機甲大祭大騒動その6
白いコートの男は指を鳴らすと、突如空中から青い鎖が現れた。シャルだけではなくフェリスもその鎖に縛られると、突如、力を失ったようにその場に膝をついてしまった。
「何....者だ」
「んー?内緒」
軽薄そうな声で男はそう言うと、同じような鎖で残った30名の生徒を縛り上げる。彼らは一様にまるで斬頭台に括り付けられたような恰好で膝をついており、それを見た白いコートの人物は、
「魔導と魔王の導きを!」
声高らかにそういうと、青白い種が突如空中に現れ、そのまま30人の頭にぽつりと触れ、そのまま吸い込まれた。彼らは何も抵抗できないまま手足が結晶化していき、全員声を上げる事も叶わず、そのまま全員が魔結晶になった。
「う~ん流石学園の精鋭、みんな良いMP量を持ってますね」
白いコートの人物はその内の一つに触れると、そのまま青白いクリスタルを吸収しだした。
「あ~♥、素晴らしい♥、へへへへへ!はははははは!」
白いコートの人物はそのコートを脱ぎ去り、その顔を露にする。顔中を魔術刻印のタトゥーでぎっしりを刻んだその女性は、その豊満な身体を抱いて息を荒くし、赤く高揚した顔で振り返る。
「貴方達も結晶にしたら一体どれだけのMPがあるんでしょう?」
彼女はまだシャルとフェリスがいると思っていたが、既に彼女達はクロウと後からやってきたタタに安全な場所へ移動されている。観客も既にタタが避難させており、実際に場にいるのは魔結晶化した30人と魔術刻印の女、そしてクロウだけだった。
「あら?」
居なくなった二人に首を傾げつつ、タトゥーの女は左腕に刻まれた魔法陣を天高く投影する。それに呼応するように、ぞろぞろと同じようなコートを着た人物が現れた。恐らく一般客に紛れていたんだろうか、総勢数百名が一同に揃った。
「貴重な人魔結晶よ。大事に持って帰ってね」
「「「「は!」」」」
彼らが手を伸ばそうとした瞬間、
「ぐふっ!」
胸の少し左、心臓の位置から的確に長い槍が飛び出してきた。
「しまっ」
横にいる人物がその槍の攻撃に気づいたとき、既に自分の背中に痛みを感じていた。だが、感じたのは一瞬、直ぐにその胸を槍が貫き、カヒューと言う吹き抜けたような呼吸と共に力を失った。
「うわ、忘れてたわ」
中央に立って唯一コートを脱いでいる女を除いて、他のコートを羽織っている人物は全員槍に貫かれて空中で見せしめのように串刺しになっている。
「これは....クラスⅧの<魔鋼鉄槍>.....参ったわ、まさかあなたがここにいるなんて」
「なんだ、俺の名前を知っているのか?」
「知っているわよ、<魔王クロウ><串刺し公クロウ><更新者クロウ>」
「最後の肩書だけは認める」
両手に二重魔法陣を展開したままクロウが初めて全身タトゥーの女性の前に現れた。
「うぐっ、物凄い<魔圧>」
自ずと彼女は膝をつく。既に彼女の周囲には強力な圧力がかかっており、膝をついた彼女の地面は激しく陥没していた。
「<魔圧>?」
「魔素量の違いから生まれる周囲への圧力の話だよ。分かるでしょ?」
「???、あーね?」
「いやわかってないなその反応」
「こういう事?」
「うぐがぁ!」
更に鎖を外してMP上限を上昇させる。比例するようにクロウの保持MP量も増えていき、自然とクロウから発せられる魔圧も強くなる。
「お前との話を続ける前に....<時空間停止>」
クロウがパチンと指を鳴らすと、戦闘エリアの時間と空間が停止する。
「ふむ、魔素の事をMPと呼んでいたからプレイヤーかと思ったけど....」
停止した彼女の胸の前にある情報隠蔽効果をもたらす装飾品を引きちぎる。
「<鑑定>....なんだただのNPCか、さて、左腕は....」
彼女の左手の袖を引きちぎって腕のタトゥーを確認する。
「ふむ、これは<マニアマジア>の....<ドラクルズ>とは別か、その前に」
クロウは指先に魔力を籠め、空中に時計を描く、そしてクリスタル化した生徒達と空中の時計を魔糸でつなぐと、時計の針を反時計回りに2周する。すると頭からどんどんと逆向きに結晶化が退化していき、人らしい肌色が戻っていく。そうして足の先まで完全に色を取り戻すと、クロウは時空間停止の魔法を解除した。
「ああ!生きてる!良かった!良かった!」
残った29人が信じられない顔でお互いの生存を喜んでいる。
「<転移>」
とりあえず全員医務室に送る。そうして驚愕に動けなくなっているタトゥーの女、シルエラに改めて向き直る。
「お前にはいろいろ聞きたいことがあるんだ」
「今のは......時空間....魔法?」
「<天罰神縛>」
以前に彼女が出していた鎖より数百倍も強力な鎖、クロウをも縛り付けられる鎖で彼女の全員を縛り付ける。99本目の鎖が彼女の首に纏わりついたとき、彼女は一般人よりも弱い存在になった。
魔力で作った見えざる手で彼女を捕まえ、そのまま外で待機していたクロセルべ正規軍に引き渡す。正直後味は悪いが、機甲大祭はこれで一応の終わりを告げ、明日からは後夜祭が始まるだろう。




