シャルの新しいエインヘリアル
リリィとアリアンナと数時間おしゃべりをして、少し時間を潰した後、今日はいつもより早めに2人の修行を切り上げさせるために足早にルーム10に戻る。桜にテレパシーで切り上げるように言い、彼女もそれを受け取ると同じようにシャルの両刀を弾き飛ばし、一度修業を切り上げる。
「どうしたんだ?」
「いやクロウが」
「中断させて悪いな、シャル、お前のデバイスを貸してくれ」
「え?どうして?」
「<桜花>の様子を少し見てみたくてな」
「む?何か様子がおかしかったか?」
「あ~、それもあるけど、工廠で先生と一緒に<桜花>を少し改造しようと思って」
「クロウ?お前はエインヘリアルを改造できるのか?」
「ああ、<黄泉渡し>も俺が自分で作った内の1つだ」
「ほんとか!ぜひ頼む!」
シャルは迷う事もなく自分のデバイスを手首から外し、クロウに渡す。
「ん?そういえばデバイスはDNAで所有者を...」
「大丈夫大丈夫、工廠の先生がなんとかするから」
そう言いながらクロウはそそくさとシャルのデバイスを持って第二工廠へ向かった。事前にシュトロハイムには連絡を入れてある。彼は早速クロウのために授業を急遽中止し、第二工廠をまるまるクロウのために空けてくれるようだ。
「お!来たかクロウ!」
いつぞやの案内をしてくれたドワーフの先生が出迎えてくれた。
「お前の話はシュトロハイムの奴から聞いている。ワシの名前はデボン、ここ第二工廠の工廠長だ」
「こんにちはデボン先生」
「堅苦しいのはいい、早速エインヘリアルを改造するんだろう?ワシ達にも見せてくれ」
デボン先生の後ろから何人も同じようなドワーフの先生達がこちらを見ている。クロウは興奮する先生達を宥めつつ、早速、エインヘリアル改造区画でシャルの<桜花>を取り出した。
「おお、こいつぁあの生徒会長の、確か<桜花>だったか」
「ふむ、ロゼ家に伝わる戦闘特化の二刀流エインヘリアルですね」
デボンとシュトロハイムはそう言いながら近くでまじまじとシャルのエインヘリアルを見る。
クロウは手慣れたようにエインヘリアルの頭部と胸部の装甲を開け、頭部のシステム管理コアと胸部の駆動源生成コアのロックを解除した。
「シュトロハイムから話は聞いていたが、本当だったんだな」
「ええ、システム管理コアと駆動源生成コアをあのように自由自在に操作できるのはこの世でマキナさんと彼だけでしょう」
「そうか、この坊やがエインヘリアルを....」
なぜかデボン先生とシュトロハイム先生はお互いに抱き合って泣いていた。なんでや。
「正直何を見せればいいか分からないので、今からやりたい事を全部口で言います。まず、ロゼ家の血統のみが使えるというこのエインヘリアルの使用者管理システムの強化、つまり防犯強化です」
クロウはそう言いながらシュトロハイム達全員に見えるように空中投影されたホログラムを拡大する。
「エインヘリアル換装時の体表面スキャンを維持したまま、髪の毛の先数ミリなどを使うDNA認証機能も追加し、時間があればロゼ家の血統にのみ現れる遺伝子配列も認証候補に追加しよう、それだけではなく...」
クロウの口から聞かされる数々の防犯措置をシュトロハイム先生は必死にメモを取っていた。
「さて、防犯はそれくらいにしておき、お待ちかエインヘリアルの武装改造だ」
「よしきた!」
今度はデボン先生のテンションが上がる。
「先日とんでもない二刀をシャルのために作ったので、それに負けないくらい魔改造したいと思います」
そういいながらクロウは手際よくシャルの桜花をバラバラにしていく。脚部、頭部、腕部、胸部、腰部の5つにとりあえず分解し、そこから更に細かく分解していく。
「俺の記憶が間違っていなければ、<桜花二刀流>は連撃と不定形軌道を中心とした1対多数を中心に想定した乱戦闘技。もちろん1対1でも十分強いが、本当の真価は1対多数で発揮される、そのため、装甲の強度も大事なことながら、身体の動きに合わせた靭性がより求められる。1対多数に応戦するための軽さと粘り強さ、その双方がシャルのエインヘリアルには必要だ」
そこでクロウはアイテムボックスから深紅の粘り気のある物体と、白色の塊を取り出した。
「<桜花>の基本構成物質は<ダマスカス合金>と<ヘキサカーボンナノテクトチューブ>で出来ている。ダマスカス合金は軽さとその硬さを保証してあり、ヘキサカーボンナノテクトチューブはパーツ同士をつなぎ合わせるための連結材としても使われている。なのでこのまずはこの<堅血鋼虫>を塗りたくります」
クロウは深紅の物体をちょんと桜花のそれぞれのパーツに付ける。すると、その深紅色は増幅するようにあっと言う間にパーツを覆いかぶさった。それをみたクロウはすかさず両手に電流を発生させ、それぞれのパーツに触れていく。
「堅血鋼虫はその特性上、硬い金属を喰らい、己の体内で血鋼と言う鉱物を生成、排出します。本来は金属さえあれば無限に増える世紀の害虫ですが、強力な電流を浴びると即座に死亡し、周囲の物体ごと全身が血鋼になると言う特徴があるので、それを使って桜花をコーティングしました。血鋼は血液に触れた際に、それを吸収し自己修復と永続的な硬度上昇がありますが、見境ないのがデメリットなので、この白い塊を...」
今度は白い塊をそれぞれのパーツに塗りたくる。暫くする血鋼にみるみると溶けていき、やがて桜花の表面は綺麗なピンク色になった。
「渡世の大鯨から採取した龍涎香です。これを塗ると血鋼の見境ない吸血性を抑制し、鎧を柔らかくすると同時に、火水雷土木の5属性の耐性を与えます。同時に混乱、麻痺、吸血への耐性も獲得できます。さて、後は稼働部を増やすために関節部を少し改造したり....」
後は全部パーツの再設定のため、クロウは少しだけ弄って、
「完成しました。これがロゼ家の新しいエインヘリアル、別名、<血桜>です」
外が暗くなった頃、少しだけ改造すると言っていたのに、再び魔改造を繰り広げたクロウは、綺麗な<桜花>を人の生き血を啜って万年生きた妖魔の夜桜のような恐ろしいエインヘリアルに仕立て上げていた。
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<血桜>
レア度:測定不能
新式の自己成長型多数乱戦用吸血辻斬り式軽装甲。
ロゼ家の血統を持つDNA認証された者のみ使用可能(クロウとマキナは除く)
ダマスカス鋼を堅血鋼虫の生成した血鋼で覆い、ヘキサカーボンナノテクトチューブを支えとして、龍涎香を仕上げに使用したエインヘリアル。使用者のアドレナリン分泌を高め、戦闘が長引けば長引くほど<殺意><狂暴化><吸血><威圧><HPMP吸収><怪力上昇><全耐性上昇><連撃数上昇><ヒット時ダメージ上昇><ヒット時ヒット数上昇><裂傷><出血>の効果を上昇させ、戦闘開始後10分で最高に達する。さらに最高潮に達してから30分経っても戦闘が終了しなかった場合、使用者は<狂い咲き>の状態を得る。この状態の間、使用者は戦闘行為を終えるまで疑似的な<不死>を得ると同時に、一度斬った相手に<桜印>を付与する。<桜印>を付与された相手はHPが一定以下に陥る、または完全な<戦意喪失>に陥った場合、即座に処刑され、その場に<血桜>という赤い桜の木を咲かせる。この木はその場に存在する限り、一定間隔で使用者のHPとMPを全回復させ、スキルクールダウンをリフレッシュする。同時に、敵対者に<幻惑><混乱><恐怖><戦意喪失>のデバフを付与し、これは戦闘エリアに存在する処刑され、生成された<血桜>の数だけ効果が上昇する。
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