フェリスVSクロウ戦とアリアンナVSクロウ戦
数分後、地面に倒れて動けなくなったシャルをアリアンナが場外へ運び、次はフェリスと戦うことになった。
「咲いて!火の薔薇!」
フェリスがそう言うと、彼女は左手に付けた赤いブレスレッドに触れる。あれがフェリスの専用機のデバイスか。彼女を中心に火柱が上がったと思うと、赤いドレスタイプの軽鎧のエインヘリアルにフェリスは換装した。そして左手に赤いバラの刺繍が入ったボルトアクション式のライフルを取り出す。
「容赦はしないわよクロウ」
「あっ、うん」
アリアンナの合図と共に彼女は発砲する。クロウは先ほどと同じ、片手剣と盾で応戦する。盾でその弾丸を弾いたが、当たった部分が赤く赤熱し、溶けだした。
「ファガン家秘伝の<灼熱弾>、当たると容赦なく溶けるわよ」
「面白い」
クロウは穴の開いた盾と剣をしまい、腰から2つの鉄扇を取り出す。そして彼は扇をバサッと広げると、再びフェリスに接近する。空の薬莢を輩出した彼女は、すぐさま2発目の弾丸を打ち込む。だがその弾丸はクロウに触れることなく、彼の舞うような動きで風と共に地面に埋まった。フェリスはその身軽な特徴を生かして、移動しつつ何度も弾丸を打ち込むが、右や左の扇に煽られ、全て地面の砂を溶かすだけだった。そうして気が付くとクロウの鉄扇はフェリスの首元に突きつけられており、なくなくフェリスは負けを認めるしかなかった。
「降参よ、その扇、どうなってるの?」
「いや、格段特別な扇を使っているわけじゃなくて、強力な風魔法を扇に付与することでだな...」
フェリスはクロウの対処法を聞きながら、その対処法の対処法を考えていた。眉を顰めながら戦闘場から出ていくフェリス。入れ替わりに、アリアンナがやってきた。
「お?お前かアリアンナ」
「そういえばまだ貴様には私のエインヘリアルを見せていないと思ってな、ついでに本気で戦ってもらおう」
「俺に本気で?」
<黄泉渡し>か<冥獄に揺蕩うもの>を使えと?特に後者は学園が全壊するが??
「ああ、私の後にはリリィ様も控えている。ここで貴様を疲労させておこうと思ってな」
「あー、そういう事なら」
「起きろ、<千切鬼>」
アリアンナの掛け声と共に、彼女も自分の専用機に着替える。なんなのその掛け声、フェリスと言いお前といい...かっこいいじゃん?俺も後で考えよう。あっという間に彼女は換装を終える。漆のような黒色と、黄金色でできたその立派な鎧は彼女の前後左右を隙間なく覆い、頭部の2本の角が生えた般若のような兜は、両手に持った曲刀も相まって、まさに鬼のような形相だった。なるほど、これが本来の実力か。油断も隙も無いその特殊な構えは、彼女の実力をうかがわせる。
シャルの開始の合図と共にアリアンナは容赦なく斬りかかる。2つの曲刀が別々の軌道で襲い掛かるため、なかなか厄介な相手だ。
(ナイフより曲刀の方が使い慣れてるな)
意外な発見。
「ふっ!」
アリアンナが短い呼吸と共に、両腕を鞭のようにしならせながら斬りかかる。何とか剣で弾こうと曲刀に対抗した瞬間、手に持った剣は鋭い剣鳴と共に、剣身が6分割された。
「うおっ!?」
これには流石のクロウも驚いた。学園支給とはいえ、かなりランクの高い鉄を使っているはず、それを安々と6分割するとは。
「驚いた、これが<千切将>の実力か」
「ナイフは苦手でな。曲刀は大きすぎてメイド服では隠せん」
「その曲刀術、<丹氏>?」
「な!?知っているのか」
「当たりか」
そういえばアベリーとナベリー達はどうしてるんだろう。
「だが彼らは投げ曲刀だったはずでは?」
「この曲刀術は師匠に習った。師匠曰く元々は馬上で投げて戦う曲刀術だったが、馬から降りたときに投げ方も忘れたらしい」
「そういうもんなのか」
「ああ、続けよう」
「よしきた。せっかくだし、俺も折角だ。魔術師の力をお見せしよう」
「召喚術師だったのでは?」
「魔法使いの<召喚系>。つまり魔法も使えるのさ」
クロウはいたずらっぽく笑ってウィンクすると、一度アリアンナから距離を取り、背中から杖を取り出しつつ、自分の胸部装甲を軽く2回叩く。するとクロウのエインヘリアルはみるみると小さくなり、一度胸の前で六角形がいくつも重なったような形に収縮すると、再び展開した。以前のような全てを覆う鉄の全身鎧ではなく、首から下を覆う薄い鉄の軽装になり、どこからか頭には大きな魔女の帽子、そして背中には大きなマントを羽織っていた。右手に持った杖で一度地面とコツンと叩くと、クロウの身体は反重力的に浮かび上がった。
「諸君!童話に出てくる偉大な魔法使いをお見せしよう!」
クロウは大胆不敵な笑みを浮かべると、そのままアリアンナと空中戦を始めた。
***
小さい頃の絵本。寝る前に家族に読み聞かせてもらった、旅する魔法使いのお話。枯れた草木を魔法で満開にし、日照りで水がなくて困った畑に雨を降らせ、泣いてる小さな女の子にどこからか取り出した飴と綺麗な花で笑顔にさせ、畑を荒らす大きな猪を大きな真ん丸の家畜に変える、そして最後には王様と国を守るため、みんなの力を借りてドラゴンを魔法でやっつける。そんな子供の頃に夢見た偉大な魔法使いが私たちの目の前にいた。シャルも、フェリスも、リリィもタタも、空を飛びながら色とりどりな魔法陣から火の玉や水の玉、地面から植物を生やしたり、何もない場所から雨雲と雷を呼び出したり、誰もが目を輝かせてクロウとアリアンナの戦いを注視していた。
***
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「<火の玉><水の玉><雷の玉>、おや隙あり<くしゃみ花粉弾>と<眠り花粉弾>、おっとっと<蜃気楼>」
アリアンナはその兜の下では苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
(隙が無い)
あらゆる場所から展開されるその魔法陣からは無数の魔法が飛んでくる。殺傷威力の無いクラスⅠのファイヤーボールやアクアボールとはいえ、当たれば熱いし痛い、おまけに<くしゃみ花粉>のような、催涙弾のような魔法に<眠り花粉>という吸いこめば意識を薄めるような魔法もある。そのせいも相まって、彼の剣を6分割したスキル<千切り>が発動できない。短く息を吸い込む必要があるから。隙を見て吸ったとしても、彼の蜃気楼を切り裂くだけで、気が付いたら後ろで別の魔法を発動させたりしている。彼はその杖を空中で振るうたびに無数の色とりどりの魔法陣が展開され、悔しいことに、敵である私も見惚れてしまうことがある。
「チェックメイト」
気が付いたら地面から生えてきた強靭なツタに全身を拘束され、両手の曲刀を彼の杖でやさしく叩き落されていた。
「負けた」
敗北は悔しいが、少なくとも彼の実力の一端を垣間見た気がする。最後はリリィ様。果たして我が主はこの男とどこまで戦えるのか。頑張ってください。
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