機甲大祭大騒動その2
「<魔素経路探査>」
シャドウ・ポケットを解除して探査スキルを発動する。死体が綺麗さっぱり無くなっていると言う事は、なんらかの方法で復活したか、もしくは誰かに死体を連れていかれたか。スキルの探査結果、つまり魔素粒子の動きを見てみると、どうやら死体に宿っていた魔素がそのまま再生し、再びあの男の形を作った後、男は安全区画では無く、貴族科の校舎へと駆けだした。
「???」
意図が読めなかった。貴族科の校舎にはもう誰もおらず、彼らの狙いである一般人も既に安全区画へ既に移動を完了している。だが放っておくわけにもいかないので、シャルと合流し、黒虎隊の指揮を任せてクロウは貴族科の校舎へ向かった。
クロウが貴族科の校舎に入ると、校舎の中央にある広場でコートを羽織った人物達は血で描かれた召喚陣の中に立って詠唱を続けている。
「Dumnezeul nostru viu și mare, cu tot farmecul și marea ta autoritate...」
クロウも彼らが何を言っているか分からなかったが、召喚陣からは良くないものが出てくるのが分かる。近くの影に隠れて彼らにゆっくりと近づく。まだ発見されてないと思ったが、クロウは自分の潜む影の中に別の人物が入り込んできたことに気が付いた。
「み~つけた」
クロウはその声を聴くと、すぐさま体を捻じって後ろを向く。
「ぐっ!」
それでも完全に回避はできず、クロウは左腹部を大きく斬られる。
「あれ?おっかしいなぁ、お腹べろ~んさせる気だったんだけど?」
クロウは急いで影から飛び出す。クロウを攻撃してきた人物も同様に影から飛び出す。
「誰だ!」
クロウは左手で治癒術を使いながら攻撃してきた人物を確認する。長い金髪赤眼のゴスロリ服を着た日傘を持った小さな少女がそこにいた。彼女は左手のクロウの血をじゅるりと舐める。
「あれ?意外とおいしいね、え?もしかして〇貞?」
「どどど童〇ちゃうわ、え?それも分かるの?」
「うん、だって私ドラキュラだし?」
少女に己の血をぺろぺろ舐められながら自分の貞操について聞かれることがあるとは思っていなかった。
「お前も<ドラクルズ>の一員か」
「そうそう、私はメアリー・スー。吸血鬼だよ。よろしくね」
少女は左手と口を開けて、悪戯っぽく牙を剝きだしてシャー!と威嚇する。だがそこに恐怖は無く、むしろ子供の威嚇のような愛くるしさがあった。
「メアリー・スー...ね」
「あれ、もしかして私の名前知ってるの?」
「いや、知らないけど、お前の名前の由来は知っている」
「ふーん、そ?」
メアリーは容赦なく再びクロウに襲い掛かる。
「今のあなたは私の観客じゃないの、さようなら」
霧と化した彼女は一瞬でクロウの後ろへテレポートし、そのままその左手でクロウの心臓を貫いた。
「ぐふっ!」
なすすべもなく、クロウは口から血を噴き出して膝から崩れ落ちる。メアリーも乱雑にその腕を引き抜くと、クロウの心臓を取り出して、そのまま握りつぶした。クロウの血はそこら中に飛び散ったが、彼女がスキルのような何かで全てきれいさっぱりその掌に集めると、それを赤いガラス玉くらいの大きさに圧縮して飲み込んだ。
「さて、邪魔者もいなくなったし、続きを....」
クロウから目を離して再び儀式を見守ろうとした時、メアリーは何者かに両肩を掴まれた。
***
(致死量の出血を確認、心肺機能及び脈拍の衰弱を確認、10秒後に完全死亡と推測、死亡回避のための最有力実体に変化、不死王に変化します。3、2、1、0)
クロウの身体が己の真っ赤に染まっていく。真っ黒だった制服も血のように紅くなっていき、背後の大公紋章は羊頭の悪魔へと変化した。胸に空いた心臓はそのままに、白い髪を靡かせたクロウは一瞬で霧化し、そのままメアリーの背後で実体化する。そして彼女の両肩に手を置くと、メアリーに振り返る隙も与えず、その首元にかじりつく。
「あああああ!ああああ!あああああああ!」
大口を開けたクロウはその大きな口と長い牙を彼女の首に突きいれる。大動脈や脊髄の神経群も容赦なく齧る。彼女も吸血鬼と言えど、脳からの神経伝達が致命的に断たれた今、メアリーはクロウに齧りつかれてもなお、身体をビクンビクンと跳ねさせることでしかできなかった。悲鳴を上げる彼女、苦痛に歪んだ彼女の顔は、クロウの牙から分泌される興奮物質と快楽物質に影響され、次第に恍惚とした顔に変わっていく。だが彼女の全身はみるみる萎んでいき、クロウの身体はみるみると修復されていく。そうして皮と骨だけになったメアリーは、恍惚な顔をうかべたまま、その吸血鬼の不死性のせいか、クロウに生きたまま骨ごと身体を折りたたまれ、むごたらしい音と共にクロウに折りたたまれ、そのまま彼に食われた。
クロウの真っ黒な瞳孔の無い眼は儀式を続けている他のドラクルズのメンバー達に向いた。彼は体を霧化させると、儀式を続けるメンバーの口や鼻、耳や目から入っていく。詠唱をしていた彼らはそれぞれの目を、耳を、鼻を、口を押えてその場に蹲り、もがき苦しんだ。実際には数分しか経っていないが、彼らにとっては永い永い苦しみの末、そのまま干からびて皮と骨だけになった。
そんな彼らの目や耳から再び霧が出てきて、それは空中で一つになると、再び赤いクロウの実体を生み出した。
***
(あぶねー、完全に死んだと思ってたわ)
赤い服はクロウの正気と共に黒へと戻り、周りの惨状はさておきとりあえず自分のステータスを確認する。鎖はついたままだが、HPMP共に全て正常に戻っていた。長くこのゲームをやってきたが、これが初めてのゲームオーバーではないかと思ったクロウだが、実際にはデスペナルティなどは付いておらず、スタート画面からデータをロードしただけだった。




