燃え尽き症候群です
無事にイベントを一位で乗り切り、イベント報酬はさまざまなアイテムや魔法書、スキル習得書だった。だが今回の大目玉は<称号>。イベントに参加したプレイヤーは貢献ポイントにおいて剣士や勇者などの称号が貰えると言う。他のプレイヤー、例えばちゃちゃ丸は破壊者、影丸は影歩きなど、強力な効果をもたらすが多くある。
称号、<更新者>
クロウに与えられた称号はそれだけだった。効果は大雑把な事しか書いておらず、今のクロウには何のバフもステータス向上もなかった。ただ、開拓したクロウ領やイベントで勝ち取った領土はそのまま貰える様で、今日もクロウは宮殿でベルアルと話し合いをしていた。
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歩く魔王、もといクロウが来てから半年が経とうとしていた。彼が提供してくれた冥凍鉄や魔導兵器は私達の大きな力になった。彼の地獄兵と言うべきか、あの恐ろしい不死種の軍隊が余すことなく国内に蔓延る盗賊を捕まえ、処刑したのは間違いではなかった。また、今まで力がなく、のさばらせていた腐敗大臣達もクロウの手を借りて一人残らず墓に埋めた。伝説の始祖から直接学んだ事も多くあるし、彼は自分の領土に用いたさまざまな技術も惜しみなく提供してくれた。正直、なぜ彼がこういう風に私たちに惜しみなく提供してくれるのか分からない。もし彼が領土が欲しいだけなら、そんな事をしなくてもあげる予定だし、爵位も彼の功績から考えて、北大公の爵位を贈与した。だがそれももとよりあげるつもり、欲がない人間ほど何を考えているか分からない。仮に私のこの椅子が欲しいなら、最初に出会ったときに簒奪できるはず。いったいなぜ?
ふとクロウの方を見てみる。すると彼もまっすぐな目でこちらを見つめており、少し心がドキッとした。心がどきっ?なぜ?父の後を継いでから政務に追われ、裏切りにも暗殺にも追われ、心なんてとっくに死んだと思ったのに、どうして...?こんなにも息苦しいの...?
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(イベント楽しかったなぁ....)
ベルアルの方を見て、クロウはイベント戦の余韻に浸っていた。燃え尽き症候群だろうか、イベント中は何をするにしても楽しくて仕方なくて、数万体の召喚獣を出したり、北部に生存していたアイスドワーフやらアイスエルフやらさまざまな新種族達もベルアルの国に勧誘し、安住させ、彼らとの交流により鹵獲した魔導砲や機神の知恵を一つ一つ実現させる。
(あー楽しかったな~)
気づいたらベルアル達との会議は終わっており、クロウは特に何もせずに自分の家に戻った。
自室で最近の領地の収入を確認してみる。蒸留酒や高級コート、ベルアルに売った武器等と領地内の福祉施設などの支出込みで計算した結果、未だ20倍近い黒字。正直プレイヤーは<鑑定>があるので人材も外れなく選出できる。内政チート紛いの事はもうしたけど、あくまでベルアルが国王なので、彼女の顔は立てなければいけない。
(どうしよっかな~)
北国のダンジョンは既に大方回ったし、Lvも既にゲーム内ではカンストした。まだゲームアップデートが来てないが、来たらLv上限もあがるだろう。
「そうだ、西部王国に行こう」
北国は既に他の三か国と停戦および和平協定を結んであり、既にこの三か国との国交は再開している。なのでクロウが行こうと思えば西部王国にも行ける。
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「私どうしたんだろう...」
ベルアルは自室にて大きなぬいぐるみを抱きながらクロウの事を考えては忘れて、再び思い出しては頭から振り払った。ベルアル本人も気づいてないが、鉄面皮な女帝は、可憐な年相応の少女のように顔を真っ赤にしていた。クロウの事を考えると、ベルアルは胸がきゅっと苦しくなり、会いたくなり、話がしたくなる。未だこの思いをベルアルは隠しているが、乳母を始めとした彼女を幼少期から知る侍女たちはとっくに気が付いていた。北国の女帝は、人生で初めて恋をしたと。
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「え?」
翌日、珍しくクロウがベルアルに会いに来たと思えば、「西部王国行って魔法の勉強してくる!」
とか全く意味の分からない事を言い出した。クロウ領内の北王立第一魔導学園やベルアルとクロウが共同で新しく王都に建てたペトロデル魔術学園、ベルアルの名で作ったベルアル魔法学園など、西部王国より100倍も優れた学習材料や環境がある。周りを見てみると、他の大臣も「お前は何を言っているんだ」と言う怪訝な顔でクロウを見ていた。
「ベルアル、クロウ領の収入やらは好きに使ってくれ。任せたわ」
簡単にそういうと、クロウは北国の礼儀で一礼し、有無を言わずに立ち去った。クロウが立ち去った後、ベルアルとその他の大臣たちは大いに慌てふためきだした。オーフェンもデュークもリョウマも既にクロウが還しており、それはもう大慌てだった。だが女帝たるベルアルは大臣たちを素早く宥めると、直ぐに解決策を打ち出した。流石は女帝と言わざるを得ず、クロウが西部王国へ行った後も、変わらず北国ペトロデルは以前と人間大陸の随一の覇権国として君臨していた。
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「うわぁああああん!やだやだやだぁああ!」
ベルアルは再び自室で初めてクロウに会ったときのように泣いていた。最初は恐怖で泣いていたが、今回は今後クロウに会えないかもしれない、クロウを失うかもしれない恐怖で泣いていた。そんな彼女の恋心を知る者はため息をつくしかなかった。ペトロデルの国民全てが一日でも早くクロウが帰ってくるのを待つだけだった。
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