出兵と戦前策
それから1か月の間、クロウは地獄のような訓練を全員に課す。既存の十五の訓練から、現代のもっと応用性の効く基礎訓練に切り替える。切り立てた丸太を八の字に走るものや、細い水平台をかけていくもの、深い穴に飛び込み、そこから這い上がる訓練、素早く梯子をかけて、そこを登る訓練や川に飛び込んで素早く向こう岸まで泳ぐ訓練など、実戦で考えられるあらゆる状況を想定して、必死に彼らを鍛え上げた。それだけではなく、彼らの食事も改善すると同時に弓の腕前上達と山でのサバイバル訓練もかねて、定期的に彼らに山に入らせ、そこで自ら弓を使って狩りをさせる。山賊予防のためもあるが、山での生活は全身が鍛えられるし、同時に入り組んだ木々の生えている場所では聴力や視力、それから弓の命中精度に、肉が食いたくてたまらない弓兵達が死ぬ気で野生動物の探知範囲外から矢を撃とうとヤッケになっている。クロウは時折彼らがサバイバル訓練をしているこの蓬莱山に魔素を振りまいて動植物の成長を促進しているため、時折肉を食っている手下の兵士が武力+1や知力+1などの恩恵を受けている事もクロウは知っていた。
1か月後、逃げ出した弓兵40名はさておき、残ったクロウの手下100名は見違えるほど大きく強くなっていた。長距離走を世界記録更新するほどの速度と持久力を維持する事が出来、クロウの渡した青鉄弓でも600mの的の中心に連続100本を的確に当てる事ができる。さらには蓬莱山で動物を狩っていた経験から、動く的も的確に狙った場所へ当てる事が出来、優れた聴覚、視覚、それから追跡能力に隠蔽脳力、潜伏能力なども兼ね備えたもはや特殊部隊となった。
「おい十五、うおデカ、なんだその弓は、化け物かよ」
「はは!俺の弓だ、どうだ良いだろう!九郎が作ってくれたんだ」
「マジかよ、今度俺の盾も作ってくれ」
「いいですよ、時間があればですけど」
「やったぜ、あっといけねぇ、そうだそうだ、話がある」
「どうした?」
「戦争だ」
十五だけではなく、近くで訓練をしていた三虎や十二達百人長全員が集まった。
「どことなんだ?」
「梧国だ」
梧国、たしかマップ上では燕国の右の方の同盟国、幾国と接している国で、ここはたびたび小さな紛争を繰り返していると聞いた。今までは小競り合いだけだったが、まさか戦争に発展するなんて
「分かった、お上はなんて言ってる?」
「全軍出撃だとよ」
「こいつあぁ大きく出たな」
十五は渋い顔をしているが、諦めたようにため息を着くと、すぐに行動に出た。
「全員今日から弓の点検、それから矢を作れ!矢筒もできるだけ大きな物にしろ!」
恐らく悪戦が待っているのだろう、確かに、全軍出撃はなかなか無い状況だ。いくら周囲を同盟国に囲まれているとは言え、燕国王を守る近衛兵を除く全軍を出撃だなんて、傾国の大戦争以外ほぼ考えられない。クロウは矢だけではなく、手下にはこっそり固形食も作って持たせるように言った。高エネルギーな食物を押し固めて作る非常においしくないが、腹は満たせるクロウ特製の固形食の作り方を部下にも惜しみなく伝授した。
それから1週間後、予想通り、燕章将軍が全兵営の兵士を集めて戦前演説を始めた。まあよくある指揮の上がる良い話だ。将軍が話を終えると、クロウと十五、助八、それから他のいくつかの兵士は燕章将軍所属に配分された。
翌日、東門から全軍10万人が出撃し、幾国へ向かって進行する。強行軍になるほど急いではいなかったので、クロウものんびりと手下の兵士を率いながら進む事が出来た。燕国から幾国に行くにはきちんと整備された道があり、最大で10万人の兵士が同時に進行できるほどの広さがある。それにより、1週間ほどで燕章将軍達の兵は幾国にたどり着いた。他の将軍達が率いる軍隊も後からやってくるようで、一足先に着いた燕章は幾国の国王に燕国の書類を差し出し、すぐに前線の場所と位置、それから敵の情報を聞き、すぐさま交戦予測場所へと向かった。
<芝崎城>
幾国へ進行するための山間に建てられた巨大な城の1つ、左右を山と川に囲まれた自然の城塞でもあり、今回、梧国が攻め落とそうとやっけになっている城でもある。この城は守るのは簡単だが、攻めるのは非常に難しい場所だが、どうして彼らはこんな大群を率いてここを攻めに来たのだろうか。クロウは不思議に思っていた。
「燕章将軍、お待ちしておりました」
幾国の城主が城門に上がってきた燕章将軍を出迎える。後ろには千人長の他にクロウと十五もいる。そう遠くない場所では幾国の軍隊が既に営地で休んでおり、ざっと見て20万人ほどいる。梧国は燕国などの北部三か国とは違い、資源が少なく人が多い、それにより、定期的に周囲諸国に侵略して、食料や武器を奪って生活している。その結果、彼らの兵は凶暴であり、精悍とも言える。
「ふむ、多いな」
「ですね、ざっと20万人、どうします?」
「先手を打つしかあるまい、こちらは城を守る守備兵を入れて10万と5千人。自然要塞があるとはいえ、厳しい戦いになる」
「は!」
燕章将軍は城主に城内の民は逃がせられれば逃げるように言い、残りたい者は好きにするが良いという指示を出した。
「随分と悲観的だな」
十五は驚くほどラフな口調で燕章将軍にそういう。横で話を聞いているクロウもその度胸の大きさに驚愕した。
「うるせぇ、20万人だぞ、どうすんだよこれ」
「はっ!情けねぇ、俺達に任せな」
「はぁ?お前と九郎、200人ぽっちでどうすんだ?」
「夜襲だよ、打って出るんだ」
燕章将軍は驚いた顔で十五を見た。
「お前....何か策が?」
「こいつだ」
十五はクロウの背中を優しく押し出した。
「見ろ、こんな良い弓を作り出した男だ、こいつは、いい将軍になる」
十五はクロウに作ってもらった弓を突き出しながらそう行った。
「ったく、その意味わからん自信に賭けてみよう」
「おう!」
十五はクロウと共に城門を降りて、作戦を考えた。20万人の精鋭兵vs10万と5千人ちょっと、厳しすぎない?兵力差2倍だよ。こちらは守城側とは言え....
「九郎、お前の手下達に1つお使いを頼みたい」
「お使い?」
「ごにょごにょごにょごにょ」
「うわっ、お前最高だよ十五」
「へへ、昇格の話は通しておくよ」
「へへ、任せたぜ」
クロウと十五は悪そうに笑った後、クロウは早速手下に行動に移すように言った。
***
「ぐはぁ!うぅ!」
「うえぇ!も、漏れるぅ!」
「なんでぇ!うううぅ!ダメだ我慢できねぇ!」
梧国の兵士は食後の夜、全員激しい腹痛に襲われていた。これはクロウと十五の策の一つで、梧国の兵士達の主な水源は川下、つまり川上はクロウ達芝崎城にあるのだ。なので、クロウは急いで城内の水源である川の一番端、城内にいる住民に影響を与えない場所から大量の下剤と腹痛剤、それから頭痛を引き起こす毒薬などの強力な薬を川に流しておいた。それにより、梧国の兵士は夜間、全員激しい下痢と腹痛と頭痛に侵され、まともに休めもしないし動けもしなかった。そうして遠くから20万人全員がしっかりと苦しみだしたのを確認すると、クロウ達は正門ではなく、城の裏口から山をぐるっと回って出動する。
「全員散らばれ、一撃で必ず殺せ、バレたらすぐさま山に入って身を隠せ」
クロウはそれだけ全員に言うと、手下の弓兵100名に行動に移すように言った。
***
「さて、なぜ弓兵が古代のスナイパーであると言われたかお見せしましょう」
クロウは手下全員が梧国の営地から約600m離れた場所で偽装服を着て待機している。クロウはスキルでそれを確認すると、最初の合図となる一射目を放った。
「その良い服、お前かな?」
1km以上離れた木の上から真柳帝弓を使って容赦なく矢を撃ちだす。スキル等は使っていないが、普通に射っただけで、トレイをしていた指揮官らしき存在の首から上は矢に触れた瞬間、トマトのように爆散した。
(うわつよ)
それを皮切りに、クロウの部下が次々と矢を放つ。100人しかいないが、対する相手は20万人、腹痛と頭痛に苦しんでいるとはいえ、怒り狂った兵士は恐ろしい。だが、そんな兵士もまともには動けず、剣や盾を持ち上げるのもやっとで、まともに駆けだすこともできず、ただ延々とクロウ達の的になるしかなかった。
今更ですけど、後書きに補足説明やらを書いた方が分かりやすいですか?国の背景とか、種族説明とか、武器解説とか




