試験勉強その2
リリィはアリアンナに目配せすると、彼女は11階なのに構わず柵から地面へと飛び降りた。シャルは驚愕して柵の下を見下ろしていたが、すぐに飛行車がホバリングしながら3人のいる高さまで上がってきた。
(すげー、空飛ぶ車だ)
飛行車は文字通り飛行機能が付いた車、同じ車種でも、飛行車ともなれば2倍の値段がする。アリアンナはリムジンの飛行車の扉を開け、全員に乗るように言った。
貴族区。クロウ達が普段いる区画は一般区画と言われており、反対にリリィ達がいる区画は貴族区、もしくは特区と言われている。質素な一般区とは違い、何から何まで高級尽くしなこの区画は一般区にはない、多大な設備維持費を貴族家系の学生達に請求している。その代わり、彼らの区画はさまざまな品格の高く、便利なアイテムやあり、まさにノーブルと言った感じの区画だった。駐車場に着陸し、そのまま徒歩で第7模擬試験場まで向かう。一般区画にもこの模擬試験場はあるが、待ち時間800分と大詰めだったため、リリィの好意に甘えて、貴族区の模擬試験場に来ている。4人が模擬試験場に入ってから、軽くざわめきが起きた。多くは一般科代表とも言えるシャルへの尊敬、皇女リリィと千切将アリアンナに会った歓喜と、<番長>クロウへの恐怖と嫌悪だ。
(番長って言うな!)
番長を名乗った覚えはさらさらないクロウだった。
と言う事で、まずはクロウの模擬考査を行う。考査当日に使われるものとそっくりの機械の前に立ち、クロウは機械に掌をかざす。現在のMP量は530。そして先ほど作った<フレイム・ガトリング>をデバイス越しに発動する。MP量は510。そして5秒間だけ的に向かって打ち出す。ドドドドと言う発射音と、的に当たった時の爆発音が響き、他の貴族科の一年生達は動きを止めてクロウの方を見ていた。5秒後、フレイム・ガトリングを解除する。現在のMPは450。530-450で消費MPは80。的である威力計算機は8000を表示しており、シャルとリリィ曰く今のままなら絶対に満点合格すると言われた。
次はシャルの模擬考査を行う。巨大な貴族区の模擬試験場の中央にはエインヘリアルで戦闘をする用の会場も区切って用意されており、既に何組かは模擬戦闘を開始していた。他の2年生達は空を飛び、近接系のエインヘリアル同士、空中に立体的に移動しながら拳を交えていたり、遠距離系のエインヘリアル使いは、流れ弾を防ぐ巨大なバリアのある戦闘場内で銃や魔法を撃ち合っていたり、近接と遠距離の戦いならば、遠距離エインヘリアルは接近されるのを防ぎながら相手の急所を狙ったり、近接系のエインヘリアルは物陰や飛行して遠距離攻撃を躱しつつ、一撃で相手を仕留めようとしていたり、苛烈な戦いを繰り広げていた。
「では、これを使いましょうか」
リリィは端にある一番巨大な模擬戦闘場を指差した。既に着替えを終えたシャルは、戦闘場に一足先に入り、桜花に換装を済ませてある。歴年の2年生の試験は、だいたいブラッドハウンド3体かレイジエイプ2体だったので、まずはブラッドハウンド3体から始める。ホログラム投影されたブラッドハウンドは、連携してシャルに襲い掛かるが、あっと言う間に3体とも切り伏せてしまう。レイジエイプ2体も少しいい勝負をしたが、数分後には両断されていた。
「シャルもこれなら余裕で合格じゃない?」
「ああ、問題ないだろう」
実際に魔王軍と戦ってきたアリアンナもそういう。彼女の言葉は誰よりも説得力があるだろう。クロウは正直、これだけでは簡単すぎると思った。
「魔王軍か...シャル、もっと強い魔王軍と戦いたくないか?」
目にもとまらぬ速度でアリアンナがナイフをクロウの首に突きつける。今回は本気で殺すつもりらしく、1ミリでも彼女がナイフを動かせば大動脈が真っ二つだ。
「クロウ、その言葉の意味を説明しろ。場合によっては貴様を魔王軍の手下として即刻この場で処刑する」
「アリアンナ!」
リリィも珍しく本気で焦っているようだ。
「<召喚術師>っていうジョブを知ってるか?」
嘘は言っていない。元々クロウのジョブは召喚術師だった。ただアプデにアプデを重ねた今、みんな生まれる時にジョブを貰ったり、経験を積めば教会やギルドで新しいジョブを習得できるが、エインヘリアルの方が簡単で手間暇かからないので、ジョブを生かして戦うという概念そのものが希薄化している。
「なるほど、つまり貴様はプレイヤーで、召喚術師なのだな」
「そんな所だ」
かくかくしかじか、全部話す。リリィとシャルはクロウがプレイヤーと聞いて少し凹んでいたが、すぐに目を輝かせた。
「と言う事は、クロウは魔王軍のような悪いモンスターも召喚できるのか?」
「うん、できる」
もちろんできる。なんなら鎖を数本解除すれば当代の魔王本人すら召喚して使役できる。しないけど。
「よし、じゃあ私といい勝負をしそうな奴を頼むよ」
「よし来た」
クロウはそれっぽく詠唱をすると、シャルの前方に黒い魔法陣が現れる。黒い靄と雷が魔法陣から現れると、頭のない黒い鎧が肩から出現した。威圧感のある黒く禍々しい頭の無い騎士は、左手に持った悪魔のような頭部を自らの首に嵌めなおすと、背中に履いていた巨大な黒色のフランベルジュを抜いた。
「シャル~、魔王軍の先鋒の一人、<魔将>デュラハンだよ。並みのデュラハンより強いから本気で戦ったね」
デュラハンは目の前のシャルを敵と認識すると、<イビル・クライ>というデバフを付与してくる咆哮し、2人の戦い火蓋は切られた。




