旗女村改革その3
降参した元村人はサチエ達が説得と言う名の拷問で思想改造を施すと言い、他の老人達と共に村の牢屋へ向かっていった。クロウは山賊達の手から助け出した女性達の今後についてどうしたいか聞く。彼らの多くはここの近くにある他の集落から攫われていたようで、帰りたいと言っていた人物は村のロバと共に順々に送り返されることになった。残った人物たちは既に村を焼かれ、帰る場所が無くなったのでここで暮らしたいと言っていた。恒例通りクロウは彼らを<スキャン>していく。<天才的な~>と言う特性を持つ人材はいなかったので、彼女らのスキルに合わせた職に就かせる。そこから数日後、元村人だった山賊達も牢屋から解放され、サチエのハンコ押しもあって、彼らは皆、この旗女村に住むことになった。こちらも同じく<天才的な~>がいなかったのでスキルに合わせた職に就かせる。
そこから更に数週間、人数も増え、大きくなった村に合わせるようにさらに村を覆う柵を広げる。新しく村に加わったのはサチエ達が説得した元村人の山賊だけではなく、山賊に囚われていた女性達が自分たちの村にいったん戻り、旗女村のその豊かさと安全さを自分たちの村に広め、そこから多くの人をさらに連れてきた。その結果。旗女村は近くの村をいくつか吸収し、あっと言う間に数百人から数千人の村になった。流石に数千人をスキャンするわけにもいかず、クロウはそれぞれの後からやってきた村人達にさまざまな仕事場をルーティンで仕事をする提案をした。
クロウはランダムに新しくやってきた村人を適度にスキャンする。今回も<天才的な~>と言う天職は見つからなかったが、さまざまな仕事場をルーティンさせる作戦が功を成し、2週間もすれば全員がそれぞれ最も手に馴染む仕事場に就くことができた。
数千人も村人がいれば、以前はできなかった様々な事ができる。畑をさらに広げ、家畜をさらに増やし、道を整備して馬を育てる。柵をより強固にし、櫓には巨大なバリスタを増やし、村と言うよりもっと強固な町に近づけていく。2週間後、村へ徴税をしに来た県官の使いは、その旗女村の様変わりに驚いたという。数千人規模も村々へ課せられる徴税も山賊から奪った金貨と、大旗県で最も栄えている大旗城の城下町と旗女村行き来する多種多様の商売により、この村も少なくない収入を得ていた。布だけではなく、ガラス細工、木工細工に武器、服、はたまた食料品や酒などの嗜好品も多く売り、この数か月で旗女村は以前では考えられないほどの豊かさを手に入れていた。城下町では旗女村印の商品の評判は高く、おかげでこの村の評価や評判を聞いた他の村の村人もどんどんと流れ着いてくる。
「村長、そろそろここを離れるよ」
金のなる木を自らへし折るほど愚かな県官でもない、徴税にくる県官代理はこの事を大旗県の県官代表に伝え、県官直々に旗女村を旗女市として認定することにした。市に昇格したことにより、サチエを市長に認定、それから周囲と以前の山賊の問題も考慮し、ある程度の自治警備権も承認。それにより、旗女市はあっという間に過去の活気を取り戻した。
「ありがたや、ありがたや、全てクロウ先生のおかげです」
旗女市創設から1か月、クロウの指示の元、ここはすっかり発展し、大旗城城下町に並ぶほどの巨大な都市になった。城下町で商いをしていたサチエの家族たちも旗女市の事を聞きつけ、村に戻ってきた。
「いいよいいよ、これも全部村のみんなが頑張ったおかげさ」
「先生、本当に行ってしまうのですか?」
「うん、ここはもう大丈夫、後はみんなの力でどうにかなるよ」
「うぅ.....先生」
「泣かないで村長、いや市長さん」
「長くは引き留めません、これをお持ちくださいな」
サチエは旗を、木で彫って色を塗った旗女村の小さな旗をクロウに渡した。
「ありがとうサチエさん、それじゃあね」
「おたっしゃで」
クロウは城下町へ行く馬車に乗る。名残惜しいけど、クロウは自分なりに一宿一飯の礼は返したと思っている。
「次はどこに行こうかな」
クロウは馬車に揺られながらのんびりと大旗城の城下町へ向かう。次の行先は決まっていないが、まずは城下町をのんびり散策したいと思っているクロウだった。
「お兄ちゃんお兄ちゃん、お兄ちゃんはどこに行くの?」
「ん?」
場所の座席の向かいに座っている小さな女の子がいつの間にかクロウの足元に立っている。
「え?あ、ああ、城下町に行くよ」
「ほんと?私といっしょ!」
「そうなんだ、お母さんと一緒に行くの?」
「うん!あのね、城下町で、お母さんのおじさんがお店を開いてるんだ、だからみんなで行こうって!」
「そうなんだ、楽しみだね」
「うん!」
「あっ、すみません、お騒がせして」
「あっ、いえいえ」
「ママ起きた?」
「ダメでしょ!お兄さんの邪魔しちゃ」
「うぅ....ごめんなさい」
「大丈夫だよ、そうだ、これあげるよ」
クロウは思い出したように、サチエに貰った木彫りの小さな旗女村の旗を渡す。
「良いの?わぁ!キレイ!」
「いえいえそんな、貰うわけには」
「いいですよ、同じ村のよしみですから」
「そんな....でも、ありがとうございます」
「お気になさらず」
「そろそろ着きますよ、お客さん方、入場料を用意してください」
御者に言われてクロウは外を見る。周囲を大きな山と川に囲まれた、遠くから見える大旗と言う旗が掲げられた堅固で巨大な城塞が見えてきた。




