百人長クロウ
「九郎!前へ出ろ!」
「はっ!」
燕国の武将である<燕章>が弓営にやってきた。クロウは名前を呼ばれたので大人しく訓練を中断し、前へ出る。
「貴様の山賊討伐の功を評して、百人長に任命する。足りない人間はお前が自分で探してこい!以上!」
「ありがたき幸せ!」
クロウは百人長用の鎧と軍令符を受け取った。燕国の軍令符は空飛ぶ飛燕の形となっており、この軍令符を持つ者だけが兵士100人を自由に動員する事ができる。
「九郎さん!この命は九郎さんに助けられました!自分は九郎についていきます!」
先の山賊討伐戦で、将騎はその愚かさと行動から兵営を追放、永遠の兵役停止を言い渡された。残りの30名はクロウに救われた事を感謝し、傷も治った頃に全員クロウの下で弓兵になると言った。だがどの道まだ人数が足りていなかったので、クロウは彼らの十分な路銀を持たせて、それぞれに里帰りするように言った。そして彼らには、「5人連れてこれれば銀貨10枚、10人連れてこれば銀貨100枚、100人連れてこれれば金貨1枚渡す」と言い、彼らに2週間の時間を言い渡して1度解散した。クロウはその間、最低限の訓練をしつつ、新しい弓を作る。
まずは自分用の複合弓、いわゆるコンポジット・ボウを作るために蓬莱山へ潜る。手持ちの素材で作れる弓の内、<柳帝弓>と言われる弓を作ろうと思っていた。100年以上育った王柳木の秋の終わりに取れる一番丈夫や柳の筋と、風渡りの繭と言われる軽い繭糸、さらに火山蜘蛛の吐いた糸を弦とし、蓬莱山に存在すると言われる蓬莱の美鹿と言う鹿の角と、隕鉄を組み合わせた弓幹で作られるのが柳帝弓だ。クロウは山を潜る事数時間、蓬莱山の山腹にて水を飲む美鹿を射抜く。クロウは綺麗に解体し、その場で角、川、肉に分解、そして全てアイテムボックスに入れておく。翌日、燕国の鍛冶工房を巡り、少なくない金を払って工房を借りる。まずは自分のために柳帝弓を作る。しっかりと最初から最後までできるだけ手作りをし、半日かけてようやく作り上げた。
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<真柳帝弓>
レア度:星10
<クロウ>が手作りした伝説の複合弓の一つ。王柳木の秋終わりの一番乾燥した丈夫な筋と、風渡りの繭の繭糸、それから火山蜘蛛の糸を組み合わせて作りあげた弦は、軽くて丈夫であり、非常に優れた耐刃、耐火、耐水を持つ。弓幹は蓬莱の美鹿の角と皮、雷星の隕鉄、それから火炎鳥の爪で作り上げている。その結果、この弓は持つだけで<攻撃速度上昇・極><存在希薄化><蜃気楼><攻撃力上昇・極><幸運・極>を齎すことができる。
装備制限:Lv1200以上、筋力6000以上、堅剛5500以上、体力5800以上
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「またとんでもない物を作り出してしまった。」
翡翠色と、そして時折揺らめく赤橙色の弦に濃茶色の弓幹、構えた矢は並みの矢のはずなのに、弦を引いた瞬間、矢じりは堅固不壊の隕鉄で出来たような硬さと鋭さを誇り手を離した瞬間、一呼吸の間に、鳥の羽ばたき程の音と共に矢は工房裏の広場の600mの藁と木でできた的をまるで紙のように貫き、そこから更に600mほど慣れた鉄の壁を安々と貫通して隣の家の分厚い石の壁に半分その矢を埋めてようやく止まった。
「うわやば!」
クロウは急いで魔法で矢を手元に戻し、<復元>魔法で隣の家の壁と鍛冶工房の壁、それから的を直しておく。軽く引いただけでこの威力、戦場で本気で目いっぱい弦を引き絞れば軽く数百人は貫通できるだろう。
「次は十五達用の弓を作るか」
余り強すぎる弓を渡しては怪しまれるので、今の自分用にも1つ作っておく。鋼鉄と大蛇の筋、それから青竹と言われる瑞々しく弾力のある竹で作り上げた弓だ。
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<青鋼大弓>
レア度:星6
鋼鉄と青竹、それから大蛇で出来た大剛弓。並みの力では弓を持ち上げる事すらできない。攻城兵器としても使用可能
装備制限:筋力400以上
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(これ使えるかな?)
10本ほど作っておく。さらに自分の率いる100人の兵士用に普通の弓を一括制作しておく。ポータルへ潜る前に、事前に作った弓は星9近くの性能を誇っており、もし彼らがそれを引けたなら全員最低でも千人長が万人を率いる将軍クラスにならないと引けないだろう。
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<青鉄弓>
レア度:星3
鉄、青竹と麻で出来た弓。
装備制限:筋力100以上
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(よし)
これくらいなら特に問題ないな。青鋼大弓は普通に引けば最低でも800m、目いっぱい引き絞れば1000m飛ぶ。青鉄弓は普通に引けば400m、目いっぱい引けば600mほど飛ぶなかなかの優れものだ。クロウは普通の矢と毒矢も大量に一括生産しておく。そして2週間後....
「クロウです、戻りました」
「お、戻ったか九朗、お前らの手下も丁度戻ってきてたぞ」
規定時間ぴったりに戻ってきた手下をクロウは数える。ふむふむ、総勢140名ほど集まったようだ。元の30人には規定通り金を渡し、彼らに早速訓練を始めるように言った。
「それで九朗、俺達にプレゼントってなんだ?」
クロウは集まった弓営の全百人長に青鋼大弓を渡す。最低でも2mほどあるこの大弓は十五にしか持ち上げられず、他のメンバーは弓を地面に着けて弦を引くしかなかった。
「こいつあぁ、とんでもない弓だな」
「ああ、次の戦争はいつになるか分からないが、その時のためにな」
「ぐぬぬぬ!持ち上がらん!」
猿七と三虎は必死に持ち上げようとしていた。
「くっそ!俺ももっと筋トレしなければ」
十二と鹿六もその大弓を背中に背負い、訓練に加わった。
彼らを尻目に、十五はその大弓を安々と持ち上げ、いつのも矢をかける。だがいつのも矢では小さすぎて矢を打てない。
「十五、こいつを使ってくれ」
もはや槍に等しいほどの巨大な矢を渡す。攻城兵器の1つであるこの矢は、持ち上げるだけでも一苦労だが、十五はそれを安々と持ち上げ、弦にかけ、轟音と共に安々と1000m以上離れた場所へ撃つ。
(あれー?)
確かに十五は他の百人長より背が高く、熊のような体格をしていて、誰が見ても強そうだが、他の人が持ち上げられない青鋼大弓を安々と片手で持ち上げ、丸太ほどある特殊な矢を更に安々と弦にかけ、抵抗なく弦を目いっぱい引き、簡単に1km以上を飛ばす。
(え、十五お前英傑クラスでは?<スキャン>)
ぎゅっとクロウの作った大弓を握りしめ、初めて手になじむ弓を手に入れたような、そんな満足げな顔をしていた。
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名前:十五(燕流征)
武力:70/110
知力:65/100
政治力:50/75
統率力:60/105
魅力:60/80
特性:天弓王将<天から与えられた弓の才能を持つ。星6以上の弓と万人以上の兵士を率いる事ができれば、本当の実力を発揮する>
スキル:天性の怪力<生まれながらの怪力を持つ>、鷹眼<弓の精度+60%>
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スキャンの結果、十五は世紀の大将軍の素質を持つ人だった。




