故障?
機械音と共に周りの1年生達のエインヘリアルがそれぞれの使用者に合わせて形を変えていく。ムキムキの生徒のために力強い見た目になったり、魔法が得意な生徒のために身軽な軽鎧になったり、唯一、クロウとクロウの後ろの生徒は全くエインヘリアルが動かなかった。
「あれ?あれれ?あれれ??」
クロウは一度エインヘリアルを解除する。丁度見回りの先生もやってきたので、クロウは先生に軽く何があったかを話し、先生は分かったと言うと、クロウのデバイスを整備科に検査させると言った。クロウは後ろであれれ?と言っていた生徒も同じ状況かもしれないと言い、先生と共に振り返る。
「君、とりあえずエインヘリアルを解除するんだ」
後ろで見ていられなくなった2年生の生徒が同じく初期設定が始まらないエインヘリアルに言う。中にいる人も「わ、わかりました」とだけ言い、解除した。
「あれ?クロウさん?」
「あっ、タタ?」
フィットしないエインヘリアルを解除し、しりもちを彼女は、入学試験で見たことのある丸眼鏡の女学生だった。
「なんだお前ら知り合いか、じゃあ一緒に整備科に行ってこい、ほれ」
先生はデバイスをクロウとタタに渡すと、第二工廠に行ってこいと言った。
「いやぁ、奇遇ですねクロウさん」
「ほんとですよ、タタさんの事年上だと思ってました」
「そんな老けて見えますか....?」
「え!?いやちがっ、大人ぽいってことです」
「あっ、よかった」
ケータイのナビアプリを頼りに、第二工廠へ向かう道すがら、タタと少しおしゃべりする。
「にしてもすごいですね、1年生で生徒会に入れるなんて」
「えへへ、実は会長とは幼馴染でして、丁度前任の雑務の子が辞めちゃったので、代わりに会長が暇してた私を」
「うわー職権乱用?」
「うう、そうかもしれませんけど、私は特に気にしてません。毎日忙しいですけど、楽しいです」
「そうなんだ、ならよかった」
「あっ、クロウさん、そこじゃないですか?」
曲がり角の先に、大きな鉄の扉が現れた。開けて中に入ってみると、火花散るまさに工廠と言った感じの雰囲気の場所だった。
「おう、お前たちが問題の生徒か」
クロウの傍に一人のドワーフの先生が近づいてくる。着慣れたツナギと使い込まれたその分厚い革の手袋は、彼の腕前を語るようだった。
「はい、エインヘリアルが上手く初期設定をしてくれなくて」
タタが困り顔でそういう。
「分かった、嬢ちゃんはこっちに来い、兄ちゃんもだ」
「あっはい」
目の前の整備科の先生に連れられて、工廠の奥に行く。進んでいく傍ら、数多くの学生が先生らしき人物の話を一生懸命聞いており、人型のエインヘリアルや重機タイプのいわゆる旧式エインヘリアルなど、さまざまなエインヘリアルがこの工廠で整備されていた。工廠の奥にはモノクルをかけた別のドワーフの先生もおり、彼はデバイスやコラテラル・クリスタルのような貴金属加工を教える先生らしい。
「おう、また例年通り、こいつらのエインヘリアルの初期設定が始まらねぇ、見てやってくれ」
「りょーかい」
モノクロをかけた先生はまずタタのデバイスを受け取ると、デバイスを専用の装置に設置し、そのままその装置に付随しているタッチパネルを空中投影し、操作を開始した。
「おや、デバイスの認証機能が誤作動を起こしていたようですね。まあよくある問題です、パパっと直しちゃいましょう」
あっと言う間に先生はキーボードでのタイピングを終わらせ、彼女へ返し、ここで初期設定を済ませてしまおうと言った。タタは先生に言われるがまま、エインヘリアルを起動する。すると、先ほどとは違って、換装が完了すると、そのまま初期設定が開始した。先生は満足げに最後まで見届ける。タタの武器は重量のあるブーツと手甲。思ったよりもアグレッシブルな武器だった。
「なるほど、見た目と違ってなかなか強い武器をお持ちのようだ。どうやらエインヘリアルもその落差に驚いたようですね。少年、次は貴方です」
クロウも同じように先生に渡す。専用の機械にセットし、投影されたキーボードを使ってクロウのデバイスの不調を調べる。
「む?むむ?ん?これは....、君、彼女を送ってあげなさい」
「はい先生」
助手の研究生のような人にタタを教室に送り返すように言った目の前の先生。彼らが部屋から出たのを確認すると、先生は左手で<施錠><防音>の2つの魔法を部屋にかけた。
「私の名前はシュトロハイム・イルルファレノ。イルルファレノ家の三男にして<貴石爵>の冠名を頂戴した人物だ」
「え?あっはい、初めまして、イルルファレノ先生、俺はクロウ、一般科一年生です」
急に物凄く正式な挨拶をされ、戸惑うクロウ。
「クロウ君か、やはり君が....?」
「え?なんですか?なんかやらかしました?」
「私は貴石爵と言われているが、もともとは魔導コードが専門でね。旧式のエインヘリアルから新式のエインヘリアルを開発するとき、私も少し携わっていた」
はえー、道理であんな熟練した方法でデバイスの履歴みたいなものを見てたわけだ。
「旧式の最深の最重要コードの一部がどうしても解読できなくてね。旧式エインヘリアルのエンジン部分の情報だった。名前すら分からず、ただ旧式に権限不足と言われたよ。<クロウ>じゃないと」
「へー!そうなんすね!だだだだれなんすかねそのクククロウって人物は」
噛んだ。終わった。ダメだこりゃ。
「君だったのか、機械を統べる王。開発者にして最高管理者」




