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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
諸国動乱編
166/227

情報収集

「お?目が覚めたか」


梨々花は自分が黒い触手で体中を縛られていることに気が付く。脱出系のスキルを使おうとしても、彼女の目の前には「使用不可」という通知音が響くだけだった。


「どうするつもり?」

「いや何、話を聞きたくてな」

「話?」

「ああ、ここに着いたばかりなんだ、本当はそこらへんのNPCに聞こうかと思ったけど、同じプレイヤーに聞いた方がいいと思ってな」

「そう、分かったわ、話すからとりあえず話してくれる?」

「分かった」


クロウは言われた通り魔法を解除する。


「影渡り!」


梨々花はかっこよくポーズを取り、スキルを使って己の影に潜り込もうとしたが、その場に尻餅をついてペタンと座っただけだった。


「あー、大丈夫?」

「んー!!」


恥ずかしくなったのか、真っ赤な顔でこちらを睨みつける梨々花。


「えと、とりあえず椅子に座る?」

「......うん」


彼女も逃げられないと気づいたようで、諦めて椅子に座ったようだ。


「それで?君は?」

「私は梨々花、楚国(そこく)に所属している密偵部隊の一人だ」

「え?」

「え?分かってて接触したんじゃないのか?」

「あっいや、そう、そうだよ」


思い切って強がるクロウ。


「それで?なんでここに?」

「楚国軍師のクエストをこなしにね、ここの城主を暗殺すれば金貨200枚と星5クラスをアイテムをくれるっていうクエスト」

「へー、そんなにくれるんだ」

「あんた知らないの?楚国は今一番実力のある国の1つだよ?多くの富豪や豪商がバックについてるし、元榛国の常勝将軍の息子である韓羽(かんう)もいる、それに軍師も才女と言われていた人に並ぶほどの知恵を持つ范子(はんし)よ」

「ほえー」


(韓羽、范子ね)


心の奥に留めておく。


「そうだ、マップ情報を共有してくれ」

「え、いいけど、あんた本当に来たばかりなんだね」

「ああ、イベントが始まってから割とすぐに来たつもりだったんだが、この様子だと割と出遅れているみたいだな」

「まあ、元々ここには数多くのプレイヤーがいたからね。みんなエインヘリアルを買う余裕はないから、こっちの方が合うみたい」

「そうなんだ」


そう言いつつクロウと梨々花はマップ情報を共有する。梨々花から受け取ったマップを改めてみてみると、どうやら今は17か国に分裂しているようだ。


(割れすぎじゃない?)


蛮族が侵略し、国を名乗る領域もあれば、楚国のような貴族と富豪、豪商が興した国、それ以外も旧王族が興した国や、有名な武将が興した国がある。


(うわぁ、めちゃくちゃだよ)


どこか適当な国に所属して全部鉄雲屠で均してやろうかと思ったけど、昔に比べて更に広くなっているので、たとえ10万騎呼び出そうとも全て征服するのに数十年はかかるだろう。


「あんた、どう?楚国で一緒にクエストこなさない?」


梨々花はワクワクした顔でクロウを見る。


「あっ、いや、悪いけど俺はまだどこかに所属する気は....」

「そう....じゃあこれあげる」


梨々花はクロウに<楚影廷>と刻まれた鉄の札を投げ渡した。


「それは私たち楚国の暗部の通行手形みたいなものよ、それさえあれば楚国内ではだいたいどこでも行けるわ、それに私の名前を出せば范子にも会えるはずよ」

「結構溶け込んでるんだな」

「まあね、その影廷を作ったのも私だし」

「え!?」


そのガバガバさで良く密偵部隊みたいなの作れたなお前。


「そうそう、もう一つだけど、辛王国国内でそろそろ反乱が起きるわ。その時はここの城主もきっと反乱軍側に着くと思う。みんな圧政に耐え切れなくなったんでしょうね」

「え?な?!」

「早くて明日夜、遅ければ明後日早朝、外にはホームレスや流民を装った反乱軍が既に待機しているし、ここの城関も既に買収されているわ。時が来れば外の反乱軍とこちらの内通者であっという間にここは落ちる。それより先にここを離れる事をお勧めするわ」

「おい嘘だろ?これもお前らが?」

「馬鹿言いなさい、確かに私たちは17か国全てに分布しているけど、私たちの力だけで全国蜂起を唆せる力はないわ。これもまあ、范子の手引きだと思うけど」

「人一人で国をひっくり返せるのか?」

「それができるから楚王の軍師になってるんでしょうね」

「すげー」


感心している場合じゃなかった。


「私は仕事に戻るわ。明日か明後日に蜂起が成功したら城主を暗殺して、私は帰るわ、クエスト決算して貰うもの貰わなきゃ」

「そうか....」


クロウはそう言われて少し梨々花の事を見直した。


「割り切れてるんだな」

「まあね、ゲームでしょ?」

「そう、だな」


クロウは椅子の背もたれに頭を乗せて今後どうするか考える。旗女市の方は既にここの城クラスの兵士や山賊を防ぐ櫓も十分設置してあるので、恐らく大事にはならないだろう。だがここは...


「それじゃあ、他に何か聞きたいことある?」

「いや、大丈夫、ありがとう」


クロウは情報量代わりに上級ポーションを1つ渡す。1本で最大でHPを5000まで回復できる優れものだ。


「ありがとう、ここ、開けてくれる?」


梨々花は外へのドアを指さしてクロウの方を見る。


「分かった。じゃあな」

「ええ、さようなら」


クロウはドアへかけていた魔法を解除し、<スキル禁止領域>も解除する。梨々花は改めて自分のスキルが発動できると気が付くと、ドアを開けてそのまま暗闇に溶け込んだ。

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