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勘違い魔王のVRMMO征服記  作者: 愛良夜
学園都市ロゼ編
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腰が抜けてしまったシャル

霧が晴れ、模擬戦闘場のライトが再び戦闘場に光を差した時、そこには無傷のまま口から泡を吹いて倒れていたり、地面に転がるヤンキーの取り巻きと、ボスヤンキーの胸倉を掴み上げているクロウだけだった。光の中でようやく観客にいる人含めて全員がクロウのエインヘリアルを認識する。黒いすり切れたフード付きコートを羽織り、白い灰のような全身と髑髏を模したヘルメット。両手の手甲は白と黄色が混じった切り出された硫黄石のようになっており、左手で骨と血肉を塗り固めて作ったような、見るだけで冒涜的な大鎌を肩に担いでいた。クロウは黒いフードを羽織ったまま、ボスヤンキーを場外に放り、観客席で丸まっている新入生達を眺める。そして最後に端で座っていた桜花の方を見るが、岩の上には座っておらず、なぜか岩の後ろでぶるぶる震えていた。


「シャル?」

「ひっ!?」


しまった。<黄泉渡し>を着たままだから、発せられる声に<恐怖LvⅧ>が自動で付与されるのを忘れていた。急いで黄泉渡しを解除し、黒い戦闘服のまま岩陰へ向かう。いつの間にか桜花も解除し、腰を抜かしているシャルに話しかける。


「大丈夫?」

「あ、ああ、クロウか。すまない。腰が抜けてしまった」

「立つのも無理そうか?」

「そのようだ」

「分かった、家まで送ろうか?」

「いや、大丈夫だ、とりあえず医務室....は無理そうだな」


よくよく見れば冷や汗で彼女はぐっしょりになっている。どこか適当なベンチかソファでも思ったが、このまま風に吹かれては風邪を引いてしまう。


「困ったな、よし、シャル、俺の部屋来ないか?」

「えぇっ!?」


他の医務室の先生や新入生は全員医務室に人を運んでいるし、シャルの女友達とかもまだ知らないし、とりあえず特待生の部屋なら防音もシャワーも完備しているので特に問題無いだろう。いや生徒会長を連れ込むのは大問題だが、これも仕方ない。クロウは<渡り鴉>という漆黒の新式エインヘリアルに着替え、彼女をお姫様だっこしたまま、模擬戦闘場の外に行き、背中の羽を大きく広げて空へ羽ばたいた。黒い大きな翼を持つ鴉は、一部の国では滅びと破滅を齎す魔王の先兵だとか言われてるらしいが、まあ大丈夫だろう。


***


「ああ!あああ!空に!空に!」


図書館で空を眺めていた貴族科の少女が一人、ティーカップを落とした。その顔は恐怖と絶望で染まっており、後ろの椅子に躓いて地面に尻餅をつきながらも、震える手で空の黒い鴉を指さしている。彼女は西方の亡国の王女。クロセルべ王国からさらに西の、今は<略奪>の魔王に滅ぼされた小さな王国の王女だ。曰く、人間大陸唯一の国はクロセルべ王国であり、その他の国は全てセシリアが併合するか、魔王に滅ぼされているらしい。そんな彼女は、今でもはっきりと覚えている。魔王領からやってきた黒い鴉が、彼女の国に災厄と病気を齎し、一晩立たずに国は魔王によって滅ぼされたという。数少ない生存者は、全て<大英雄>アマネに救われ、セシリアにこうしてロゼの学園都市で保護されつつ傷を癒していた。のに、クロウのおかげでまた一人の人間に多大な恐怖とトラウマが埋め込まれたという。


***


なんとかカードキーをかざして部屋のロックを解除し、彼女を自室の椅子に座らせる。エインヘリアルも解除して、いつもの私服に着替え、先に湯を沸かす。シャルはまだ縮こまっているようで、当分動けそうにないので、ブランケットを彼女に被せ、温かいお茶と気が安らぐ甘いチョコレートを渡した。暫くすると、彼女はお茶を飲んでチョコレートを食べだしたので、ほっと一息。それと同じくらいの時期に風呂も沸いたので、彼女に先に風呂に入るように言う。一応買った入浴剤を3つほど彼女に渡し、好きなやつを使ってくれと言った。

彼女は「ありがとう」とだけ言うと、浴室の扉をぴしゃりと閉じてシャワーを使いだした。とりあえず腰は治ったようで、これなら彼女も歩いて帰れそうだなとクロウは安心した。


***


(あれぇええ!?私なんでクロウの部屋に入れられてるの!?!?!?)


更衣室のドアを閉めて初めて思考が動き出した。


(気が付いたら年下の男に連れ込まれてるんですけど!?!?)


この上なくテンパっている生徒会長だった。


(えっ!?なんでシャワー!?しかも入浴剤まで!?3つも!?3回私を風呂に入れる気!?)


まるで話を聞いていない処女丸出しの会長でもあった。


(しまったぁ!下着があんまりかわいくない!)


洗浄と清潔と乾燥をしてくれる更衣室の洗濯機に汗でびしょびしょになった自分の服を入れつつ、シャルの自分の熊さんパンツを投げ入れた。終了予定時間は30分と言っていたので、その間クロウが入れてくれた風呂に入ることにした。まずはシャワーを浴びる、身体中を温かい水で濡らし、シャンプーを探す。クロウが使う男物以外にも有名な女性用のシャンプーとコンディショナー、それからボディソープがある事に気が付いた。


(はーん?さては常習犯か???)


少し腹が立ったシャルだが、更衣室には女物の歯ブラシなど他の女性用品がなかったので、恐らくさきほど風呂をいれてくれた時に用意してくれたのだろうと思い、やっぱりドキドキしてきたシャルであった。髪も体も洗い終えたシャルは、ピンクの桃の香りがする入浴剤が完全に溶けたのを確認して、シャルはゆっくりと湯に浸かる。よくよく見ると、クロウは小さなアヒルも浮かべてくれていたようで、シャルはえへへ、アヒルさーんと笑いながらちょうど足を延ばせるくらいの大きさの浴槽で先ほどの恐怖を忘れるようにリラックスした。


***


30分後、しっかりと風呂に浸かり、洗って綺麗に乾燥した戦闘服に着替えた彼女が更衣室から出てきた。


「シャル、もう大丈夫か?」

「あ、あああ、ああだだだ大丈夫だ」

「???」


湯あたりしたか?と思うほど彼女は赤くなっており、「ま、また明日」というと、彼女は部屋を飛び出して、恐らく自宅の方へエインヘリアルで飛んで帰っていった。

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