機甲大祭大騒動その4
翌日、ゲームを始める前に自分のメールを確認する。返信が既に届いており、中を開けてみてみると
「ご意見ありがとうございます。誠に申し訳ございません。ゲームのバグについては随時修復しております。詳細についてはお伝え出来ませんが、運営一同、最優先で現在処理しております」
と言う、なんともうやむやな返事が返ってきた。まあ随時修復って事は見つけ次第直してるってことだと思うけど、詳細を教えてくれないって....まあ少なくとも直す気があるなら別にいいか。
クロウは満足してメールボックスを閉じ、ゲームを起動した。
「さて、今日はどうしようか」
特待生の自分の寮の個室で目が覚める。昨日の騒動は既にセシリアの耳にも入っていると思うし、シャルが既に伝えるべきことを伝えていると思うので、もう何もするべき事は無いと思う。なので大人しくクラスの手伝いでもしようかなと思った。
朝ご飯を作って食べ、シャワーを浴びて服に着替えた後、丁度支度を終えた時に、クロウの部屋のドアベルが鳴った。
「クロウ、起きたか?」
インターホンからのシャルの声が聞こえてくる。どうしたんだろう、わざわざ迎えに?
「おはようシャル、どした?」
クロウはドアを開けてシャルと共に登校する。
「実はな、昨日の一件で、実戦試合の出場予定者の半数が負傷してしまって、このままだと相手をする人がいなくなってしまう」
「あー、そこで俺に?」
「そうだ、話が早くて助かる。頼むよクロウ」
「別に良いけど、え?どうすればいいの?全員倒せばいい?」
「そうだ、だが前のエインヘリアルのように、相手にトラウマを残すような事はしないでくれ、一応姉妹校もある。あまり派手にやっては....」
「わかったわかった。専用機は極力使わないでおくよ」
それからもいくつかシャルからの注意事項を聞きながら、クロウはシャルと共に会場へと向かった。今日も午前は他の競技がいくつか行われているが、午後からは実戦試合が行われる。明日は最終日でもあり、同時に全日実戦試合が行われるため、今日は最終日に残るための一番激しい試合になると言われている。だが....
「勝者!聖セシリア学園1年生!クロウ!」
適当に昼ご飯を食べたクロウ、シャルやフェリス、リリィとアリアンナは最終日から出場するシード枠なので、クロウのみ今日から出場出来なくなったメンバーの代わりに出場することになっているのだが、ここまで27連勝。
「くそぉ!初期設定も済ませてないくせに!不正だ!」
クロウは学園支給のエインヘリアルと長槍を使って次々と他校の生徒を串刺しにしている。
「次は西方の一大学園、フレイヤ学園の学園代表、アロエラ・フレイヤーダだ!」
クロウの向かいの入場口から、褐色にウェーブのかかった長い赤髪の生徒が現れる。クロウは戦う相手は全て<スキャン>しているが、どうやら彼女には偽装魔法もタトゥーもなかった。
「よっしゃ!お前がクロウだな!やろうか!」
アロエラは自分の耳飾りを軽くはじく。すると彼女は炎に包まれた後赤く燃え盛る真っ赤なエインヘリアルに包まれた。炎の精霊であるイフリートを思わせるその専用機は燃え盛る手甲を身に着けており、彼女は何かしたらの拳法構えを取ると、戦いの始まりを告げるブザーが鳴った。
「<幻惑槍>」
素早く低く駆け出したアロエラを相手に、クロウは以前と同じように背中から長い槍を抜いてそのまま投げ出す。技もスキルも何もないその攻撃をアロエラは手甲で弾く。手を振りかぶった時、まるで空気を振り払ったような感覚にアロエラは驚いて立ち止まった。
「チェックメイト」
後ろから聞こえてきたクロウの言葉にアロエラは背後からの攻撃を避けようと体を右に捻った瞬間、右側から飛んできた槍にエインヘリアルを貫かれ、一瞬で搭乗者保護システムが作動し、あらかじめ用意してある安全地点へテレポートされた。
「勝者!聖セシリア学園1年生!クロウ!」
これで28連勝か。顔中にはてなを浮かべたアロエラは、納得いかない顔のまま、医務室へ連れていかれた。
<幻惑槍>
幻で相手を惑わせる槍の術。第一槍は相手を追尾する幻惑毒のある槍。相手がその槍に触れた瞬間、相手は幻惑状態に陥る。術にかかった彼女がどれだけ激しい戦いを脳内で繰り広げたか分からないが、傍から見たらアロエラはただその場に立ち尽くして、棒立ちのままクロウに右側から一突きされてそのまま退場した。
その後日が暮れるまでクロウは延々と同じ方法で残った他校代表生を次々と串刺しにしていく。その日は日が暮れるまでに78戦78勝。<幻惑槍>は第二、第三槍を使えば使うほどMP消費量が増えていくスキルだが、ほぼ第一槍しか使っていないので、気持ち後100戦は行えるクロウであった。その日は解散となり、翌日の最終日午前、引き続きクロウが超えられない壁となって他校の代表生の相手をするが、1晩経っても誰も第一槍を打ち破る事が出来ず、出来たとしても虚と実を混ぜた第二槍を打ち破ることができず、ついにそのまま100戦100勝を超えた。
<串刺し公><百人突>
一番の大目玉である午後の実戦試合が始まる前に、クロウがその槍を持って累計143戦143勝と言う偉業を成し遂げたことにより、またもや新しい悪名....もとい異名がクロセルべの全国学園中に広がる事になった。




