危険組織達
「セシリア?今大丈夫?」
「ええ、大丈夫よクロウ」
「ああ、少し聞きたいことがあってな、昔のことは知らないが、最近の学園についてだ」
「いいわよ、宮殿来る?」
「その方が都合がいいか?」
「そうね、リリィにも聞かせた方がいいかもしれないし」
「わかった、20分後くらいに行く」
20分後、特待生の服装を着てロゼの町の中央にある宮殿へたどり着く。ん?門番が開けてくれない....ちょくちょく宮殿に来たりしてるんだが....
「悪い、宮殿に入れてくれないか?」
「その制服!」
門番は巨大なゲートを開けると、急いでその場にいる衛兵全員に通達した。この様子ならアマネに会えるかなと思っていたけど、どうやら遠征しているようだ。
「クロウ様、お待ちしておりました」
巨大な宮殿の中を歩いていると、どこからかダンディな執事が現れて、彼に連れられて大きな部屋にやってきた。
「やぁクロウ、よく来たね」
「クロウさん?」
セシリアとリリィがメイドの淹れた紅茶を飲んでいた。
「おっすおっす」
クロウは遠慮なく椅子に座って、早速本題に入った。
「最近の学校物騒じゃない??」
リリィとセシリアは共に口を噤んで俯いてしまった。
「もしかしなくても魔王と関係が?」
リリィはセシリアを見る。セシリアは更に顔が暗くなってしまった。そうして意を決したように話し出した。
「王国暗部と拷問部がチェランの口を割ったわ。神聖魔法の攻撃性が効かないだけで、回復魔法で舌を治す事は可能だった。そうして彼の話によると、<略奪>の魔王、アルイタの7人の息子が既に王国中に潜伏しており、チェランを始めとした息子たちも各地で強力な魔族やモンスターを<義理兄弟>と称して<神聖性>を与える儀式も行っているわ。つまり、このままだと王国各地で神聖魔法が効かない、<神聖性>を持つ強力な魔族を筆頭に彼らが国に反旗を翻すかもしれない、そのために既にアマネには王国中での調査と排除を任せているわ」
「そんな!お母様!私はどうすれば!」
「何もしなくていいわ、ただクロウのそばにいなさい」
「え?」
俺は護衛ではないんだが??
「本当よリリィ、クロウのそばに居ればこの世の9割の面倒事は解決してくれるわ」
「そんなわけないだろう」
「私が言うんだから間違いないわ」
「ぐっ!」
まあ流れで何回かセシリアを助けた事はあるけど、そんな事言われても....
「そういう事だから、クロウ、リリィの事よろしくね」
「しょうがねぇな」
「ありがと、恩に着るわ、それとクロウ、近々機甲大祭が開催されると思うけど、私の<予知>によるとそこでもアルイタの息子がリリィ達を始めとした貴族科の生徒に襲い掛かるわ、用心して頂戴」
「事前に<予知>してるんだったら軍や近衛兵を派遣できないのか?」
「そんな大事にするくらいなら開催中止した方がマシよ。それに機甲大祭は多くの外部の観客も金を落とす一大イベントよ、そんな事はできないわ。まあ<黒虎隊>を潜ませておくから、ジュノーを始めとする他の小隊長と一緒に護衛よろしくね」
そういいながらセシリアはリリィを抱きしめた。
「分かったよ、それとセシリア、他の危険組織の情報もくれ、きっと何個かあるんだろう?魔王以外にも」
「そうね、色々あるから、今度まとめて情報を送るわ」
「ああ、ありがとう、今日は帰る」
「あら、食事を作ってくれないの?」
「また今度な」
「分かったわ、またね」
クロウは人気のない場所でエインヘリアルに換装し、そのまま空を飛んで寮へ帰る。テレポートで帰ろうかと思ったけど、ステータスが足りなくて使用できなかった。
「ただいま~、癖で言っちゃうなこれ」
制服等を洗濯し、軽くシャワーを浴びた後、ゲーム内から大まかに敵対勢力の情報を漁ってみる。公式もいくつか危険組織を公表しており、それぞれ、
竜血と高貴な血統を求める慈悲無き吸血鬼の集まり<ドラクルズ>
魔法と破壊力を追い求める狂った魔術師集団<マニアマジア>
邪神を崇めたてる異教徒の集い<666番の罪人達>
快楽と永遠の享受で人々を陥れる<不夜城の花魁>
軍政統治を至上とする鉄血の戦闘機構<アフターフロムヘル>
その他にも無数の組織がいるが、公式声明のある最も危険度の高い組織はこの五つだ。それぞれの組織には同じように紋章があり、ドラクルズには蝙蝠の紋章、マニアマジアは魔法陣の紋章、罪人達は逆さ十字の紋章、花魁通りはハートと蛇の紋章が、アフターフロムヘルは銃とナイフの紋章である。これらの紋章はそれぞれの所属構成員の身体のどこかにタトゥーか魔術刻印として入っており、これを見れば一目で所属組織がわかると書いてあった。
「しまった、医務室でこっそり見ておけばよかった」
疑わしいのはあの4本腕のエインヘリアル使いだが、医務室ではなぜかあいつの姿が無かった。
一体にどこに行ったのだろう?
***
ロゼの学園都市の外れ、アルフレッド家のある巨大な荘園の当家執務室において、深夜遅くまでアフレッド家当主は暗い部屋の中、ランプに火を灯して書類仕事を続けていた。しばらくすると、ランプの色が緑色に突如変化する。白い髪と髭を綺麗に整え、綺麗な服を着た壮年の当主は緑色になったランプの光を見ると、仕事の手を止め、立ち上がって棚の中から綺麗な青白いクリスタルのような鉱石を取り出した。
「こんばんわ~アルフレッドさん、徴収に来ましたよ~」
「どうぞ」
蒼い雷と共に突如出現した人物に恭しくアルフレッド当主は鉱石を渡す。白い認識阻害のコートを羽織った人物は、鉱石を受け取ると、
「合格です~いつもいい質ですね」
と言いながら、その鉱石を右手に付けた虹色の宝石が埋め込まれた指輪にしまう。
「では、魔導と魔王の導きを、」
「魔導と魔王の導きを」
認識阻害のコートを着た謎の人物は右腕を、アルフレッド家当主は左腕に刻まれた魔法陣のタトゥーに魔力を通し、お互いに淡く光らせる。コートを着た人物は慣れた手つきでいつも通りなら大量の金貨が入った布袋を投げ渡すと、そのまま来た時同様、一瞬でどこかへ消えてしまった。
当主はほっと一息ついて、袋に入った金貨を確認しようと思っていたら、袋の底がぐっしょりと濡れている事に気が付いた。ランプの光に近づけてみると、それは水よりも粘り気のある赤い液体であった事に気が付いた。当主はまさかと思い、袋を開けてみると、
「この大馬鹿者が....」
眼を開けたまま絶命したアルフレッド家長男、リレック・アルフレッドの首が入っていた。
***




