試験勉強その3
***
強い。滅茶苦茶強い。目の前に立ちふさがるデュラハンは、クロウの旧式エインヘリアルのような、一撃で動けなくなるほど理不尽ではない。理不尽ではないが、私の刀技とまともに正面から打ち合えるその剣技は、本気で戦う私と拮抗するほど熟練していた。こう見えても戦闘力学園最高は伊達ではない。1年生の時に、当時の一般科の全生徒を叩きのめし、学園最強の名を得た。それからは、クロウに出会うまでは、正直毎日が退屈していた。だが、初めて彼と戦った時、上には上がいることを知った。そんな彼は、召喚術師という稀有なジョブを習得している上、こんなに良い相手を用意してくれてるなんて。
既に数時間、目の前のデュラハンと打ち合っているが、お互い致命傷を入れられず、延々とただ相手を打ち倒そうと、剣を交わしている。私の刀スキルも何度も発動しているし、奥義だって何度も使っているが、相手はそれを見事に防いでいる。
「あはははは!楽しい!楽しいぞデュラハン!もっとだ!」
桜花びらが荒れ狂うように、私の攻撃はより一層苛烈さを増した。だが、そんな楽しい時間も、急に動かなくなった私の両腕と両足をもって終わりを告げた。
***
シャルも生粋のバトルジャンキーでした。何だか親近感を覚える。分かる分かる。良い相手と戦うと、マジで嬉しくなるよな。精神的高揚に肉体が追い付けず、ついに地面に膝をついて動けなくなったシャルを見て、クロウはデュラハンの召喚を解除した。彼女は楽しそうに桜花を解除すると、満面の笑みで、汗も疲労も気にせずに、地面にそのまま仰向きに寝転がった。
「はぁ、はぁ、クロウ、また明日も、はぁ、デュラ、ハン、と、戦わせてくれ」
「おう良いぞ、それより動けるか?」
アリアンナもシャルの元へ、スポーツドリンクとタオルを持ってきた。体を起こしたシャルはそれを受け取ると、タオルで汗を拭き、一気にスポーツドリンクを飲み干す。数分後には動けるようになっており、シャワーを浴びてくると言って、アリアンナに更衣室まで案内された。
「ちょっと!今の何なのよ!て、あんた!」
「あ、フェリスじゃん。よっ」
いつぞやのツンデレ火炎精霊娘ことフェリスがいた。
「なんで平民のあんたがここにいるのよ!?」
「なんでって....」
「私がお連れしました。何か問題でも?」
「な!リリィ様!?」
リリィはフェリスに睨みを聞かせる。フェリスも流石に皇女には怖気づいたようで、小声ですみませんと謝罪していた。
「平民などと差別は良くないですよ、フェリス・ファガンさん?」
「ふえっ?なんで私の名前を?」
「ファガン家には先代からセシリア様がお世話になっています。特にベリュード火山鎮圧戦では目覚ましい活躍を見せています。当然、そのファガン家の才女の事ならば、知っていますよ」
「えへへ、すいません」
家を褒められたのが嬉しかったのか、それとも自分を褒められたのが嬉しかったのか、彼女は嬉しそうに謝罪した。2人が談笑している間にシャルとアリアンナも戻ってきたので、クロウは改めてフェリスを紹介する。
「こちらはフェリス・ファガン。火のファガン家の才女にして、貴族科の1年生です」
リリィが付け足し説明をしてくれた。同級生だったわ。最後はリリィの実戦訓練となった。フェリスも折角だから見学すると言って、シャル達と同じく模擬戦闘場の外でリリィを見ている。
実戦訓練とは、本来はロゼの東にあるロゼの大森林でモンスターを数体狩ってくるのが3年生の中間考査の内容だが、リリィはシャルとデュラハンの戦いぶりを見て、クロウにも数体、彼女のために丁度良いモンスターを召喚してほしいと言った。
「リリィのジョブってなんだ?」
「うーんと、大司教様曰く、<聖女>だそうです」
えー、絶対、神聖魔法の使い手じゃん。今のクロウのステータスで召喚できるモンスターもしかしなくても全員瞬殺できるじゃん。
「そういえばリリィって、ジョブに関する訓練みたいなのはやったことある?」
「いや、特にはないですね。ずっと私の専用機であるエインヘリアルの訓練ばかりでした」
「そうか、ならリリィ」
彼女の目の前で、そう言いながら戦闘区画に足を踏み入れるクロウ。
「俺が相手をしよう」
ロゼの大森林をフィールドに設定し、リリィとクロウの実戦訓練が始まった。戦闘場内ではリリィとクロウがおよそ30m離れた場所で向かい合っており、外ではアリアンナとシャル、そしてフェリスが観戦している。
「いい機会だから、みんなに言っとく。エインヘリアルに夢中になるのもいいが、ジョブ関連の訓練を受けるのも大事だよ?例えば」
そう言いながらクロウは<高速詠唱>スキルを使う。早送りのようにクロウの口が動いたと思うと、足元から4つの召喚陣が出現した。中からはシャルが戦っていたブラッドハウンドやレイジエイプ、さらにはアイロンタートルやホーンラビットも出てきた。リリィも自分に向かってくるモンスターを見て、急いでエインヘリアルを呼び出そうとする。だが、それよりも早くブラッドハウンドが噛みついてくる。難なく躱したリリィは、すぐにエインヘリアルに換装する余裕はないと判断し、両手に神聖魔法を構えた。
「確かにエインヘリアルは便利だけど、軍事用や長時間稼働用のエインヘリアルじゃなければ、ずっとエインヘリアルを展開したまま行動するのは不可能だ。新式エインヘリアルは使用している時、使用者のMPを消費し続けるからな」
クロウの言っていることは本当である。旧式のエインヘリアルは魔王の心臓と言うMP生成機を内蔵しているため、無限稼働できるが、その分重鈍。新式は軽量化を追求するために、使用者のMPを利用する代わりに、魔王の心臓と言う巨大なエンジンを外したのだ。
クロウの説明を聞きつつ、神聖魔法を具現化させ、右手の聖剣と左手の聖槌でモンスターの攻撃を躱しつつ、的確に仕留めていくリリィ。冷静沈着ながら、躊躇いの無いその攻撃は、シャルも舌を巻いていた。
「だから、大森林なり、ダンジョンなり魔塔なり、いざと言う時にエインヘリアルを展開するために敵の攻撃をさばけなかったり、必死にエインヘリアルを展開するために命を落とすなんて事があったら本末転倒だ。だから、こうして、」
リリィに休む間を与えず、次は少し強い、バトルミノタウロスや、ツインブレードラプターを召喚する。
「いざっていう時にまずは生身でも戦えるようにしなければならない。そんな時の最大の武器が、ジョブだ」




