リリィ圧勝と期末考査1年生編
「<聖光>、起動」
戦闘場に上がったリリィがエインヘリアルを展開する。先ほど空中戦のために空けた天井から、まばゆい光が差し込む。まぶしくて誰もが目をつむり、再び開けた時には彼女の換装が終わっていた。その純白の軽装ドレスタイプのエインヘリアルは、彼女の皇族としての高貴さを体現すると同時に、両手でいくつもの宝石が埋め込まれた黄金十字の杖を持っている点から、彼女の実力が人の上に立つものとして非常に高い事を裏付けているようだった。
「準備はよろしくて?」
「ああ、このまま行こう」
クロウは途轍もない危機感を感じていた。どこからどう見ても神聖属性の使い手、ステータスを70%以上下げている今、普通に致命傷になりかねない。
「<火のた」
「聖女第一権限発動、<聖照>」
クロウの魔法詠唱よりも早く、リリィは天に向かって杖を振り上げた。クロウは杖の先が太陽を向いている事に気づき、まさか衛星兵器のような恐ろしい攻撃が!?と身構えていたが、特に何もなかった。気を取り直して一歩前に出て魔法陣を展開しようとすると、
「ぐわぁああああ!」
直射日光がクロウを焼く。あまりの激痛に急いで日陰に戻る。どうやらこの戦闘場に差し込む日光に全て神聖属性が付与されており、同時に熱量も倍増しているようだ。日の下に立っているリリィには毎秒5%のリジェネ量増加と持続的なステータス増加の恩恵があるようで、「こんなんずるやん!」と内心抗議をするしかないクロウであった。
「くっ、ま」
「聖女第二権限発動、<使徒>」
戦闘場全てに響くような音でリリィはその黄金の杖を使って床を叩く。何も起こらないと思ったら、日光の中から剣と盾を持った燃え盛る騎士が現れた。
(聖火!?)
初めて見た。茨の騎士すら焼き殺せる聖なる火を使う光の騎士。日向の元には出られず、リリィの周囲には4人の騎士が護衛しており、クロウの方には次々と新しい騎士が生まれてはやってきている。8人の光の騎士に首元に聖火を纏った剣を突き付けられ、流石のクロウも降参した。
「負けました」
「対戦ありがとうございました」
クロウは大人しく戦闘場から降りる。フェリスとシャル、それからアリアンナも一応リリィに挑むが、全員リリィの呼び出した光の騎士に負けてしまった。
「なんでこれでチェランに負けたの??」
「彼、神聖属性が利きませんでした」
「うせやろ」
完全な加護や祝福を持ってやっとこさ完全耐性を実現したのに、なんであいつは既に持ってるんだろう?まさかあいつらも獄帝の加護持ち!?的外れな方向に勘繰りだしたクロウであった。
最終的にみんなの強さランキングは上からリリィ、クロウ、アリアンナ、フェリスとシャルが同格、そしてタタだ。本来ならばリリィに習うべきだが、別格過ぎて学びようがないので、全員クロウから学ぶことになった。
(あれ?これで正々堂々アリアンナの特訓できるのでは?)
そう言うことで、リリィを除く全員毎日クロウの下で修業をする事になった。
アリアンナはいつも通り魔力糸の訓練、今まではナイフの訓練もしていたが、クロウはそれを止めて曲刀の訓練を始めることにした。
フェリスとは銃を使った近接格闘術を教える。彼女の今までの撃ちながら逃げる、引き撃ちの戦い方もいいが、いつも広い空間で戦えるとは限らない。彼女もそれに納得していた。
シャルとは引き続き剣術を。桜花二刀流と様々な武器で試合をする。クロウの本職ではないので、彼女の師匠と言うよりは試合相手と言った感じだった。
そんな感じで1か月後、期末考査が始まった。
「次!試験番号59番、クロウ!」
「はい!」
クロウは言われるまま所定の位置で学園支給のエインヘリアルに換装する。
「え?初期設定終わってないじゃん?」
「やば、なんだあいつ大丈夫か?」
「だぼだぼで動けねぇんじゃねぇの?」
「離れておこう」
周りからは異様な視線を向けられる。クロウはそんなのお構いなしに所定の動きをこなしていく。前後左右に移動、屈伸にジャンプ、空中でホバリングしたり上下左右に飛行したり、追加点のために地上でバク転と空中で3回転したり、これなら文句なしで合格だろう。
クロウの横の会場ではタタの試験も始まっており、彼女もおぼつかないながらなんとか所定の動きをこなしていた。
一般科1年生の考査はすぐ終わり、先生が名前を呼んでいく。呼ばれた生徒は合格、そのまま解散、呼ばれなかった生徒は居残って受かるまで先生と共に特訓だそうだ。クロウは最初の方に名前を呼ばれたのでそのままタタのいる会場の方へと歩き出す。暫く後ろで待っていると、タタも無事に名前を呼ばれたようだ。嬉しそうにする彼女と共に、一般科2年生の会場へ向かう。シャルは試験免除だったが、他の2年生の試合の安全保障と緊急時のため、待機しているんだとか。なので、タタと暇だし、特区へ向かうついでに様子を見に行くことにした。




