タタの血統と試験監督
「列に戻れ!貴様の試合は終わった!」
「はっ!知った事かよ、俺は学園で1番強い奴と試合しに来たんだ!ひっこんでろ女ぁ!」
見知らぬ2年生は桜花に換装したシャルを4本の腕と武器で圧倒する。容赦なく蹴り飛ばされた彼女はたまらず壁に激突した。
「シャル!」
クロウはたまらずシャルに駆け寄る。桜花は既にボロボロになっており、すぐそばでは同じく倒れている先生達も医務室に運ばれていく。鎮圧用に控えていた3年生も、当時自分達を打ち負かしたシャルが倒されたのを見て、へっぴり腰になっている。
「どこだ!クロウ!生徒会長の番犬っていうやつは!」
「えぇ...??」
違う違う、多分俺じゃない、同姓同名の別人だろメイビー。全員が会長の様子を見に彼女に駆け寄ったクロウを注視する。やめて!見ないで!
「く、クロウ」
「シャル!大丈夫か?今から医務室に運ぶからな」
「ク、ロウ、タタを」
「え?」
「タタを、止めて....」
あっ気絶した。息はしてるから大丈夫だと思うけど、タタを止める?タタがどうか....
そう言いながらクロウはタタの方を見ると、彼女は狼のように手足を地面につけ、体が獣のように変化していた。彼女も怒りに狂ったまま無意識なのか、換装したエインヘリアルも狼のような形になっていた。
(獣人化?!何気に見るのは初めて....でもないな)
いつだったか獣人界に行ったときに見た記憶がある。人狼ような見た目になったエインヘリアルとタタは、クロウの目にも追えない速度で4本腕のエインヘリアルに飛び掛かると、クッキーのように彼の4本腕をあっという間にその鋭利な爪で引き裂く。人狼モードのタタはいつもとはかけ離れた威圧感とエインヘリアルの操縦性を露にしていた。
「や、やめ!た、助けて!」
先ほどまで調子に乗っていた2年生は人狼にはらわたを引きずり出されたようにエインヘリアルの外甲を引きはがされ、あっと言う間に壁に叩きつけられた。それを見た取り巻きも何人か狂化タタに襲い掛かったが、1人は首元に噛みつかれ、1人は右腕で腹部を貫かれ、1人は左手で頭部を握りつぶされた。
(おいおいまさか死んだ?)
ちゃんとエインヘリアルの操縦者保護システムは作動していたようで、なんとか死ぬ前に操縦者は安全な場所へショートテレポートされたようだ。だが本来喰らうはずだった肉体的ダメージは全て精神ダメージに変換され、実際に風穴が空いたり脳漿が飛び散っていないものの、首元に噛みつかれたやつ含めて、全員場外で取りつかれたように自分の腹を必死にさすったり、首元を手で覆ったり、頭を手で守ったりしていた。
「タタ!落ち着け!もう大丈夫だ!」
いつも世話になっている医務員にシャルを引き渡し、クロウは猛獣を宥めるようにタタに近づく。
「ガルルルルルル」
「うおっ!?」
人狼モードのタタは、お構いなしに生身のクロウに覆いかぶさり、押し倒した。そしてそのまま首元にその牙を近づけたと思うと....
「あっおい!こら!やめ、くすぐったい!」
エインヘリアルを解除し、そのまま子犬のようにクロウの首元をぺろぺろと舐めだした。
「くぅ~ん」
「くぅ~んじゃねぇよ!やめんか大衆の面前で」
ぐぬぬ、物凄い力、クロウは全く引き剝がせなかった。人狼化、もとい獣人化した影響か、身長が伸び、大きくなるべきところは大きく、引き締まるところは引き締まっている。暫くぺろぺろした後、タタは落ち着いたようにそのまま狼耳としっぽをぺたんを畳み、クロウの上で丸くなってしまった。そうして眠ったように寝息を立てると、しゅるしゅると萎むように元の姿に戻っていく。あっこれ服あかん!獣人化する際に破れてしまった服の代わりに、クロウの上着を急いで丸く眠った彼女に覆いかぶせ、近くの医務員に引き渡した。
その後、1人でフェリスやリリィのいる特区へ向かう。どうやら貴族科から治療ができるエインヘリアル使いや、神聖魔法の使い手が多く一般科の医務室や貴族科の医務室に向かっており、まさか貴族区画の試験会場でも暴れる者が出たのかと思うと少し足早になるクロウだった。
そうして足早に貴族科の試験会場にたどり着くと、死体の山のように気絶した生徒達の上に座るフェリスと、光の騎士と共に頭を垂れる生徒に囲まれたリリィがいた。
「あっ!クロウ!見なさい!この私の戦績を!260戦260勝よ!私が2年生最強だわ!」
どうさら先ほど慌ただしくしていた貴族科の生徒は、フェリスに倒された生徒の治療と彼らの医務室への運搬のためだったようだ。
「私免除されていたはずなんですが....勝負から逃げてはセシリア様の顔に泥を塗る事になりますわ」
「おぉん...」
結局近接格闘技を覚えたフェリスと元から強いリリィが貴族科に鎮座する事によって引き続き試験は続いたが、一般科2年生の試験が終わっておらず、見張りも誰もいないため、寮の部屋に戻ろうとしたクロウを先生が引き止め、シャルに代わって試験監督をすることになった。
「頼んだクロウ、内部査定、あげとくから」
「任せてください」
内部査定をあげてくれると言われてはやるしかない、クロウはひそかに訓練していた元ヤンキー達と共に試験監督をすることにした。




