揮官?」
本殿では噂に聞いた芝崎城防衛戦の際に応援に来たクロウという将軍がいたが、彼の今の姿はどこからどう見てもまともな人間には見えない。本殿の両脇、本来は大臣が経って国事を討論するべき場所には、彼らの首が綺麗に並べられており、幾国王の玉座の前には、その大臣の首から下の胴体で作り上げられた椅子の上に、クロウが魔族の少女のような人物と傲慢不遜に座っていた。
***
(いやね、玉座に座るわけにはいかないし、地面にそのまま座るのもね?リリスに椅子持ってきて、て言ったらこいつこの場で作りやがった!)
クロウは色々と説明したいことがあったが、それよりも先に西部戦線の将軍が話を聞いてきたので、彼らに全て話した。その後、クロウは「後はよろしく!」とだけ言って、手下の50万人を全て再び幾国内に散らして、クロウは準備を終えた幾国王連行部隊と共に燕国へ向かった。
燕国の国王とは初めて会ったが、彼とは特に長々と話をする事はなかった。最低限の褒章と報酬金などを授けると言い、国王も爵位は既にもう最高位のを上げているので、他に欲しいものは無いか聞かれた。クロウは国王に燕国本国での家が欲しいと言うと、国王は喜んで一等地と大きな家を用意してくれた。
「ありがたき幸せ」
クロウは喜んで家の鍵と土地の利権書を国王から貰った。その後、王宮から出たクロウは急いで軍報を聞きに行く。クロウは東部戦線、流征と燕章達の様子が気になっていた。並みのNPC同士の争いならば、流征達は負けるはずはないが、クロウのような他のプレイヤーがいれば分からない。クロウほど強いプレイヤーがいるとは限らないが、Lv150を超えたプレイヤーがいれば問題なく流征達は負けるだろう。
「緊急!緊急!獅国戦線緊急事態です!」
王宮内の宦官の元へ傷だらけの伝令兵が飛び込んでくる。知らせを受け取った宦官がそれを見ると、急いで王宮の方へ走っていった。それを見たクロウも急いで道を引き返す。
「読め!」
燕国王もその獅国戦線緊急事態と言う知らせを聞くと、急いで使くの大臣に読ませる。
「と、獅国戦線は既に崩壊!燕章将軍は戦死!どうやら獅国にプレイヤーと思しき傭兵団が参戦、一瞬で重要防衛ラインだった境界線最大の城である獅西城がまるごと吹き飛んだと、か、書いてあります!」
「ふざけるな!」
燕国王は近くにある書類を大臣に投げつける。怒り心頭と言った表情でさらにその大臣を睨みつけていた。
(かわいそう....)
大臣君ただ書類を読み上げただけなのに....
「耀幽候!耀幽候!」
「ここに!」
「耀幽候!至急増援に向かってくれ!我々は幾国王を処刑し、軍隊を整えた後大至急増援に向かう!」
「分かりました!すぐに出ます!」
クロウは王命を受け取ると、王宮を飛び出し、馬に乗って獅国へ向かった。クロウの50万の軍勢は全て幾国内の治安維持のために動かすことができない、燕国内の空いている兵士も本国防衛のため動かせない。クロウは今から兵をかき集めるわけにもいかないので、まずは獅国戦線に向かうことにした。