試験勉強その4
リリィの息も絶え絶えになってきた頃、クロウは召喚を止め、リリィとの模擬実戦訓練を終わりにした。
アリアンナはすぐにリリィの様子を見に行ったが、彼女は疲れているだけで、それ以外の異常はなかった。
疲れたリリィを見たアリアンナが、一瞬スカートの下のナイフに反射的に触れていたのには恐怖したが、特に何も変な事はしていないので、アリアンナも緊張を解いてくれたようだ。アリアンナこっわ、隙あらばナイフ投げようとしてくるじゃん。
「ありがとうございますわ、クロウ様、良い勉強になりました」
「いやいや、俺も少しだけ実戦経験があるからな、あんまり立派な事は言えないけど、俺の経験談だから」
本当である。実戦経験(三か国連合軍大虐殺、蛮族虐殺、邪教徒の召喚した魔物虐殺などなど)だけは豊富なクロウだった。日が落ちてきたので、皆それぞれ寮や自宅に帰ることになったが、なぜかクロウだけフェリスに呼び止められた。
「クロウ、ちょっと残って」
「え?なんで?」
「いいから!」
フェリスに引かれ、街灯の下のベンチに座る。
「クロウ、その、良かったら、あんたが前に作ったあの魔力球、また作ってくれない?」
「え?あ、ああ、いいけど」
「ありがとう!それで、いくら払えばいい?」
「え?いらないいらない」
「え!?要らないの?じゃあ代わりに何が欲しい?」
「???」
なぜか頬を赤らめて、こちらに寄ってくるフェリス。息が荒い、どうしたんだお前....
「別に良いって、友達だし」
「そう、なら代わりに」
優しく押し倒されるクロウ、彼女はクロウの腰の上にまたがり、トロンとした目をクロウに物欲しげに向けていた。
(!?)
そのまま勢いで服を脱ごうとするフェリス。急いで彼女の両腕を掴んでそれを止める。
「おい!フェリス、ここ外だぞ!そういう趣味があるのかは知らんが俺の前でやめ」
そこまで言ってクロウは彼女の異変に気付いた。
(過剰摂取か!)
彼女を掴んでいる両手が燃え上りそうなほど熱い。心なしか彼女自身も汗をかいており、呼吸は荒く、熱そうにしている。背後には何個も火の玉が顕現しており、恐らく魔力球の食べ過ぎてエネルギーが過剰な状態なのだ。このままではフェリスの服が燃えてしまう。彼女の名誉を守るためにも、クロウは行動に移すしかなかった。
(すまん!)
「吸精」
彼女の両手から過剰なエネルギーを吸収していく。火のエネルギーが両腕を伝ってクロウの中に入ってくる。
「あっ、ダ、ダメェ!」
「バカバカ!変な声出すな!」
このドレインと言う闇魔法、唯一の悪い点は、吸っている時、吸われている相手に幸福感と快感を与えてしまう点だ。メルティ曰く「そういうものだから仕方ないです」だそう。実際このドレインの魔法を改造しようとしても、幸福感や快感は苦痛に置き換えられるものの、消してしまうと魔法自体が成り立たなくなると言うなんとも困った魔法だった。フェリスは全く声を抑えられそうになかったので、右手で彼女を口を塞ぐ。そのまま右手からもドレインを続ける。
(あっやべ)
ドレインの快感は触れている場所から発生する。口を塞いでいる手でドレインをしたら、快感はほぼダイレクトに頭に届く。吸いだしてから数分後、彼女は口を塞がれつつも、ひときわ大きい声を上げ、体が数回跳ねた後、ばたりとクロウの方に倒れこんできてしまった。なるほど、気絶したようだ、今のうちに吸い出す量を上げる。やがて彼女の背中の火の玉が全て消え、彼女の全員も熱を帯びなくなった頃、彼女は顔をクロウの胸でごしごしをこすりつけ、寝ぼけた顔で身体を起こした。
「あえ?クロウ?」
「お、おはようございます?」
「え?!うえ!?」
フェリスは自分がクロウに跨ってる事にようやく気付く。そして急いでクロウから降りて、クロウに問いただす。
「あたしもしかして、酔った?」
「うん」
魔力過剰摂取による精霊体の暴走。通称、酔い状態。そんな状態に彼女はなっていた事にようやく気が付いた。
「わわわあたし何か変な事言ってなかったわよね!?ねぇ!忘れないさい!今までの事全部忘れなさい!」
一瞬で右手から火炎剣を発現させ、クロウに涙目で突きつけるフェリス。
「忘れます忘れます!熱い近い!待って!殺さないで!」
火炎剣を振り回すフェリスに追いかけられながら、その日の試験勉強は終わりを告げた。
それから1か月、毎日同じ内容で訓練をする4人。最終日近くにはシャルもデュラハンを圧倒できるようになり、リリィも反射的にエインヘリアルを展開するわけではなく、すぐに魔法を使って敵を倒せるようになっていた。フェリスはクロウと同じマナプログラミングのテストだったが、既にクロウと同じく合格できる範囲の魔法は完成している。




