期末考査と機甲大祭に向けて
「はい、と言う事で、身内で決めるエインヘリアル最強決定戦を始めます」
考査準備月になり、シャルが早朝から全員を特区の模擬戦闘場に集め、そんな事を言い出した。時刻は朝7時。
「ねみぃよシャル」
クロウは少し不機嫌な口調でシャルに言う。それもそのはず、昨晩もいつも通りアリアンナと夜遅くまで特訓していたから。アリアンナは表情一つ変えていないが、よくよく見ると頬の筋肉がぴくぴくしており、恐らく欠伸をかみ殺しているのだろう。
「何よあんたたちみっともない!シャキッとしなさい!」
朝から火力全開のフェリスが大きな声を張り上げる。
「まあまあフェリスさん、彼らは慣れていませんから仕方ありませんよ」
リリィもしっかり目が冴えていたようだ。
「眠くないのかお前ら?」
「私は教会でよく朝の礼拝を行っていましたから」
「ふふん!夜の9時には寝るようにしているわ!」
「子供じゃん」
「なんですって!?」
怒るフェリスから逃げつつ、クロウはアイテムボックスから眠気覚ましのドリンクを取り出し、アリアンナの後ろへ逃げる時、バレないようについでに彼女にも一本渡しておく。さて、眼も冴えたところで、本題に入ろう。
「今年も期末考査の時期がやってきた。クロウやフェリス、そして」
「お、おはようございます、タタです」
「お、タタじゃん!おはよう」
「彼女はタタ、私達生徒会の雑務担当だ」
全員タタに挨拶する。特に貴族科の2人とアリアンナの名前を聞いたときは卒倒しそうになっていたけど、何とか立て直した。
「タタの3人はエインヘリアルの基本動作の試験、私は試験免除、リリィも確か免除だったよな?」
「ええ、シャルは強すぎて戦える相手無し、私も身分がどうとかで免除です」
「えぇ....」
リリィはまだ分かる。皇族だからしょうがない。お前もかシャル、いやまあ新入生ボコり散らかしたり、今の座も力で手に入れたって言ってたから納得だけど。
「じゃあ実際に試験を受けるのは俺と、フェリスとタタだけ?」
「そうなるな?」
「クロウの実力は前に私が身をもって知っているし、フェリスは?」
「ファガン家の専用機の後継者であるフェリスさんならば大丈夫でしょう」
「となると、タタだけ?」
「そうなるな」
「ふぇ、私だけ特訓ですか?」
「まあ程度にもよるが、1年生の基本動作要求はさほど高くない、慣れればすぐさ」
「え、じゃあ最初のあの口上は?」
「ああ、例年通りならば、期末が終わった後、学園別エインヘリアルで戦う、いわゆる機甲大祭が開催される。全国各地の学園が一同にここ、ロゼに集まってさまざまな項目で競い合う、学園同士の誇りをかけた戦いだ」
あー、学園祭的な?体育大会的な?
「私とリリィはそれぞれそこで実戦試合をすることになっている。個人戦と集団戦共にな」
「まだ正式ではありませんが、例年通りならまたそうなるでしょう」
リリィはため息をつきながらそういった。
「そこでだ、負けないためにもみんなの中で模擬試合をして腕前を鍛えようと」
「え?私達も実戦試合に出るんですか?」
「え?俺たちも出るの?」
「ああ、実戦試合は一番盛り上がる、機甲大祭のトリだからな」
「タタ、生徒会役員は強制参加だぞ」
「聞いてませんよ~!」
「はっはっは!諦めろ」
「....はいぃ」
かわいそう、職権乱用だ!
「クロウは恐らくあのヤンキー達に推薦されて出ることになると思う、お前も諦めろ」
「やだ!」
そんな物騒なものに出たくない、機甲大祭は玉転がしとか綱引きとか、そういうのがいい。
「悪いな、生徒会一任なんだ、嫌なら私を倒すと良い」
「ぐっ」
会長ぉ!シャルはニコニコしたまま笑顔でクロウとタタの肩に手を乗せた。
「任せたぞ」
「はぁ、しゃあない」
とりあえずエインヘリアルの強さ比べはさておき、まずはタタが期末考査に受かるように、エインヘリアルの基本動作練習をすることにした。
「おとと、大丈夫、そのままジャンプだ」
シャルが横で支えつつ、タタはそれぞれの基本動作を行っていく。前後左右、屈伸にジャンプ、転がっての回避や空中での上下左右の飛行とホバリング。これくらいだ。タタは最初は苦労していたが、数時間もすればすぐに全て問題なくこなせるようになっていた。
「よし、タタもこれなら大丈夫だろう、じゃあ、クロウ、まずは私とだ」
「早くない?待ち遠しかったの?」
シャルは急いで桜花に換装する。両手で武器を構え、クロウに挑発的な視線を向ける。こいつっ....
「シャル、<黄泉渡し>でいいか?」
「え!?いや、それは勘弁してくれ」
もじもじと困り顔でそう答えるシャル。まあ流石に機甲大祭本番でもあれは出せないな。
「冗談だ」
そう言いながらクロウは学園支給のエインヘリアルに換装した。
「行くぞ!クロウ!」
3分後
「負けたぁ!」
ボロボロの桜花が地面で倒れている。
「え!クロウさんそんなに強かったんですか?」
「そうよクロウ!知らなかったわ!」
「私もはっきりと自分の目で見るまでは...」
タタ、フェリス、リリィの3人は驚いていたが、アリアンナだけは格別驚くこともなく平然としていた。まあ毎晩特訓してるからねアリアンナとは。
「もう一回!」
「良いよ、今度はどの武器が良い?」
両手で握っていた剣を背中にしまい、クロウは起き上がった桜花に聞く。
「両手剣の次は、盾と剣が良い」
「分かった」
「クロウ~!次は私とやりなさい!」
フェリスが場外からクロウに試合を申し込む。
「おう、いいぞ~」
クロウは背中から盾と剣を取り出し、アリアンナの合図と共に、再び戦いが始まった。
***
背中に無数の武器を装備した目の前の深緑のエインヘリアルは、狂い咲く私の攻撃をその盾で次々と受け止めていく。先ほどは幅広いブロードソードと言った感じの両手剣と戦った。今は先ほどの剣がよりコンパクトな片手剣になり、彼は空いた左手にナイトシールドを装備している。
(当たらない!)
旧式も新式もそうだが、彼、クロウとの実力差は小さい頃に師匠と打ち合ったような無力感を感じさせる。学園最強と言われた私の桜花二刀流の剣技も、彼の前では全く意味を成さない。型に囚われない私の変幻自在の剣の軌跡は、吸い込まれるように彼の盾へと防がれる。まるで木刀で山を叩いているような、そんな無力さが私に襲い掛かる。彼の防御を崩すため、より一層強く、素早く、攻撃を繰り出すが、彼の右手の片手剣は、そんな私の勢いを砕くように、最も望ましくないタイミングで私に襲い掛かる。確実に私の出鼻をくじき、タイミングをかき乱し、調子を狂わすその盾と剣に、私は勝てるビジョンが全く見えなかった。
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