北部王国進化します
ベルアルとのプチ会合から数週間、気が付いたらイベントも中盤に差し掛かっており、どうやらランキング上位に食い込めたようだ。その間、北部王国は問題なく各地の防衛に成功しており、既に前線の緊張を保ったまま、争いのない日々を過ごしていた。ベルアルもその間、クロウの領土に通うようになり、話題と言えば国防兵器についてだ。前線が安定した今、ベルアルは国力を上げて国防に勤めている。北部王国の更に北、クロウ領の北部山脈で膨大に取れる寒鉄より更に冷たい<凍鉄>と言う新しい鉱石が発見された。そのまま使うだけでも十分強力な素材だが、ここにクロウの力である冥府の力を注ぐと<冥凍鉄>、地獄の力を注ぐと<獄凍鉄>になる。共により強力な素材で、ゲーム内レア度で言えば最高級の10だ。
<冥凍鉄>、<獄凍鉄>は作られた武器は敵を攻撃するたびに相手の生命力とステータスを強奪し、必然的に相手の速度を減少させる。その防具も同様だ。これらの材料で作った武器装備を北部王国兵に装備し、クロウが召喚した<北狼王:オーフェン>が兵士を改めて訓練した。オーフェンの訓練な過酷を極めたが、生き残った兵士達はLvもあがり、北部王国はオーフェン、クロウ、そしてベルアルのおかげで存在進化した。
今の名前は北国ペトロデル、北部王国兵も改めて北王兵に改名した。前線基地を除いた全ての都市はクロウ領を基準にスケルトン・ビルダーやワーカー、そしてペトロデルに存在する全ての建築家や労働者を動員して改築された。そしてそんな領地を防衛する鉄血果敢な北王兵は以前とは比べ物にならない程獰猛かつ慎重で、北狼の名前を冠するに値する強さを手に入れた。そしてその北王兵を統治するのはベルアル、北部王国が進化してから、ベルアルも女帝に改名し、彼女が行った事の中で一番その名を轟かせた事と言えば、領地内の盗賊、腐敗した官僚を皆殺しにした事だ。これは始祖オーフェンに倣った行いであり、後に北王民に稀代の名君と言われる行いの一つだった。
現在、クロウは北国のダンジョンや魔塔を余すことなく踏破しており、新しいアイテムや素材は一部をベルアルに渡してある。クロウ領も貧しさにより盗賊に落ちた元北国民などを迎えており、ゆっくりと繁栄の兆しを見せていた。数か月後、イベントはラストスパートを迎えようとしており、南部西部東部の三か国は秘密協定により連合軍として北国に侵攻する事にした。
西部前線を北狼王オーフェン率いる軍隊が、
南部前線をリョウマとべオスが軍隊が、
東部前線はクロウ自ら率いる軍隊が防衛する事になっている。
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西部前線、三か国連合軍は武器を捨て、赤子のように逃げ出していた。だが、ありとあらゆる場所から、命を刈り取る氷の狼は、手に持った凍える短剣で獲物の命を一つ一つを喰らう。前方は冥府から来たような残酷な北王兵が一騎当千の戦いぶりを見せつけ、後方にはオーフェンが自ら育て上げた北狼兵が氷原に走る狼のように敵兵に一撃一撃を入れていく、そして北王兵の後方には伝説の北狼王・オーフェン。老いた狼王は生前と同じ、ゆるぎない視線を敵に向けていた。数時間後、前線の敵を全滅させたオーフェンはそのまま西部王国への侵攻を開始した。今日を持って西部王国は知るだろう。北には人を喰らう狼がいると。
南部前線、べオスとベルクはリョウマの元で、短いながらも様々な戦闘技術や統兵技術を学んだ。宮殿で久しぶりに2人に会ったベルアルも成長したベアルとベルクを見て、人が変わったように見違えるほど成長したという。そうしてべオスとベルクはそれぞれ爵位を賜り、大将軍としても国民としても格が一つ上がった。そんな二人が率いる南部前線の兵は、圧倒的な弱さを見せていた。べオスは事前にクルーリの住民を他の街に移住させ、現在、クルーリの街にあるのは何もない空き屋だけにした。なのであえてべオスは兵をできるだけ無様に敗走させた。そうして敵兵は当然のように驕り高ぶり、全ての兵士でクルーリの街を蹂躙すると言って、全兵士をクルーリの街に突撃させた。べオスは最後の一人の兵士が街に入ったのを確認すると、事前に街の中に巻いた油に火をつけた。そして街の周りの城壁には遠距離攻撃のできる兵士を配置し、飛行魔法で逃げようとする兵士をかたっぱしから撃ち落とした。
「無様ですな」
「愚かなやつらだ」
ベルクとべオスは兵士を一人も死なすことなく、南部前線の連合敵兵30万を一人残らず焼き殺した。のちの北王の双軍神と言われるべオスとベルクの初めての大勝だった。その後、彼らも弱兵ぶっていた北王兵を率いて、南部王国に向けての侵攻を開始した。
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東部前線、三か国連合軍は20万の大軍を率いて、前線都市の近くの大草原で侵攻の準備をしていた。司令部で今回の作戦を練っていると外の兵士が慌てふためきだした。快晴だった天気は急に暗くなり、どこからか地面を震わすような軍隊が草原の向こうから現れた。今回のクロウは東部前線の防衛を一人で行う事になっている。
「召喚:<氷獄兵>、<氷獄魔将>、<氷獄王:デューク>、<冥凍龍>」
氷色、黒色、赤色の三色で出来た鎧を身に着け、氷のような冷たい大剣と盾を担いだ重厚な騎士が一律して連合軍の方へと行進をしていた。その数の多さは彼らのいる草原を端から端まで眺めても人影が切れない程多く、更にそれらの騎士の後ろには折れた片角を持つ、見る者を凍り付かせるような、悪魔族の将軍が心を凍らせるような蹄の音を鳴らす氷馬に乗っていた。空には数多くの龍が飛んでおり、空を飛ぶ<冥凍龍>を見つめるだけで兵士の何人かは眼球が凍り付いた。
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氷獄王:デューク。クロウと、北国に残るいくつかの伝記を纏めると、彼の生涯が明らかになる。
天地開闢の後、初めて北国で生まれた人間。その頃の北国は今より過酷な環境の上、さまざまな恐ろしい原生生物がお互いの領地を奪い合い、殺しあっていた。デュークはそんな凍える大地で、命からがら生きるすべを見つけ、彼の意志と闘志によって数多くの原生生物を殺し、過酷な環境で生き延びていた。やがて他の大陸からの難民が流れ着き、いつ殺されるか分からない矮小な彼らにも、デュークは惜しみなく生きるすべを教え、いつしかその永久凍土の地で、彼は周りに国王だと認可された。デュークはもとより生きるのに精いっぱいで、国王になってもやる事は変わらず、不毛の地をいつしか雪原の楽園になっていた。だが、その楽園を他の王国によって焼き払われた時、デュークの心には凍土のような寒さでも消えない熱い復讐の火が燃えあがった。復讐の望む彼は獄帝に力を授けられ、デュークは、無残に死んだ仲間を<氷獄兵>、<氷獄魔将>として蘇らせ、<時>の勇者に討伐されるまで無数の敵を永遠に凍らせた。
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デュークが剣を敵兵に向けると、<氷獄兵>は足元を凍土に変えながら侵攻を開始した。氷獄兵と連合軍の戦闘はものの数時間で終わりをつげ、蹂躙、虐殺、この世のあらゆる残虐な単語を持ってしても、東部前線の惨状を表せる言葉はなかった。<冥凍龍>が空から絶対零度のブレスを吐き、氷のように固い<氷獄兵>と<氷獄魔将>が無慈悲に敵兵を鎧ごと切り裂く。魔法兵の攻撃は一ミリも<氷獄兵>の歩みを止める事が出来ず、逃げようにも周囲は既に氷漬けになっていた。クロウは改めてデュークと共に死体も血もあらゆる者が永遠に凍り付いた戦場を眺めると、そのまま無慈悲に東部王国への侵攻を再開した。




