リリィへのカミングアウト
チェランとの戦いが終わった時、既にセシリアには連絡を入れており、ハウントウルフも試験に参加していた3年生を無事に全員連れて帰ってきていた。重傷者はいるもの、致命傷はなく数か月入院すれば治る程度だった。リリィも安全に大森林の入り口で待っていたセシリアに引き渡し、彼女は暫くセシリアのいる王宮でケガの療養と事情徴収をすることになった。そしてアリアンナだが、未だにロゼの第一病院で暴れまわっており、「リリィ様が!リリィ様がぁ!」と言って、リリィが無事に王宮に帰ってきたという知らせを聞くまで、毎日医者に致死量の鎮静剤を打たれていたらしい。逆に大丈夫?それ?鎖の数を戻すと、一気に体の疲れが出てしまい、全て終わった後自分の部屋に戻り、なんとか眠りそうな意識をつなぎ留め、シャワーを浴びた後、意識を失ったようにベッドで眠った。
翌日夜、どうやら丸1日中眠っていたようで、鎖を外した事による急激なステータスの増加のせいか、それとも深淵魔法の使い過ぎのせいか、クロウは珍しく身体が重たいと感じていた。
「うぅ....ぐああ」
「おはようクロウ」
「うおわぁああ!?」
安全安心の特待生室だと言うのに、クロウの寝ている間に思いっきり侵入されていた。声の主を見てみると、セシリアとリリィだった。
「こんばんわ、かなりお疲れだったようね、とりあえず服を着てもらえるかしら?」
「え?あっ」
疲れすぎてシャワーを浴びた後、パンツだけで眠ってしまった。恥ずかしっ!急いで部屋着に着替えるクロウ。リリィは顔が真っ赤になりつつも、指の隙間からしっかりとクロウの着替える様を脳裏に焼き付けていた。
「それで、今日はどうしたんだ?」
「ええ、昨日の事よ」
「チェランか」
「ん?どうして名前を、あっ、クロウは<鑑定>を持っていたわね」
「最高Lvだからなんでも見えるぞ」
「それ失われた魔法だから軽々しく使わないでね」
「え!?入学式の時になんか機械で測ってたじゃん!?」
「あれは学園の博士3代の力でどうにか再現した鑑定LvⅠよ。3億金貨くらいかかったわ」
「!?」
驚愕だった。<鑑定>は別にプレイヤーしか習得できないスキルではなかったはず、これもエインヘリアルの普遍化の影響なのか?
「お、あ、セシリア様、それで、私はどうすれば」
「あらリリィ、彼の前ではお母様でいいわよ?別に彼はそんなの気にしないわ」
「あっ、はい、それでお母様、なぜ私はここに?」
セシリアはリリィの方を見て、その頬をぷにぷに揉んで遊ぶ。
「お、おかあしゃま!」
「あらごめんなさい、つい可愛くて」
そんな2人を見て、クロウはこれがセシリアの<聖母>としての魅力なのかと納得した。彼女のリリィを見る優しい目は、本当に母親そっくりだった。
「そうそう、昔から私がよく寝る前に話していたじゃない、だから夢物語ような感じだったと思うんだけど、今回、チェランの一件で彼の本当の力はなんとなく分かったんじゃない?」
「はい、あまり実感はないですけど、私の傷が一瞬で治ったり、魔王チェランを倒した事は分かっています」
「そうそう、だから貴方にはクロウの本当の事を知っておいてほしくて」
「本当の事?」
「ええ、彼の名前はクロウ、私が昔あなたに語って伝えた伝承の大魔王。この世で最強のプレイヤーにして、北星領の大公、そしてエインヘリアルの開発者よ」
そこまでセシリアが言って、リリィは少しだけクロウの実力を理解した気がする。チェランとの戦いでクロウが見せたその強さは、あまりに現実とかけ離れすぎて、未だに夢だったんじゃないかと思うほどだが、大公と言う、公爵と同等かそれ以上の爵位を持つ人間、そしてエインヘリアルの開発者と言うこの点から、リリィは彼が自分よりもはるか上にいる人物なのだと気付いた。
「そう、だから、リリィ、貴方良い友人を持ったわね、彼の実力はお墨付きよ」
「あ、ありがとうございます」
「うーん、まだ本心から納得はしてなさそうだけど、まあいいわ、今度彼にはアリアンアと戦ってもらおうかしら」
「嫌だが!?」
手が滑ったとか言って、本気で殺しにかかってきそうだもんあのメイド
「そんな事よりもクロウ!お腹が空いたわ!夜食にテレビも見たいからどうにかしなさい!」
「無茶苦茶言うなよお前!早くリリィ連れて宮殿帰れや」
「アリアンナー!クロウが虐める~」
「クロウ!」
勝手に玄関のドアが開かれ、外から激おこアリアンナが入ってきた。
「リリィ様を助けてくれた事には感謝しているが!セシリア様を虐めるのは許さんぞ!」
「わー!何もしてない!わかった!作るから!ちょっと待ってろ!」
クロウはいつの間にか体の辛さも気にならず、勝手にソファに座ってセシリアとアリアンアがリリィを間に挟み、テレビを見ている様は、本当の家族のようで、とても心温まる光景だった。
「うーん美味しいこのポテト!」
「このナゲットと言う食べ物もなかなか」
「クロウ様、メロンソーダのフロート、おかわりを」
夜食のスナックと言う事で、塩じょっぱいフライドポテト、カラッと揚げたチキンナゲット、そしてコーラフロートとメロンソーダフロート、後は食後のソフトアイスクリームも一応用意した。
「はーお腹いっぱい、もう動けないわ」
「お母様、私もです」
「お風呂をお入れいたしましょうか?」
「えー、いいや、もう宮殿に帰るわ、クロウありがとうね!また来るよ」
「おう、またな」
「リリィはどうする」
「私は、寮に戻ります」
「分かったわ、それじゃ」
セシリアは屈強な護衛と共に、飛行車に乗って宮殿へと帰っていった。リリィとアリアンナはと言うと...
「その、クロウ様、私を助けていただき、本当にありがとうございました、この御恩は、一生忘れません」
「クロウ、リリィ様を助けてくれた事、感謝する。ありがとう」
リリィはそれだけ言うと、真っ赤な顔で飛び出していった。アリアンナもリリィを追いかけつつ、小さな声でクロウに礼を伝える。
「打ち上げ、いつにしようかな?」
こうして、中間考査のドタバタ劇は、ようやく終わりを告げた。




