機甲大祭大騒動その1
既に学園中に悲鳴が響き渡っており、生徒と一般観客に紛れて潜んでいた黒虎隊は魔王ではなく<ドラクルズ>の危険分子達を相手にしている。同時に、風紀委員と治安維持委員は他の学生と共に観客の避難を行っており、混乱はしているものの、黒虎隊が避難通路を守るように<防御フィールド>を展開している。
「我々は<高貴なるドラクルズ>!今宵この場にて下等な一般科を処断し、高貴なる貴族科の生徒のみによる学園統治を要求する!」
空に浮かぶ背丈180cmほどの褐色肌に金髪の男が、右腕に金色と赤色で刻まれた<ドラクルズ>のタトゥーを露わにする。それと同時にそのタトゥーに魔力を通す。
(魔術刻印だと!?)
遠くからではあるが、クロウは空に浮かぶ男のタトゥーを解析する。<魔術威力増幅LvⅠ>とそれぞれクラスⅣの火、土、風魔法が1つずつ、MPを通すだけで発動できるようになっている。魔術刻印はその性質上、使用者にとってとても強力な効果をもたらすが、とても繊細で痛烈な過程を耐える必要がある。クロウは痛覚遮断等のパッシブスキルがあるから大丈夫なものの、あの男はそれをどうやって耐えたのだろうか。<鑑定>を使用しても鎖で封じているので、相手の情報にモザイクがかかって見えない。今から鎖を解除しようにも、クロウも一般人の誘導や黒虎隊の指示で全くその余裕はない。
「桜花二刀流朱鷺の型・<天飛び><落陽>」
空に浮かぶ男は高笑いをしていたが、そのままずるりと身体が真っ二つにズレ落ち、そのまま地面にべちゃりと内臓と肉漿をまき散らした。
「シャル!」
「クロウ!」
空からゆっくりとシャルが下りてくる。血桜は脚部と搭乗者保護フィールドだけを展開しており、そのまま地上で合流した2人は現状確認もかねて情報交換をした。
「今日の最終競技である実戦試合1日目の入場案内を丁度終えた時、この騒動が始まった。ある程度予測はしていたが、実際に起こってみると歯がゆい部分もあるな」
「十分だシャル。よくやった。リリィの方は?」
「既に黒虎隊の面々とアリアンナの護衛の元、安全区画に避難してもらっている」
「よし、他のメンバーは?」
「フェリスとタタはリリィ、アリアンナと共に安全区画へ避難、実質動けるのは私とお前だけだ」
「分かった。俺はこのまま避難誘導を続ける。シャルは主に敵の排除に移ってくれ。こんな状況だ、生死不問だと思うができるなら数人生かしておいてくれ」
「分かった」
簡単にそれだけ言うと、シャルは再び避難経路付近で防御フィールドを維持している黒虎隊や学生に襲い掛かるドラクルズの構成員達を斬り倒していく。MP切れを起こしたり数名負傷が出たが、幸いな事に死亡した学生や黒虎隊のメンバーはまだいない。ひとしきりのクロウは他の観客や一般人が囚われていないか、素早く確認するためにも鎖を数本解除して、特殊なエインヘリアルに換装した。
「旧式エインヘリアル起動:<シャドウ・ポケット>」
クロウは大きな黒い極度の肥満体のエインヘリアルに換装する。非常に動きにくく、攻撃力もほぼ皆無に等しいこのエインヘリアルだが、非常に優れた察知能力、収容能力と防御力を持っており、さらには日陰と暗闇を自由に行き来できる能力もある。クロウはこのエインヘリアルの能力を使って、野外巨大競技場全域をスキャンする。安全区画と動けなくなった一般人の居場所は分かった。とりあえず動けない一般人を救うため、近くの建物の影に入る。そのまま<影渡り>のスキルを使用して最初の遭難者の元へ向かう。
「こ、こんにちわ、は、はぁ」
小さな女の子が家族と離れてしまったようだが、普通に話しているはずなのに、肥満体のエインヘリアルのせいか、上手く話せない....
「ひ!い、いやぁ!助けてママ!パパ!」
「ご、ごめんね、お、俺が、君のママとパパに、あ、会わせてあげるからね」
(クソ!なんでまともに喋れないんだ!)
緊急時、他の救助者も待っているので、泣きわめいている目の前の女の足を掴んで持ち上げる。そのまま大きな口を開けて彼女を丸呑みにする。これこそがこのエインヘリアル最大の効果である保存運搬能力。サイズ、量、個数無制限に、あらゆる人、物をその口から入れれば、このエインヘリアルが保持している<異次元収容空間>に送り込むことができる。一つの空間ではなく、一つ飲み込むごとにその物体に適した一つの異次元空間を自動生成できるため、人間を送り込めば酸素を含む無重力空間を、食物ならば停止空間を、鉱石ならば無酸素空間などなど、先ほどの女の子からしたら大きくて黒い極度肥満体の生物に丸呑みにされるという一生もののトラウマ体験になったかもしれないが、これも救助のためだ。すまない。
そうして他の人間も次々と丸呑みにしていく。負傷者もいたので先に自己治癒能力向上をかけて丸呑みにしておく。そうして全員丸呑みにした後、安全区画まで<影渡り>で移動する。
「何者だ!止まれ!」
「て、敵じゃないんだ!、ま、待ってくれ、い、今、救助、者を、出す」
クロウはその場で四つん這いになり、大きく口を開ける。するとその口の中から救助が次々と投げ出される。総勢47名が吐き出されると、それぞれの家族の元へと駆けだす。負傷者の怪我は既に治っており、最初に助けた女の子も泣きながら家族と再会した嬉しさに浸っていた。
クロウは安全区画の中にタトゥーの入った人物がいない事を確認すると、そのまま再び影渡りで安全区画から離れる。そして先ほどのシャルに真っ二つにされた男のタトゥーを詳しく調べてみようと落下した場所に向かうと、男の遺体はきれいさっぱり無くなっていた。




