後夜祭
「引き渡し、感謝します。大公様、聖母様が宮殿でお待ちです」
「ん?....了解」
シルエラを引き渡し、クロウは宮殿へ向かう準備をするために一度自分の部屋へ戻る。とりあえず鎖は戻さず、軽くシャワーを浴びて、北帝大公として、いや、北星大公としての服装に着替える。最後に着替えたのはいつだったか。
正装に着替えた後、クロウの持つ最も強力なエインヘリアルの内の一つに部分換装する。純白の白雪を思わせるその装甲は、まるで雪原に潜む凶悪な白虎を思わせる獰猛さを表していた。<白帝>
事象干渉と事実改変を可能にする最凶最悪のエインヘリアルの一つ。もはやゲームシステムすら破壊しているそのエインヘリアルは、使用者が代償を払うことができる限り、あらゆる事象に干渉し、事実を改変する。そんな白い帝王のエインヘリアルを脚部、腕部にのみ展開し、クロウは早速その事象干渉の能力を行使した。
「白帝ここに命じる。我はクロセルべ王国の宮殿入り口に立つ」
白帝の望みを叶えるために、世界がクロウの言葉を現実にさせる。クロウは宮廷魔術師10人分を殺せるほどのMPと引き換えに、一瞬でセシリア達のいる宮殿の正門前にたどり着いた。
「クロウだ。セシリアに呼ばれてきた」
外にいる門番は慌てて正門を開ける。そして完全に正門を開けた後、見張りの近衛兵含めて全員で宮殿の入り口までの道の両脇に並び、全員でその間の歩くクロウに敬礼した。
「ありがとう、迷わずにすむよ」
クロウは彼らの間を一直線に歩く。そうして宮殿の入り口に着いたとき、あえて後ろを向いて声高らかにこういった。
「白帝ここに命じる。彼らの全ての能力値は5%上昇する」
クロウに道を作っていた近衛兵達は体中から湧き上がる力に驚いた。彼らは本能的に己が強くなった事に気が付くだろう。そうして本殿への門が開かれると、聖母としてのセシリアと、聖女としてのリリィ、それから無数の国務大臣達が一同に集っていた。
「よく来てくれた北星大公、クロウ殿」
「ご招待感謝する、聖母殿」
クロウはクロセルべ、もとい南国式の敬礼をする。初めてセシリアにこうして正式あった時は、確か処刑される寸前だったけど、その時もこうして周りの人間に囲まれてたな~。
「おお、あれは太古の南国式の....」
周囲の年配の大臣達から驚きの声が上がる。あれ?間違えたか?
「ありがとう大公。時間が惜しい、貴方に託したい事がある」
「喜んで」
「現在、我らの偉大な学園である聖セシリア学園では機甲大祭が行われているが、今年は特に危険組織からの干渉がひどい、在校生達の協力がなければ危うく開催中止になるほどだった。そこで大公には特に危険な行動を起こしていた<ドラクルズ>と<マニアマジア>の組織を壊滅させてほしい。期間は問わないが、残しておいても善はない」
「分かった」
クロウはその場から高らかに浮かび上がる。
「<冥王の心臓>起動」
元より底の無いクロウのMPが更に増えていく。そうして代償となるMP量が十分になった時、クロウはこういった。
「白帝ここに命じる。<ドラクルズ>と<マニアマジア>の構成員は全て死滅するがよい」
ごっそりとMPとHPを持っていかれ、クロウは一瞬の眩暈に空中浮遊が出来なくなったが、地面に激突する前に何とか静止した。そして暫くすると、大臣の数名が急にばたりと倒れ、身体が灰と化した。
「聖母殿、貴方の望みは叶った。現在存在するドラクルズとマニアマジアの構成員は全て灰となるだろう。ふむ、どうやら貴方の側近にも構成員がいたようだ。それでは」
驚くセシリア、リリィ、そして他のメンバーを傍に、クロウは一瞬で自分の部屋に戻った。いつもの服に着替えると、クロウは止まらない冷や汗を流すため、熱いシャワーを頭から浴び続ける。
(はぁ、はぁ、やり過ぎたか?)
一度に大量のMPとHPを持っていかれ、そして60万人近く殺した事による業の上昇、強烈なフィードバックがクロウに襲い掛かっている。手足の肉が爛れ落ち始め、体中の皮膚が焼けるように熱い、全身の神経が焼き切れるような苦痛に、大量出血に見舞われたような全身の痺れ、クロウは失いかけた意識で下着だけを身に着け、急いでベットに倒れこむ。
(あっ....これ...だめかもしれない......)
クロウはそのまま苦痛に耐えるように、ベッドの上で荒い呼吸を繰り返しながら、意識を失った。
***
「大変な事になったわ....聖母として命ずる!全国各地で死亡した人間を統計しなさい!誰がどこでいつどうやって死んだか!恐らく大公はあの一言で危険組織の構成員を全て抹殺したわ!そして同時に宮殿を封鎖!どこの誰が同じように灰になったかを調べなさい!」
北星大公のあの一言により、クロセルべ王国に潜伏していたドラクルズとマニアマジアの構成員は全て灰になった。同時に全国各地で潜伏していた危険組織の構成員の洗い出しも始まり、潜伏していた他の危険組織のメンバーも直ぐに発見された。のちに北星大公が引き起こしたこの一連の騒動は、「灰の金曜日」と呼ばれるようになった。
***




