北陸三か国統一戦その1
「将軍、芝﨑城は完全に制圧されました。周辺都市は漸次鎮圧可能です」
「うん、降伏勧告を最優先に、彼らには燕国の力になってくれるなら新しい家や土地をあげると言ってあげて」
「は!」
多くの市民は耀幽候の名声と芝﨑城の現状を知っているので、彼らはそれを聞いただけでクロウのために家の外に燕国の旗印を掲げた。途中、いくつかの街や都市は耀幽候と徹底抗戦すると言っていたので、クロウの特殊部隊である<壁虎隊>を派遣する。彼らはクロウの開発した特殊な登攀装備を持ち、攻城のための鉤縄を発射し、素早く壁を登って城を内側から開ける。そうして城の中に入ったクロウの部隊は、城を守る兵士を一人残らず皆殺しにした。
「俺に従う者には富と降伏を、従わない者には死を」
クロウは短くそう言うと、引き続き大軍を引き連れて幾国王宮へ向かう。足音のしない幽霊馬に乗った耀幽候は、芝﨑城から王宮への繋がる石畳を馬に乗って傀儡城主と共に歩いていく。道の両端はたいまつを剣を持った全身鎧の兵士が規律正しく行進しており、彼らのさらに外側には、<幽鬼隊>や他の部隊が周囲の都市を鎮圧していた。時にはクロウに従い、多くの金と食料を渡された歓喜の声が、時にはクロウの部隊に無惨に殺される凄惨な悲鳴が上がった。そんな声はさてしらず、クロウはただいつものように鼻歌を歌いながら、のんびりと馬を引いて王宮へ向かった。
***
「陛下!降伏を!奴らは裏切者ですが、兵力差がありすぎて勝ち目がありません!」
幾国王は慌てる大臣の様子を見て、さらに慌てる。伝令兵から次々前線の敗報を差し出し、その数は既に慌てる大臣の腰ほどまで積みあがっている。
「国王!もう持ちません!すぐに準備を!」
「何のだ!」
「亡国のです!」
「ふざけるな!余は幾国第七代目国王だぞ!先祖代々燕国とは平等な連立国王だ!彼らは....彼らが裏切るはずがない!」
「国王!」
彼らが言い争う間にも次々と敗報が飛び込んでくる。ほとんどは芝﨑城、つまり東方地域の落城や降伏、その他将軍の戦死などだが、今ではどんどんと王宮中心部近くの城の敗報も入ってくる。数は少ないが、西方、つまり燕国付近の敗報も続々と入ってくる。
「そうだ!余の!高給で雇い入れたぷれいやー達はどうした?!」
「ぜ、全員逃げました!」
「くっ!」
ここまで来てはもうどうしようもない、幾国国王はその玉座に力なく座り、自らの王冠がズレているのも元に戻せぬほど、彼は深く絶望した。
***
「こんばんわ~?」
幾国王宮の扉を開ける。国王を守る禁軍と近衛軍もクロウの策で真っ二つに分かれており、クロウの合図1つで水のようにクロウの精鋭兵の1つである鬼王兵は流れ込んでいった。
<鬼王兵>
梧国からやってきた兵士の中でも、クロウの特に厳しい訓練を生き抜いた精鋭兵。冷徹無慈悲な彼らは道徳心と慈愛の心が無く、クロウを始めとした指揮官の命令に絶対服従をする。彼らはたびたびクロウの指示で宇国や幾国のさらに上方にある蛮族領へ戦争を吹っ掛けて、自らの戦争経験や戦闘経験を育て上げていた。特に北部蛮族領には多くの遊牧民族が住んでおり、その地域と生活習慣から、大きくて持久力のある強い馬が多く、それらの馬を手に入れるためにも何度も何度も蛮族領に侵攻を繰り返しては無数の牛や馬を略奪した。そのおかげで、鬼槍隊を始めとする高機動の部隊の馬の数は決して欠ける事は無い。そんな彼らは赤と金を基調とした重厚な鎧を着ており、背中にはクロウ特製の<鬼哭槍>と言う星7相当の武器を装備している。シンプルに槍のみを持つ彼等だが、徒手格闘技術も優れており、槍を持てば鬼が泣き、槍を捨てれば鬼が逃げ出すほどの戦力を持っている。彼らは仮面をつけていないが、鬼王隊に入れるようになる頃には、その威厳と全身から溢れ出る殺意が、見ようとする者を頭を自然と下げさせるという。
「いやぁ!助け...」
「ぐあっ!」
「なん....」
「ひっ....」
鬼王隊の兵士達は次々と禁軍と近衛軍を見境なく殺していく。梧国兵士の特徴なのかはクロウには分からなかったが、彼らは鍛えれば鍛えるほどより強く大きくなっていく。一度スキャンした事があるが、彼らはその特性に<成長上限の欠落>と言うものがある。好戦的な性格になるのと、人一倍飯を食うくらいのデメリットがあるが、彼らは訓練と戦争をこなせばこなすほど武力がどんどんと増えていく。おかげで今や鬼王兵は既に背丈2mを超え、その体つきはまるで岩山のように大きくなっていた。文字通り、<鬼>のような兵だ。
「王、王宮は全て支配下に入りました、本殿も既に幽鬼兵達が抑えてあります」
「よし、じゃあ西部戦線の彼らには王は既に囚われた事と、それに伴う降伏勧告だね」
「了解した」
近くの伝令兵にそういうと、彼らは早速西部前線へ向かった。