西部王国到着です
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西部王国
四か国の中ではそこそこ歴史のある国で、西部王国で多くととれる魔法資源、魔素石や魔鉄がその国の魔法的優位を決定していた。過去には大聖女がいたり、聖人が降り立ったしたと言い伝えられている国で、魔法だけでなく、宗教的側面も強い国家である。そのせいか、国王、魔法学院、そして教会の三勢力の権力が拮抗しており、意外にもその三権分立が一時的な平和と安定をもたらしていた。
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馬車に揺られ一週間、北国ペトロデルから西部王国の首都ジョージアまでたどり着いた。
たどり着いた瞬間、クロウは言われようのない不快感と気持ち悪さに襲われる。恐らく神聖な教会が近くにあるせいだろう。頭の中では言われようのない教会や聖人像への破壊衝動が沸き上がってきた。北国はベルアルや歴代北王が全員無神論者のため、教会などはなかったが、西部王国の首都ともなれば当然のように見習い魔法使いと見習い修道女が一緒に歩いていた。北国にいた時の顔は先のイベント決算時にバレてしまったので、いつぞや南部王国の魔法兵として働いていた時の姿形に偽造していた。
Lv34の魔法使い・元素系、サブ職業は吟遊詩人。ステータスもそこそこで、称号は<普通の吟遊詩人>、祝福も呪いも何もない、これまたモブのような一般人だ。一週間後は西部国立魔法学園の中途入学試験の試験日なので、それまでは西部王国のギルドで依頼をこなしつつ、西部王国についていろいろ調べることにした。
一週間後、どうやら西部王国は三つの派閥が存在し、それぞれ王国派、学園派、教会派と別れ、王国派は親王派と貴族派、学園派も古式魔法派と新式魔法派、ま、ようは古式魔法派が北国で開発された新式魔法を良しとしない昔からの魔法形態を尊重する魔法使いと、北国の開発した新式魔法も受け入れられる魔法使いたちだ。そして教会も聖女派と聖人派に分かれ、もう全ての勢力が内部でも外部でも権力闘争をしていた。
(帰りたい)
北国にいたことがもうすでに恋しくなってきた。絶対的な統治者であるベルアルがいるからこそ、こんな風な、なんとか派閥なんてなく、あったとしてもベルアルがすぐに抹殺及び統合していた。なんだか入学前から面倒ごとの匂いがプンプンしてきた。でも折角やってきた手前、簡単に帰るわけにはいかないので、諦めて入学試験に行くことにした。
「こんにちは、入学希望ですか?」
「はい」
「お名前と職業、それからLvをお教えください」
「名前はクロウ、職業は元素系魔法使い、レベルは34です」
「えと、失礼ですが、あの魔王と何かご関係が?」
「え?」
「あっいえ、お名前が...」
「あっ、いや偶然です」
「ほっ、よかったです。では番号札はこちらになりますので、学園内の第一練習場でお待ちください」
クロウは番号札を受け取り、正門から学園内に入る。どうやら今は学期と学期の間の休みのようで、生徒は誰一人いなかった。特設された看板を頼りに、右へ左へ下へ上へと進んでいく。暫くそうしていると、大きな魔鉄でできた的が見えてきた。どうやらあそこが第一練習場のようだ。近くにボランティアの生徒らしき人影もあり、クロウの手にある番号札を見つけると、丁寧に待合室まで案内してくれた。
せっかくの休みなのに偉いな~という気持ちを込めて、クロウは外で買った飴玉を一つ渡した。そうして待合室で大人しく待っていると、自分の番号が呼ばれたので、係員に従って所定の位置に行く。
「初めましてクロウさん、私の名前はイリス。本校では冒険者クラスを担当しております。今から貴方に行ってもらうのは第一試験である魔力の強さチェックです。貴方の持てる一番強い魔法をあの魔鉄の的に撃ちこんでください。的に当たりさえすれば貴方の魔法の威力、つまり魔力を測ることができます。入学には最低でも100必要です。機会は三回、いつでもどうぞ」
イリスと名乗った女教師はそういうと、一歩下がってペンを持ち、記録の準備を始めた。
正直クロウは少し悩んでいた。というのも、魔鉄は素材としては悪くないものの、北国の学園では獄凍鉄を使用したもっと精密で頑丈な機械を使用しているので、西部王国の的はどれくらいの強さで放てばいいのかわからない。その上、イリスが古式魔法派なのか新式魔法派なのかもわからない。いろいろ考えたが、とりあえず古式魔法派を示す伝統的な魔杖を取り出した。
「な、なんですかそれは」
イリスが怯えたようにクロウが手に持った魔杖を指さす。
「え?ただの魔杖ですよ?」
数百万の増幅術式に数十万の軽減術式、魔導化に加えて古式精霊術と異界のマナタイト文を刻んだだけだが?
「じゃ、イリス先生、一回目行きますね」
Lv34の一般元素系魔法使いにふさわしい魔法、うーんクラスⅡのフレイムランスくらいかな?
「フレイムランス」
クロウが魔杖の<威力増加LvⅡ><消費MP軽減LvⅡ><加速LvⅠ><先鋭化LvⅠ>の術式文様に魔力を通す。すると杖の一部が光り、一般的な赤橙色のフレイムランスではなく青白い色のフレイムランスが出現し、目にもとまらぬ速度で的へと飛んで行った。そして的に当たると、小規模な爆発を起こし、的の中央を釘で刺したかのようなへこみと爆発跡を残した。測定結果は1200。学園で一番待遇のいい貴族級の勇者/聖人育成クラスに飛び級入学できるほど良い結果だ。
「ありがとうございましたクロウさん、もう大丈夫です、入学おめでとうございます」
「え?これ第一試験ですよね?第二第三は?」
「いえ、必要ありません、今から学園長室に行きましょう」
「え?」
無理矢理イリスに連れていかれ、学園長とイリスが激しい討論をした結果、無事にクロウは一般級冒険者クラスの特待生として入学が決定した。




