最後の修行
夜に再びやってくると、シャルと桜は共に向かい合って正座をしていた。
(精神鍛錬だろうか?)
クロウは静かに2人に近づく。そうして暫く壁に背を持たれて立っていると、桜とシャルが目を開けてお互いに一礼する。どうやら今日の修練は終わったようだ。
「なんだクロウ、来てたのか」
「おう、シャルはどうだ?」
「おう、恐らくそうそうな事がない限り、あのえいんへりあるに精神を飲まれる事は無いだろう。それくらいの躾をしておいた」
一体シャルに何をしたんだ桜。後ろでは痺れた足を必死に動かして立とうとしているシャルが床でうごめいている。
ツンツン
「わ!クロウ!やめんか!くっ!あぁん!やめいぃ!」
「シャルは既に私の桜花二刀流を全て体得している、予定では明日に最終試合をする予定だ」
「最終試合?」
「ああ、師匠と弟子、双方本気で斬り合う最終試合だ」
それを聞いたシャルもクロウも驚いて立ち上がった。
「何を驚いている。お前の祖先もやった事だ。私を斬り捨ててこそ、本当の桜花二刀流の伝承者に成れる」
「そんな...」
「まあクロウに召喚されている手前、既に死んだ身だ。気にしなくてもいい。だが、舐めた気持ちでかかる様なら」
桜はそこまで言うと、今までとは違い、本気の殺意と速度で両刀を抜いてシャルの首を挟みで立ち切るような構えで寸止めした。
「先に死ぬのはお前だ。不出来な弟子はこの世には不要。貴様が強くなりたいのは何のためか考えておけ」
桜は両刀をしまい、そのまま自信を散らして還った。
「........」
「シャル....」
「大丈夫だ、クロウ、ありがとう。今日は先に帰って明日に備えるよ」
「おう、頑張れよ」
クロウはシャルの目に迷いが見えるが、それよりもその中に決意が見えたので、これ以上は何も言う必要はなかった。
***
翌日、朝早くから起きたシャルは朝の湯あみを行った後、いつも通りの制服に着替えて模擬戦闘場へ向かう。ルーム10には朝早くからクロウと桜が待っており。立ったまま目を閉じた桜からは既に弟子に対する気迫ではなく、純粋に人を怯えさせる殺意が色濃く纏わりついていた。
「準備は出来たかシャル」
厳しい目つきの師匠は、ゆっくりとその両刀を抜いて構える。
桜花二刀流秘伝、裁断の構え。
上下ではなく、左右に構えるその構え方は、無数の型と技につなげる事ができ、1対1において比類なき攻撃力を齎す。
シャルもエインヘリアルには換装せず、そのままデバイスから二刀を取り出す。
桜花二刀流秘伝、虎顎の構え。
桜とは違って二刀を上下に構えるシャル。あらゆる盤面に対応できるその構えは、シャルの最も慣れ親しんだ構えだ。
「いくぞシャル、もう貴様に教える事は何もない。後は私を斬り捨ててみよ!」
桜の迫真の掛け声と共に、彼女は構えていた二刀を擦り合わせる。すると桜の二刀から火があがり、そのままその両刀は火を纏ったままシャルに斬りかかった。
***
***
<二枝一花>九重桜
古式桜花刀剣術の最後の正当後継者にして、桜花刀剣術発祥地である<桜花の里>最後の住人。親族家族諸共敵に焼かれた彼女は、心の底に焼き付いたその火を武器に、自らの後継者を探し続けていた。死後、獄帝に招き入れられた彼女は、クロウと言う存在に手助けされ、自らの後継者を見つける。そうして新しい自分の家であるこの南国が、クロセルべが再び戦火に陥らないためにも、彼女はロゼと言う少年を、そしてその後継者に自身の全てを託すことにした。たとえ自らがその火に焼かれようとも。
***
***
師匠は、いや桜は何も語らない。その眼には純粋な殺意が漲っていたが、私は彼女と斬り合うたびに、彼女のその瞳に、少しずつ悲しみと無力感、そして悔しさが垣間見える。以前に彼女が語ってくれた、彼女の里を守れなかった悔しさなのか、家族を失った悲しみなのか、それとも自身の非力さに対する無力感なのか、刀を交えるたびに、彼女の炎は強さを増し、その瞳の殺意はそれ以上の悲しみに塗り替えられる。
「師匠!」
彼女の異変に気が付いた私は、刀を交えている最中だというのに、彼女に声をかける。彼女の二刀の炎は、彼女の心の底にある悲しみが溢れるたびに、それを糧に、どんどんと勢いを増しているようだった。いつしかその炎は彼女の手へ、腕へと彼女を飲み込んでいき、やがて彼女の全てを飲み込んだ。火だるまになった彼女からは何の殺意も感じられない、クロウも慌てて水魔法を使用しようとしているが、私は彼を制止して、彼女との最終試合を続けた。全身を業火に焼かれながらも、彼女は涙一つ流すことなく、ただ私に自身の全てを残そうと、必死に私と斬り合っていた。彼女の炎は私に何の痛みもなく、彼女自身を焼き尽くすその炎に触れるたびに、彼女の遺憾と無念が伝わる。
「桜.....」
明鏡止水。刀を交え、お互いの心も混ざったその心象世界で、私は彼女の心の底に潜む悲しみを感じた。幸せな家族と綺麗な里を炎で焼かれたその絶望。家族を殺され、自身を汚されてなお何もできないその非力さ。血の滲むような思いをし、その思いの果てに復讐を果たしてなお、家族が死んだ事実は変わらないその無力感。彼女の心の中では、ずっとその無念が彼女に纏わりついていた。記憶なのか現実なのか曖昧になった桜の心象世界の中心で、小さな彼女は膝を抱いて泣いていた。両膝に顔を埋めて泣いている幼い桜は、ただ必死に、ごめんなさい、ごめんなさいと何度も何度も謝罪を繰り返していた。シャルは両手の刀を捨て、彼女に駆け寄って、小さな桜を抱きしめる。
「大丈夫だよ桜ちゃん。もう大丈夫。貴方は十分戦った」
小さな彼女を抱きしめ、彼女の頭を撫でで宥める。彼女がもう己の非力さと悲しみに囚われないように、幼い彼女を優しく諭した。
「桜ちゃん、貴方はもう、立派だよ。だから、悲しみに囚われないで、きっとお母さん達も、泣いてる桜ちゃんは見たくないよ」
シャルに抱きかかえられた幼い桜は、暫くした後、泣くのをやめ、シャルに頑張って笑顔を見せた。そうして幼い桜は、小さな両手でシャルを抱きしめ、彼女の耳元で、「ありがとう」とだけいった。
再び意識が現実に戻った時、シャルは燃え盛る桜の心臓に刀を突きさしていた。口から血を垂らした桜はいつのまにか自信を纏う炎も無くなった事に気が付き、涙を流しながら、しかし解放されたように笑っていた。
「そうか...あれが私の....心に救う闇だったのか」
力なく自身の刀すら握れなくなった桜はだらりとその両腕を垂らした。シャルも彼女の胸から刀を抜く。
「ありがとう、シャル。まさかお前に救われるとはな」
「師匠....」
「おめでとう、免許皆伝だ。これからは、シャル、お前も<二枝一花>を名乗るがいい」
「師匠!師匠!」
「泣くな...お前のおかげで、私は...ようやっと....逝ける」
「師匠!」
「その力....自由に使うがいい....またな、シャル...」
桜は優しくシャルの頬を撫でる、たったまま足元から魔素となり、そのまま塵のように消えた。
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名前:シャルロット・リヒテン・ロゼ
メイン職業:古式桜花刀剣術・桜花二刀流
サブ職業:生徒会長、伝説の継承者
<ステータス>
Lv:366
HP:86900
MP:79800
筋力:8660
体力:7890
敏捷:7450
精神:9680
堅剛:8740
知力:5670
<加護>
九重桜
<呪い/祝福>
九重桜の大祝福:強力な反デバフ耐性を得る。非常にデバフ状態に陥りにくい。
<天賦の才能/天与の才能>
古式桜花刀剣術の才:古式桜花刀剣術カテゴリのスキル威力上昇・極大、スキルクールダウン軽減・極大、スキル使用時の消費MP軽減・極大
桜花二刀流の才:桜花二刀流カテゴリのスキル威力上昇・極大、スキルクールダウン軽減・極大、スキル使用時の消費MP軽減・極大
<前世>
なし
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