イベント終了です
イベント戦も終盤になり、クロウも最後にポイントを荒稼ぎしたいと思い、積極的に前線に参加した。とは言うものの、今や人間大陸の版図は大きく書き換えられ、クロウの出番はさほどなかった。
元は4か国がそれぞれ拮抗した版図を持っていたが、それら今や大陸の半分と北部未開拓領域の全てを北国ペトロデルが支配し、大陸の残りの南分を西部東部南部の三か国で三分割している。ベルアルとその北部王国がこれほど大きく発展できたのは、他の傲慢で愚昧なプレイヤーを一兵卒として思っていない国王と違い、彼女があらゆる知識を求め、謙虚な姿勢でクロウの知恵と技術を学んだからだろう。
さて、本日はイベント決算日、全プレイヤーの所属王国への貢献度をそれぞれ計算する日が来た。大まかなポイント獲得方法は三つ、領土拡大、領土強奪、敵撃破、その他にも所属王国への技術貢献など、細かな加算点はあるが、それもこの三つには到底及ばないので無視してもいいだろう。言わずもがな、クロウは今回のイベントにおいて、領土拡大に目を付けていた。北部未開拓地5000ヘクタールをクロウ領として開拓し、さらにその北の連峰山脈、北王山脈から新種の鉱石の発見、永久凍土からの古代兵器発見などなど、この項目においてクロウは絶対的な一位になれるだろうと目論んでいた。
「プレイヤーの皆さーん!イベントご参加ありがとうございまーす!今から皆さんのポイント清算を始めます!項目ごとに算出しますので、ごゆっくりとご覧くださーい!」
南部、東部、西部においていつぞやのナビゲーター妖精が登場し、北部はといえば
「クロウ様~♥」
「出たわね」
「お久しぶりですわ♥」
「メルティ...」
クロウ領の自室で大人しくスキル構成を考えつつ、アイテムボックスの整理をしたりしていると、どこからか艶めかしいサキュバスナビゲーター(?)のメルティがやってきた。
「北部王国って他のプレイヤーとかいるだろ、俺ばっかりに構ってていいのか?」
「いませんわよ?」
「え?」
「他のプレイヤー」
「いないの!?」
(うせやろ、今やプレイヤー数が数百万人を超えるこのゲームで俺以外にだれも北部王国来てないとか、どんだけ嫌われてんだよここ)
「まあクロウ様が派手に魔帝モードで前線を阿鼻叫喚の地獄絵図にしたり、東部の大草原に数十万の人間の生きたまま氷像を作ったりしなければもっと多くのプレイヤーがペトロデルに来てたと思いますわ。でもまあ物理的に遠いので、馬を使っても数か月かかりますし、空飛び飛行船も戦時で使えないですし、どちらにしろ普通のプレイヤーは大方南部、西部、一部が東部に行きますわ」
「心読まれた!?」
「サキュバスですので♥」
「サキュバスすげー」
割と素直に感心した。
「さてさて、クロウ様、ポイント集計が終わったようですわ」
そういうと、メルティは空中に手をかざし、南部王国王都中央広場の様子を映し出した。
「皆様お待たせしました!現時刻をもってポイント清算を終了し、全プレイヤーの評価に入りたいと思います!」
メルティをこっそり見ると、にこにこした顔で画面を見つめていた。
「では!まずはこまごまとした項目から発表します!」
そういうと、ナビゲーター妖精は聞いたこともない項目のポイント獲得者上位の名前を羅列しだした。教会資金贈与項目や西部魔法学園生徒成長項目、はてには領地以内狩猟数項目など、正直羅列したところで数百から数千しかポイントが加算されなかった。そして暫くしているとどんどん大きな項目になってきた。
最初に目玉になったのは、<技術提供>の項目、所属王国にプレイヤーが提供した技術がどれだけその国の発展及び領土拡大に影響したかによって変動する。
3位は東部王国に所属するプレイヤー、影丸
彼は東部王国に陰陽術や内偵の技術を提供し、東部王国を諜報王国として大きく一歩躍進させたという。貢献ポイントは4000。
2位はちゃちゃ丸。西部王国に魔導砲の作り方を提供し、魔法国家として数多くの魔法や魔術のすべを提供し、西部王国に一気に数百年の進化と繁栄をもたらしたという。貢献ポイントは15000。
同じく2位のプレイヤー、シュレミーは南部王国において北部魔王軍に殺された無数の兵士を蘇らせ、南部王国の教会や治癒院に惜しみなく人々を救う技術や魔法、スキルを伝授したことにより、南部王国により一層の安全と繁栄をもたらしたという。貢献ポイントは15000。
「いや北部魔王軍ってなんだよ。魔王いるのかよここ」
クロウが呆れてそう言うと、メルティがニコニコしながらクロウのほうを見ていた。
そして一位。
新しい武器と防具の製造方法を提供し、北国ペトロデルの戦闘力を数百倍にも引き上げ、数多くの名将、軍師へ兵法、戦術を提供し、経済力、国防力でも目を見張るほどの向上をもたらし、寒冷に負けないような工夫を凝らした建築技術、例えば積雪を溶かし、寒い冬でも滑らかな道を確保できる微熱道路と言う新技術提供、鹵獲した魔導砲の技術を応用、軽量化、小型化し、魔導バリスタの生産、永久凍土の新資源である凍油や凍炭の採掘、それらを用いた新型魔法兵器、魔導車や魔導機など、未知に近い未来の技術をもたらした稀代の天才クロウ。貢献ポイントは80万ポイント。
そのポイント数が表示された瞬間、他のプレイヤーは絶句し、クロウは安心した。正直半分は機神の加護のおかげもあるので、心の中で神様に感謝しておく。
そしていよいよ三大項目の清算が開始した。
まずは領土拡大、これまた影丸というプレイヤーが東部王国のために東部森林地帯を開拓し、東部王国の領土を28%広げた。貢献ポイントは28万ポイント。
二位はこれもちゃちゃ丸、西部から南の原生生物のいる離島へ魔法で無数の砲撃を繰り返し、圧倒的破壊力を持って西部領土を44%拡大した。44万ポイント。
一位は当然、クロウ。北部未開拓地5000ヘクタールをクロウ領として開拓し、それだけでなくクロウ領を地下深くまで何層も広げ、終いには北部未開拓地の果ての山脈まで採掘し、開拓した。地上地下込みで北部王国を北部の小国家に過ぎなかった国を6倍近くもの大国にした。600万ポイント。
次は領土強奪、三位は東部王国所属の影丸。諜報活動により多くの南部都市や街を寝返らせ、最終的に南部王国の12%を強奪した。12万ポイント。
二位はちゃちゃ丸、西部より魔法砲撃による圧倒的破壊力で、南部王国の25%を奪い取った。25万ポイント。
一位はクロウ。天才的な軍師や将軍を育て上げ、新技術と新資源で作り上げた武器装備を持ち、未知の技術に近い魔導兵器とともに、南部から38%、東部から29%、西部から26%、合計93%も他国から領地を強奪した。93万ポイント。
最後は敵撃破数。三位はチャーリーというプレイヤー。彼は南部王国で南部王国兵を率いて、西部魔法兵、西部王国兵を数多く撃退した。撃敵数約2万、2万ポイント。
二位はちゃちゃ丸。西部唯一の大魔導士として、大型破壊魔法や魔導砲で南部、東部、北部含め彼女単騎で数万の敵を屠った。撃敵数約8万、8万ポイント。
一位はクロウ。初陣の南部前線にて、仲間と協力して南部王国兵や東部諜報員など述べ1万人を撃退した。それを皮切りに西部前線では単騎で西部魔法兵2万人と南部王国兵4万人を死体も残らず灰と炭にし、イベント中盤の三か国連合北国討伐戦では、魔王クロウと女帝ベルアルの率いる魔王軍が無情残虐に戦場で殺戮を繰り返していた。西部前線では伝説の北狼王を冥府より呼び出し、彼の北王兵、北狼兵が獲物を狩るように12万の兵を一人残らず餌として喰らい、南部クルーリでは策を使い、一兵一卒も失わず30万人の連合軍を生きたままあぶり殺し、東部前線では魔王クロウ自らが伝説の氷獄王を呼び出し、20万の連合軍を一人残らず生きたまま東部大草原に氷漬けにした。その他にも北国内で革命勢力の虐殺、腐敗した大臣の斬首、北王法に基づいた盗賊の処刑など、その他含めて延べ100万人を殺している。100万ポイント。
「半分くらい俺じゃなくてべオスとかオーフェンの成果なんだが?」
「クロウ様あっての功績ですわ♥」
(解せぬ)
決算後、イベント<大陸争奪戦>一位は何の疑いもなくクロウだった。




