リリィ行方不明
中間考査当日、クロウは予定通りフレイムガトリングを使用して、試験監督官と周りの人を驚愕させていた、後ほど先生に魔導コードを公開してほしいと言われ、何やら利権をどうのこうのと言われたので、後ほど決めると言った。その日の授業後、クロウはシャルと合流して、リリィのいるいつもの庭園へ行き、そこで打ち上げをする予定だ。クロウは飲み物を、シャルとフェリスは飾りを、リリィとアリアンナは食事を用意することになっている。なのでクロウはとりあえず2人と合流し、リリィには買い出しに行くとだけアプリでメッセージを送り、全員でロゼの街に来ていた。制服で来ればあらゆる店で学割が利くので、クロウは近くのスーパーで炭酸飲料やミルクティー、オレンジジュースや炭酸水などを買い、支払いを済ませてアイテムボックスにしまう。シャルとフェリスもにこにこでキラキラする飾りや可愛い小物を両手一杯に購入しており、彼女達もクロウのアイテムボックスに全部突っ込んだ。
「後はリリィ達か」
今だ返信は来ていない。アリアンナも同伴しているはずだから、大丈夫だと思うが、朝8時に出発して午後4時になってもまだ帰ってきてない所を鑑みると、少し心配になる。ドアにカギがかかっており、恐らくまだ2人とも庭園に来てない事から、まだ実戦訓練中だと考えられる。フェリスに連れられて、貴族科の職員室の前で待機する。彼女は貴族科1年生と言う事もあり、職員室には簡単に立ち入ることができる。暫くすると、フェリスが扉を開けて職員室から出てきた。だが、その顔は芳しくなく、どうやら3年の学年主任に聞いても、引率の先生とリリィのいるクラス含め、誰も帰ってきていないらしい。おかしい。十二分におかしい。明日明後日と考査後は休校日なので、とりあえず解散して後日改めて打ち上げをすることに。クロウは一度自分の部屋に戻り、荷物を卸すと、そのままセシリアに連絡を入れた。
(セシリア、今日は3年の考査日だったが、もうすぐ夜だと言うのにまだ3年達が帰ってこない)
(なんですって?試験だからと言っても、大森林での野営は禁止しているわ。おかしいわね)
(不味いか?)
(不味いわ)
(そっちから動かせそうな人はいるか?)
(相応の探索隊はいるけど、流石に彼らの動かすにはまだ理由が足りないわ。それにアリアンナもいるんでしょう?彼女がついているなら大丈夫じゃない?)
(そうだと良いんだが...)
(ん?ちょっと待って、誰か来たわ)
(ああ、また後で)
クロウはセシリアとのテレパシーを切って、戦闘着に着替えた。メニューからロゼの大森林と入力し、大方の場所を特定する。かなり学園のある中心地から離れているが、大型飛行車を使えば、数時間で着く距離だ。夜戦用の服に着替える。特殊塗料により、あらゆる光を飲み込むその黒色は、夜に溶け込むのに最適だった。
(クロウ!聞こえる)
(聞こえる。どうしたセシリア)
彼女の焦った声が聞こえてくる。
(想定外のモンスターが突如出現したみたい。事前に騎士団に見回りをさせたはずだけど、不味いわ)
(分かった、すぐ行く)
(アリアンナはそのモンスターに負けて、今血塗れで帰ってきた。詳しいことは彼女が口を開けるようになってから話すわ)
(そんなにか!?分かった、今すぐ向かう)
再びテレパシーを終了し、<渡り鴉>に換装する。そのままベランダの窓からロゼの大森林へと全力で飛行する。
***
「ちっ、逃げたか」
<略奪の魔王>アルイタ、7人の息子の一人、<嫉妬>のチェラン。他者を模倣し、なり替わる能力を持つ彼は、モンスターに化け、本物の3年生の引率を殺害、彼に偽装し、学園の3年生をロゼの大森林奥地まで連れてきていた。巨大なロゼの森林奥地は本来の試験場からは程遠く、騎士団も見回りを控えるほど、鬱蒼としている場所だ。チェランが今回やってきた目的は一つだけ、セシリアの皇女であるリリィ・サウフォードの誘拐、そして身代金の要求だ。アルイタの率いる蛮族は、既に100万を超えようとしており、クロセルべ以外の新興国家や他の並みの小国ではもはや腹を満たす事が出来なくなった。なので、大陸最大であり随一の大国であるクロセルべ王国についに牙をむくことになった。
「御神の加護を持って邪悪への罰を!<神罰>!」
リリィは習得している中で最大の神聖魔法を使う。魔王には神聖魔法を、古代から言い伝えられてきた常識だが、アルイタは以前の戦いで神聖性を獲得している。そしてそれは彼の子供達にも遺伝しており、天からの光に焼かれるはずだったチェランは、表皮を焼かれる程度だった。
「ちっ、いてぇじゃねぇかこの野郎!」
容赦なくリリィの腹部に蹴りを入れるチェラン。他の学生は既にバラバラに逃げ出しており、奥地で彷徨ってモンスターの餌になるか、飢死にするかでまともな死に方をしないだろうと思ったが、必要な人間はリリィだけだったので、彼は特に気にかけてなかった。近くの木に激突してようやく止まるリリィ、チェランはテレパシーで誰かに連絡を入れているようで、その間にリリィはエインヘリアルに換装した。
「お?なんだそりゃあ?」
リリィは純白の鎧を纏う。神聖属性の素材と<断魔>と言う悪魔特攻の特性を持つリリィの専用機は、魔王軍特攻と言っても差し支えなかった。白と黄金を基調とした剣と盾を構え、リリィは更に神聖魔法も纏ってチェランへの攻撃を再開した。
***
「けっ、鉄の塊を着たところで、操縦者がカスだったら何の意味もねぇだろ」
20分後、リリィのエインヘリアルは既に全壊し、左腕と右足が折れたリリィはぼろ雑巾のように砕けた木々の間で息も絶え絶えになっていた。
「遊びは終わりだ、それでいいな?大人しくしてろ」
チェランは血まみれのリリィに近づき、彼女のぼさぼさの髪をかき上げ、彼女が意識を失っていない事と、まだ息をしている事を確認する。そして彼女の髪を掴んで引きずり、そのままロゼの大森林を抜け出そうとしていた。
「どこに行くんだ、クソ野郎」
「あぁん?」
チェランは声のした方を向く。後ろを振り返ってみると、真っ黒な戦闘服を着た一人の男が立っていた。
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